祝! 50周年 仙台フィルハーモニー管弦楽団〜団員二人が語る「これまで、今、そして未来」
仙台フィルハーモニー管弦楽団が2023年11月に創立50周年を迎えるのを記念して、『杜のオーケストラ 仙台フィル50年の物語』と題した本が音楽之友社から刊行される。著者は地元紙『河北新報』の元記者で市民オーケストラ時代から見守ってきたジャーナリストの須永誠氏。ここでは出版に先立ち、現役メンバーであるコンサートマスターの神谷未穂、ヴァイオリン奏者のネストル・ロドリゲスのお二人に仙台フィルの歩み、現状、今後の展望などを自由に語っていただいた。
1958年東京都生まれ。81年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業、(株)日本経済新聞社へ記者として入社。企業や株式相場の取材を担当、88~91年のフランクフルト支...
厳しかった歴代指揮者陣 彼らのおかげで現在がある
——ヴァイオリンのお二人は入団して何年ですか。
神谷 私は13年目です。
ロドリゲス 私は42年目です。プロ化(1978年*) したあとの入団で、福村芳一さんが常任指揮者の時代でした。
*1973 年に宮城フィルハーモニー管弦楽団として結成、78 年に社団法人化。 その後 89 年に現在の仙台フィルハーモニー管弦楽団に改称。
——創立50周年の今年4月、指揮者体制も変わりました。1989年に初めて共演、2018年にレジデント・コンダクターとなった高関健さんが常任指揮者、その弟子でもある若手の太田弦さんが指揮者です。
神谷 次の60周年に向けての飛躍のきっかけと考えています。高関さんは楽譜の読みの深さにおいて、世界的にもトップレヴェルのマエストロです。どの音がそこにくれば、こうした音になるのかが脳内で明確に描かれていて、すばらしいバランスが生まれます。これまで全国各地のオーケストラから愛されてきたのも理解できますし、仙台でも地元に深く根を下ろそうと、積極的に動かれているのが頼もしいです。仙台フィルの楽団員は長くジュニア・オーケストラの指導に当たってきましたが、高関さんはその指揮も引き受けてくださいました。
太田さんのスコアの読みも恩師譲りながら、出てくる音楽は当然異なるので、とても楽しみです。
桐朋学園大学、ハノーファー音楽大学を経て、パリ国立高等音楽院にてジャン・ジャック・カントロフに師事、最高課程を修了。フランスのシャンブル・フィルの主要メンバーとしても活躍するほか、ソリスト、室内楽奏者としても活動。現在、仙台フィルハーモニー管弦楽団コンサートマスター、横浜シンフォニエッタコンサートマスター、千葉交響楽団特任コンサートマスター、宮城学院女子大学特命教授。
太田弦指揮 仙台フィルハーモニー管弦楽団によるドヴォルザーク:交響曲第7番
ロドリゲス 42年間で歴代常任指揮者の全員と仕事をしてきました。音楽総監督だった芥川也寸志さんは自作以外の作品にも厳しい指揮者でしたし、同じく作曲家でもある外山雄三さんはとても耳がよく、すごく厳しかったので、メンバー全員がミスを指摘されないように頑張りました。
福村さん、籾山和明さん、円光寺雅彦さんと歴代指揮者のみなさんが厳しく鍛えてくださったおかげで、いまの仙台フィルがあるのだと思います。
パスカル•ヴェロの情の深さに感動
——2006年から18年まで常任を務め、現在は桂冠指揮者のフランス人パスカル・ヴェロさんは指揮者チームに残ります。
神谷 すべてに統制がとれて厳しい指導に徹した外山先生のあと、団員それぞれの力を自然に引き出す真逆のタイプのヴェロさんが現れ、それまで抑えられていた部分がワーッと爆発したのはたしかです。お人柄がすばらしく、仙台のお客さまにも団員にもとても人気が高いのです。
東日本大震災で大きな被害に遭った際にもすぐ仙台に現れ、唱歌《ふるさと》の歌詞を真剣に学び、日本語で歌われる姿に接した際は心底「ああ、こういう人とつらい時期を一緒に過ごせてよかった」と思いました。
——本拠地での演奏会や仙台フィルが協奏曲の管弦楽を担う仙台国際音楽コンクールの本選などを取材すると、地元の聴衆が醸しだす客席の温かな雰囲気にも魅了されます。
神谷 大阪や沖縄のオーケストラにゲスト・コンサートマスターでうかがったときに体験するような熱いブラヴォーはない代わりに、終演後のロビーでお客さまをお見送りするときに熱心な感想を述べてくださるなど、内に秘めた温かな応援の東北人気質がここにはあります。私は神奈川県の出身でせっかちなのですが、いまでは目先より遠くを見据えた仙台の“おっとり感”を気に入っています。
コンクールに関していえば、かつて自分が受けた経験に照らしても10年以上前の受賞者、上位入賞は逸したけれど仙台フィルのメンバーや聴衆に気に入られたソリストを何度も招くのは異例。この情の深さも、特別です。
ロドリゲス 震災後のアウトリーチ活動を通じ、メンバー一人ひとりの顔が市民に浸透しました。もう“仙台ビル”とか、間違われることはありません。
エルサルヴァトル(中米)生まれ。エルサルヴァトル国立芸術センター卒業後、1979年エルサルヴァトル国立交響楽団に入団。1981年、居を日本に移し、宮城フィルハーモニー管弦楽団(現仙台フィルハーモニー管弦楽団)に入団、現在に至る。室内楽においてとくに弦楽四重奏に力を入れている。2024年、仙台フィルを退団予定。
50年のその先へ——次世代との未来
——オーケストラの世代交代は進んでいるのですか。
神谷 前身の宮城フィルは「日本で最も若い」と呼ばれましたが、現在の仙台フィルはヴェテランぞろいの大人のオーケストラに成長しました。
ロドリゲス 宮城フィル時代を知るメンバーは今後2〜3年でいなくなってしまいます。上手に世代交代が進められるといいですよね。あと、仙台フィルのフランチャイズ(本拠地)となる新しいコンサートホールの建設計画が、8年後の2031年のオープンで進んでいるようです。仙台は東北新幹線で東京からも近いですし、地元のお客さまはもちろん、多くのかたに仙台フィルを聴きに来てもらいたいです。
神谷 私は仙台フィルと同い年、今年10月で50歳になりました。もう一人のコンサートマスター、西本幸弘さんもヴァイオリン群で最も若いとはいえ、かれこれ40歳代です。いろいろなマエストロの薫陶によって、仙台フィルも私も“大人”に育てていただきましたが、今後は若い世代の奏者をオーディションその他のかたちで積極的に迎え入れ、お互い刺激し合っていきたいと考えています。
聴衆の若返りという点では高校生以下を対象に無料席を設けたり、ゲネプロを公開したりといった取り組みも始めました。
ロドリゲス 13年前まで、私はメンバーの平均年齢より下でした。いまは同じか上にいて、来年の3月で仙台フィルを卒業します。以前に比べるとお客さまの支持はあつく、昔はよく『なんのお仕事ですか?』ときかれましたけど、いまはみんなが私のことを知っています。すばらしい指揮者のみなさんに恵まれ、新しいメンバーも徐々に増えているので、50周年の先もオーケストラはどんどんよくなっていくと思います。
日時・会場: 2023年12月19日(火)19時開演
東京 エレクトロンホール宮城
共演: 山田和樹(指揮)、オーケストラ・ アンサンブル金沢
曲目:外山雄三「交響的《石川》」、R. シュ トラウス:アルプス交響曲他
問合せ: 仙台フィルサービス 022- 225-3934
その他、「定期演奏会」などの公演情報は仙台フィル公式サイトへ
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