シェアハウスにぴったりの音楽環境を探る——建築家クマタイチ×生形三郎
神楽坂にある音楽之友社の近所に立つ、ちょっと気になるおしゃれなシェアハウス。ONTOMO Shopでも木の商品を製作していただき、ロシアンバーチを輸入し広める活動をしているテツヤ・ジャパンさんから「ロシアンバーチをふんだんに使っていて、音が良さそうな空間やで〜」とご紹介いただき、設計した建築家のクマタイチさんを訪ねました。
音にも興味津々のクマさんと、サウンド・インスタレーションを手がけてきた生形三郎さん、お二人の対談から、オリジナルの音環境を作っていく計画、スタートです!
建築家・クマタイチはオリジナルのスピーカーをどうデザインする?
建築家・クマタイチさんの手によって2017年、新宿区天神町に誕生した「SHAREtenjincho」。
1階が店舗、2階が事務所、3~9階がシェアハウスの住戸。コンクリートとロシアンバーチという木のコントラストが美しい建物は、2階ずつが吹き抜けになっており、大きな空間をさまざまな形で区切って部屋が作られています。
広々としたリビングや、シャワールームに併設されたサウナなど、クマさんのこだわりが随所につまったシェアハウスのコンセプトは、人々の「つながり」。
縁あって、このシェアハウスを訪れ、クマさんとお話をする機会を得た編集部は、「この空間に合うオーディオを一緒に探る企画をしませんか?」と提案をしてみたところ、クマさんは、市販のスピーカーではなく、自分でデザインしてみたいとのこと。どんな音環境が合うのでしょうか?
さっそく、数多くのオリジナルスピーカーを自作してきた(ONTOMO Shopの商品にもなっています!)オーディオ・アクティビストの生形三郎さんに、アドバイザーになっていただくお願いをして、クマさんとの対談が実現しました。
どんなデザインのスピーカーを作るのか? という議題でお話ししていくつもりだったのですが、さすがアーティストのお二人。建物のコンセプトを共有した瞬間、びっくりするような提案が始まりました。
「気配」を音で感じさせる空間をつくりたい
生形 海外などではよく、建物をゾーンに分けて、流す音源を管理するシステムを使っていると聞きます。一人ひとりが個別に音楽を聴くというよりは、このゾーンではこの音楽、こことここは一緒の音楽、というようなシステムができると面白いかなと思いました。
それをどういうスピーカーシステムで流すか、ということになってくるでしょうか。
クマ 個人的には、主張の強い音源がひとつあるのではなく、どこから聴こえてくるのだろう? という空間。つまり、スピーカーの存在を消すということに興味があります。そして、全体がサラウンドシステムになるような、空間的な音体験がここで作れたらいいですね。
よく考えるんです。この建物も階層が変わると、聴こえるのはエレベーターが動く音くらい。普通の集合住宅だと、他の住人の気配は感じなくてもいいと思うんですが、シェアハウスというコミュニティならではの醍醐味として、「気配」を増幅させるような仕組みがあれば面白いと思いますね。
生形 「気配」ですか。それは、聴いている音楽とかではなくですね?
クマ たとえば、扉が開く音、シャワーや洗濯機などの水回りの音、階段の音などをあえて聴かせるような、ある種「新しいタイプの館内放送」というイメージ。
生形 なるほど。音楽ではなく、やはり「気配」なのですね。音を拾うような?
クマ そうですね。5〜6箇所くらいにマイクを仕込んでレコーディングし、それを流せたら面白いですね。もちろんプライバシーには配慮しないといけませんが。
特にエレベーターで感じるのですが、無音だと居心地が悪いけれど、音楽だとダサくなってしまうんですよね。なので、近くにいる人ではなく、どこかから流れてくる音のほうに集中を分散させられたらいいですね。
生形 物音や環境音を集めて作曲する、フランスのミュージック・コンクレートという流れがありまして。実は、私はそういうジャンルが専門なんです。空間に音を置くサウンド・インスタレーションというジャンルも手がけてきました。それらを実現できたら、面白いですね。
作品としてイベントができるくらいのものとしては、マイクで集音した音をPCのプログラミングソフトに送って、自動でスピーカーに飛ばす方法があります。ただ、無線のシステムも含めて、実装するにはなかなか壮大な計画になりますね(笑)。
音を再生する装置としては、間接照明のように、音を間接的に反射させて充満させ、どこから音が鳴っているかわからない、というスピーカーの置き方もあります。
クマ 「間接」という言葉は大好きです!
生形 あとは、こういう統一された空間に、スピーカーがボン! と置いてあると違和感が出そうなので、隠して設置してもいいかもしれません。
クマ 家具の裏や、ソファーの下に置くというのも面白いですね。
日常というのはある種、作り込みが必要かなと思っています。もちろん劇場などは非日常を感じさせるために作り込むものですが、日常も作り込まないと「冷めて」しまう。装置に住人が気づいてしまったらいけないと思うんです。
生形 いわゆるステレオのスピーカーではなく、板に穴を開けてスピーカーユニットを取り付けるだけにしたり、形を工夫すると、スピーカーの存在自体も「気配」にできるかもしれませんね。
クマ 置く場所も工夫できそうで楽しみです!
*
当初、「内装のデザインに合わせたスピーカーを自作する企画」くらいの感覚ではじめた取材、オリジナリティあふれる音空間が生まれそうです。
次回は、シェアハウス内で「気配」を感じさせるスピーカーの設計を具体化していきます。
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