柴田俊幸×アンソニー・ロマニウク〜リスクを背負って、繋げていくコガク
2024年5月2日、フルート奏者の柴田俊幸と鍵盤楽器奏者アンソニー・ロマニウクが「違う、コガクじゃない」と題したリサイタルを行ないます。
バロックから現代曲までを、バロック時代の楽器から電子楽器まで駆使して演奏する異色のプログラムや、彼らが掲げた「シームレスな多様性」の意味するものとは? 高坂はる香さんがインタビューしました。
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...
——公演のタイトルは、東京・春・音楽祭 2022のリサイタルへの反応で、お二人はそれが嬉しかったそうですね。
ロマニウク ええ、とても満足しました。私たちがリスクを背負ってやったことを聴衆が高く評価してくれたことで、次にさらに大きなリスクをとるエネルギーになりました(笑)。
今度のリサイタルは、春祭でのプログラムを一部変えたものとなります。選曲や演奏順だけでなく、現代楽器と古楽器、譜面に書かれた音楽と即興などを混ぜて、音楽の作り方においてもリスクをとりました。こういう実験が大好きなので、トシ(柴田さんのこと)のような人に出会えて嬉しいです。
柴田 以前から、NYにいたときのように新旧の音楽を混ぜたプログラムを取り上げたかったのですが、ベルギーで古楽器奏者としての活動を始めて以降、機会がありませんでした……古楽の世界では誰もそんなことをしませんから。
そんなとき、共通の友人がアンソニーを紹介してくれました。彼はジャズを学び、ニューヨークでモダンピアノと現代音楽を、オランダでチェンバロとフォルテピアノを勉強した人です。私もバロック、現代音楽、ジャズなどを学んだので、それぞれのジャンルを大切にしています。
一つ言いたいのは、我々はジャンルをミックスして演奏しますが、それはそれぞれの音楽に敬意を持っていないという意味ではない、ということです。
ロマニウク そう、それぞれのスタイルに敬意を払っているからこそ、混ぜあわせてなお、芸術的な意味を持つプログラムができるのです。
——“シームレスな多様性”もテーマです。各スタイルを尊重することで最終的にシームレスになるということなのでしょうか。
ロマニウク そうですね。古楽、現代音楽、ジャズ、ロマン派とどれも専門性が求められますから、シームレスにするには何年、何十年と勉強し、これらをつなげるスキルを身につける必要があります。
柴田 この前はそれぞれの作品を即興でつないだよね。アンソニーはいつもそうしていると思うけど、私にとっては初めての挑戦でした。
ロマニウク すごくうまくいったよね。即興演奏は聴衆に嬉しい驚きを与え、それによって彼らはステージと客席におけるコラボレーションの一部になります。みなさんによりアクティヴな聴き方をしてもらうには、即興が一番効果的です。
とはいえ、我々はクラシック音楽のパンクロック・アナーキストでも、システムを壊そうとしているのでもありません。内側から多様性を広げていこうとしているのです。
柴田 そう、バロック音楽を壊そうだなんてもちろん思っていない!
——古楽器の分野では即興演奏を入れるのはごく自然なことだったと思いますが、その慣習はどこかから失われたのでしょうか?
ロマニウク バロック音楽における即興演奏は失われた芸術といえます。もちろん今でも即興演奏のクラスはあって、ある修士課程では非常に構造化された知的な即興演奏を教え、優れた演奏家を輩出しています。こうして伝統が保たれることには感謝しています。
ただ大切なのは、“そこに即興で演奏する理由があるか”です。マッチに火がつくように、即興演奏をしたい衝動が生まれなくてはいけないのです。
——お二人とも複数の楽器を持ち替えて演奏されます。どの曲にどの楽器を使うかはどう決めるのですか。
ロマニウク 例えばバッハなら、基本的にはフォルテピアノかチェンバロ、変わったことをしようと思えばフェンダーローズを選ぶことも可能です。
曲の性格に合わせて選択しますが、作品の異なる側面を示すため、複数の楽器で演奏するアイデアもあります。
でも、トシは時々私に挑戦をさせようとするんです。この前はフィリップ・グラスをフォルテピアノで弾いてみたらと提案してくれたよね。
柴田 すごくうまういったよね!
ロマニウク そう、ふさわしくない楽器を選んだのにうまくいった例になりました(笑)。
柴田 あと、プログラム全体で一つの作品だと考えているので、流れの中でどの楽器の組み合わせが良いかは配慮しています。
二人が演奏するバッハ BWV1030 Largo e dolce
——柴田さんはロマニウクさんの魅力をどんなところに感じますか?
柴田 彼は普通の古楽器奏者ならやってはいけないと言うことを、今生きてるんだからいいじゃないとばかりに、飄々とやってしまうんです。例えばバッハの前にインプロヴィゼーションをするなら、“バッハのスタイルで弾きながら3秒間だけメンデルスゾーンに触れる”ということを、心の中で笑いながら……顔もニヤニヤしていますけど(笑)、やるんです。すべての音楽を通ってきた人にしかできない、“神々の遊び”だと思います。
昨今、クラシック業界が、クラシックファン以外にどうやってリーチするかが議論され続けています。守りたいものをひたすら守ろうとすると、それは結果的に分断に繋がり、やがて消滅につながるということを、実は今こちらで暮らしていて感じています。
古楽というジャンルが残したものを繋ぐためには、アンソニーのようなすべてのジャンルを繋げられるミュージシャンが不可欠だと思います。こういう人がいるということを、もっと日本で紹介したいですね
日時・会場: 2024年5月2日(木)19時開演
三鷹市芸術文化センター 風のホール
出演:
柴田俊幸(フラウト・トラヴェルソ、リコーダー、フルート)、アンソニー・ロマニウク(フォルテピアノ、チェンバロ、フェンダー・ローズ)
全席指定(税込)
S席:4,000円/ A席:3,000円/ U-25席(S/A共通):500円
※U-25は25歳以下対象。公演当日、要年齢証明
詳しくはこちら
※ロマニウクさんは5月4日(土祝)大阪・箕面市メイプルホールでソロ・リサイタル公演あり
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