
くるり・岸田 繁が『弦楽四重奏作品集』リリース~痛みを伴うノスタルジーの世界

ロックバンド、くるりの岸田 繁さん。そのフロントマンとしての活動と並行して、これまで小編成から交響曲まで、多彩な器楽作品を発表してきました。このたび、抒情的なメロディと色彩豊かな音楽表現がちりばめられた弦楽作品のライヴ収録がリリース。ロックとクラシックというジャンルの違いをどうとらえているのか?作曲法は?ご本人にお話を伺いました。

東京外国語大学英米語学科卒。高校在学中からクラシックを中心に音楽専門誌などで執筆。エッセイ、評論、インタビューを、新聞、一般誌、演奏会プログラムやCDなどに寄稿。放送...
音楽家の岸田 繁がこれまで折々に書いた弦楽作品を四重奏のかたちでまとめて、『弦楽四重奏作品集 第1巻』としてリリース、演奏用楽譜もショット・ミュージックから発売された。
ロックバンドくるりで広く驚きに満ちた先鋭な音楽の旅を続け、2026年の秋には結成30周年を迎える。彼の「交響曲第1番」が初演されてからもその冬で10年が巡ることになる。
ロックの反骨をタフな芯として抱きつつ、やわらかな心と実験精神で、まだどこにもなく、どこにでもあり得るような音楽を創ってきた岸田 繁である。弦楽四重奏のかたちで作曲しても、また旺盛な好奇心で遊びつつ、しかしどこか懐かしさもある世界を拓いている。

1976年4月京都生まれ。音楽家。
ロック・バンドくるりのフロントマンを務める傍ら、
作編曲家として管弦楽曲や映像のための音楽を数多く手掛ける
ジャンルが違っても自分の創るものに変わりはない
「ビートルズ以降のポピュラー・ミュージックと、いわゆる大文字のクラシック音楽との大きな違いとして、クラシックは楽譜を残すことに意義がある。ポピュラー・ミュージックの世界は、録音芸術から生まれている」と、岸田 繁はジャンルの違いをみる。
「そういう意味ではわたしはロックの人ですから、クラシカルな方向の作品もどんどん録音していきたい。どんな音楽を創るときでも、2、3 種類のパースを完成させるために、いくつかの手法を活用していると自分では思っています。そのひとつはギターを弾きながら歌う、弾き語りがモティーフの重要なところになっていて、クラシックっぽい作品でもそうやって出来上がっていくものがあります。もうひとつは、MIDIを使って書いていきます」。
クラシックの編成や形態で書くときも、彼の心のかたちはそう変わらないのではないか。
「変わらないですね。絵筆が変わるぐらいで。でも、そのことで中身が違うみたいなふうになってしまうと危険で、自分の創るものはすべて似ているのがふさわしい。今作は『第1巻』ぽいなと思っています、くるりのメジャー・ファーストとかに近いような。基本ちょっとアナクロというかアングラで、ぜんぜんポップじゃないし、どこかふざけてるし。メランコリックというかノスタルジックだけど、それが甘美なものではなくて、ちょっとヒリヒリした痛みが伴っているような感じがあって。とくに『弦楽四重奏曲第1番』は、シンガーソングライターぽいなと自分で思いました」。

「弾いて楽しい」曲 たくさん演奏してほしい
岸田 繁の作品には、一瞬一瞬、一歩一歩を確かめていく手探りの感じが宿っている。その引き寄せのなかに独特の手つきや息づかい、意外な身振りやしぐさが表情として聞こえるのが、私には愉しい。
「たぶん、思いつきの連続を構成している感じの曲想が多いです。今作も弦楽四重奏というかたちで、最低限の数の人たちがかなり自由に動いているのに、一瞬だけヒンデミット、一瞬バルトークみたいに聞こえるとか。ひとつのモチーフのなかで、内声や和声が移ろって、バロックっぽいはずなんだけど一瞬ジャズみたいとか、なんか無調っぽいけど心がぐっと掴まれる瞬間があるとか。
このアルバムは実際にライヴ録りを編集したものですけど、弾いていて楽しかったということを、奏者のみなさんがおっしゃってくれました。楽譜も出ているので、たくさん演奏していただきたいなとすごく思います。
あとは、わたしは相当のほほんと生きているのに、なにかに対して中指を立てている人間なので、そういう怒りとか苛立ちといったものは、パーソナルな作品になればなるほど内包されてきます。ここに住んでいるいろんな気持ちとかを、なんとなくつかまえてくださった方がご自身で言語化したり、『あ、こういう気持ちもあるんだな』って思っていただけたらうれしいです」。
これが『第1巻』。次作の構想として、ポップスやロックに添えてきた弦のスコアを抽出し、再構築したものを作品にまとめたいと語る。そして、ぜひ木管五重奏も書いてほしい。
【収録曲】
岸田 繁作曲
[1] 弦楽四重奏のための古風な舞曲『あなたとの旅』 (5:26)
Old-fashioned Dance Piece for String Quartet “Journey with You”
岸田 繁作曲
弦楽四重奏曲第二番『変な料理』
String Quartet No. 2 “A Strange Recipe”
[2] i. 帰結しない味覚 An Unresolved Taste (5:13)
[3] ii. ハバネロ入りハバネラHabanera con Habanero (4:52)
[4] iii. ドリアンの遊び The Dorian Game (Durian Game) (4:47)
岸田 繁作曲
弦楽四重奏曲第一番『月の恋、愛の日』
String Quartet No. 1 “Moonlight Love, Day of Love”
[5] 第一楽章 1st Movement (5:50)
[6] 第二楽章 2nd Movement (2:30)
[7] 第三楽章 3rd Movement (6:47)
[8] 第四楽章 4th Movement (2:18)
岸田繁作曲・Juvichan作/編曲
[9] 岸田 繁『奇跡』の主題による12の変奏曲 (9:35)
12 Variations on the Theme of “Kiseki (Miracles)”
by Shigeru Kishida
Style KYOTO管弦楽団弦楽四重奏
山田周 – 1st Violin
谷本沙綾 – 2nd Violin
梶原千聖 – Viola
谷口晃基 – Cello
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