インタビュー
2025.10.29
舞台人が語る「WE LOVE MUSICAL!!」第15回

韓国ミュージカル・プロデューサーが語る韓国ミュージカルの楽しみ方~ハイレベルな歌唱や華やかな舞台装置も!

注目の舞台人が、ミュージカルの魅力を語る連載。第15回は、日本でも人気急上昇の韓国ミュージカルの仕掛け人、EMKミュージカルカンパニー・プロデューサーのソフィ・ジウォン・キムさんが登場! 韓国ミュージカルならではの特徴ってあるの? 韓国ミュージカルの魅力とは? 楽しみ方について、教えてもらいました。

取材・文
弓山なおみ
取材・文
弓山なおみ ライター/コラムニスト

フランス留学後、ファッション誌『エル・ジャポン』編集部に入社。その後『ハーパース バザー』を経て、『エル・ジャポン』に復帰。カルチャー・ディレクターとして、長年、映画...

『ファントム』より
©2021 EMK Musical Company, All rights reserved

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韓国でもミュージカルが大人気に

——近年、韓国ミュージカルが盛り上がっていますが、そのきっかけを教えてください。

ソフィ 2001年にアンドリュー・ロイド・ウェバーの『オペラ座の怪人』がソウルで上演されて、韓国の観客にミュージカルというジャンルが大人気なったんです。それ以前は、ミュージカルは本当に好きな人たちだけが観るものでしたが、一般の方々もミュージカルを観ようとする風潮になりました。それ以降、韓国でミュージカルは産業としてブームになり、大劇場から小劇場まで多くの作品が作られています。

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——そもそも、ソフィーさんがミュージカル界に入った理由は?

ソフィ 実は急に会社を設立したんです。私自身も、なぜなのか、今でもまったく理解できていないんですよ(笑)。ミュージカルが特別好きだったわけでもありません。会社を作る前に、高校生の時に1回だけ観たのがすべてだったので。ただ、会社を作って最初の公演が大失敗してしまったんです。そこからミュージカルについて、必死に勉強しました。

——失敗からのスタートだったのですね。

ソフィ そうですね。初めて成功したのは2010年に上演した『モーツァルト!』。この作品で大きな成功を収めることができました。それまでは本当に苦労の連続でした。

ソフィ・ジウォン・キム
EMKミュージカルカンパニー副社長
EMKエンターテインメント代表
大胆かつ先見の明を持ったプロデュースでEMKミュージカル時代を切り拓いたプロデューサー

2010年のミュージカル『モーツァルト!』を皮切りに、ミュージカル『エリザベート』や『レベッカ』などを手掛け、欧州ミュージカルの本格的な韓国進出とEMKミュージカル時代の幕開けに大きな役割を果たした。2012年に東宝株式会社とライセンス契約を結びミュージカル『ハムレット』を上演し、海外市場への進出の基盤を築き、2017年の『マタ・ハリ』、2018年の『笑う男』を日本でライセンス契約するなど、EMKオリジナルコンテンツのグローバル化を進めた。2023年には『Xcalibur』が宝塚歌劇で初めて韓国オリジナルミュージカルとして上演され、日本市場進出に新たな道を開いた。また、ミュージカルコンテンツの映像化製作にも積極的に取り組み、ミュージカルのオンライン配信『A KILLER PARTY』や『モンテ・クリスト伯:The Musical Live』など新たなジャンルを開拓している。

——現在、EMKミュージカル・カンパニーでは、『エリザベート』や『モーツァルト!』など、ライセンスミュージカルを上演する一方で、『ベルサイユのばら』など、『ベートーヴェン』『Xcalibur エクスカリバー』といったオリジナルミュージカルも手掛けています。これまでの経過を教えてください。

ソフィ 最初はずっとライセンス系の作品だけをやっていたのですが、2016年に『マタ・ハリ』というオリジナル作品を制作しました。それからは、オリジナル作品にも力を入れています。小劇場系の作品では、メキシコの画家フリーダ・カーロを題材とした『フリーダ』があります。今、EMKは多くのプロジェクトが同時に進んでいるため、たまに頭の中がパンクしそうになります(笑)。

韓国ミュージカルの楽しみ方

——韓国ミュージカルを映画館で鑑賞できる「韓国ミュージカルON SCREEN」が日本で上映中です。この企画で初めて韓国ミュージカルに触れる人に、鑑賞ポイントや楽しみ方を教えてください。

ソフィ 韓国ミュージカルの一番のみどころは、俳優たちの素晴らしさです。私の仕事もキャスティングがもっとも重要で、その役に最適なスターを見つけることが公演の成功の半分を占めると思っています。具体的には、その役をもっともうまく表現できて、歌唱力もビジュアルも演技力も、完璧にマッチする俳優を、探します。

いざ公演が始まると、選ばれた俳優の一人ひとりが、本当に高いレベルを維持しています。これから御覧になるみなさまには、俳優たちの演技や歌を楽しんでいただければと思います。

韓国でも高い人気を誇る『エリザベート』
©2022 EMK Musical Company, All rights reserved

——ほかにも注目点はありますか?

ソフィ 大劇場の場合は、華やかな舞台のセットも注目です。一つの公演で、大体100回以上の公演を行ないますから、私たちはその予算規模で大がかりなセットを制作します。韓国のミュージカルのファンの方々にも、「EMKの舞台は、セットが素晴らしくて豪華だ」と言っていただけます。そうした舞台美術も楽しんでいただきたいですね。

キム・ジュンス主演の『モーツァルト!』は、2026年3月6日から上映
©2020 EMK Musical Company, All rights reserved

出演依頼のためにカーネギーホールへ!

——先日、「韓国ミュージカルON SCREEN」で『ファントム』を鑑賞し、エンターテインメントとしてとても楽しめました。主演のキョヒョン(SUPER JUNIOR)さんの歌声は力強く迫力がありましたし、クリスティーヌ役のイム・ソンヘさんは世界的なソプラノ歌手! 役柄どおり、「天使の歌声」を持つ歌姫そのものでした。

ソフィ 私たちにとって『ファントム』のクリスティーヌ役をみつけることは、もっとも困難な作業なんです。ソプラノでなければ務まらない役なので、まずソプラノ歌手から探しますが、若くて歌がすごく上手で、クラシックもミュージカルも歌えて、ヒロインらしい容姿を持つ——そうした条件をすべて満たす人を見つけるのは本当に大変です。もちろん、演技も上手な方です。有望な人の噂を聞くと、その人のコンクールの映像などをすべて観て、徹底的にリサーチします。

『ファントム』では、オペラ座の怪人と歌姫の危険な恋が描かれる

——キャスティングにかなりの時間をかけるのですね。

ソフィ そうです。クリスティーヌ役の場合は、たとえば2年前に公演が決まると、それ以降、ずっと候補者を探し続けます。ミュージカルもオペラも実際に観に行き、本人にインタビューも行いますし、著名なクラシックの歌手の中には、「私はミュージカルには出演したくない」と言う方もいるので、説得するのも大変な作業です。

『ファントム』に出演してくれたイム・ソンヘさんは、世界的に有名なソプラノ歌手。ヨーロッパでも名の知れた数少ない歌手の一人ですが、とてもオープンマインドで、「ミュージカルに一度挑戦してみたい」というお気持ちがありました。ソンヘさんに出演してもらいたくて、うちの演出家は彼女のカーネギーホール公演を観に行き、直接そこでお会いして説得しました。

『ファントム』みどころ紹介動画
6分20秒頃からソンヘさんの歌唱が登場

——カーネギーホールにまで。結果的に出演を引き受けてくださって良かったですね。実際、ソンヘさんの歌声は圧巻でした。

ソフィ ホッとしました。ソプラノも演技も素晴らしかったと思います。

『ファントム』よりクリスティーヌ役のイム・ソンへ
©2021 EMK Musical Company, All rights reserved

ミュージカル俳優に求められる「歌で話し、メロディで話す」こと

——ミュージカル俳優にはどのような歌唱力を求めていますか?

ソフィ 歌が上手であることは基本中の基本です。最低ラインと言ってもいいですね。ただ、素晴らしいテクニックがあり、上手に歌を歌える人でも、聴く人が感動したり心を動かされないケースもあります。ミュージカルにおいては、この「心を動かす力」がもっとも重要だと私は考えています。

歌の技術が少し足りなくても、この俳優さんが歌うときは涙が出る、集中して聴ける、聴く人の心を動かす——そういう力が必要なんです。ですから歌を歌うというより、歌で話し、メロディで話す。そういう力がミュージカル俳優にもっとも求められる能力だと思います。

——今後、ミュージカルでめざす目標は?

ソフィ 韓国でこの業界にいる人には、世界に通用する作品を作りたいという夢があります。日本は日本国内だけで成功してもマーケットが大きいので、それで充分なのですが、韓国のマーケットは小さいので、自分の国だけでは物足りないと誰もが感じるんです。やるなら海外進出を目指したい。ミュージカルも、韓国だけで成功する作品を探すのではなく、世界中で受け入れられるような素材をみつけたいですし、今もそうしたリサーチを続けています。

後編(11月7日公開予定)に続く

取材・文
弓山なおみ
取材・文
弓山なおみ ライター/コラムニスト

フランス留学後、ファッション誌『エル・ジャポン』編集部に入社。その後『ハーパース バザー』を経て、『エル・ジャポン』に復帰。カルチャー・ディレクターとして、長年、映画...

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