柴田俊幸が仕掛けるクラシック音楽と観客の橋渡し〜2022のテーマは“チルい古楽!”
ヨーロッパの地方都市のような魅力ある個性的な音楽祭を
香川出身のフラウト・トラヴェルソ(バロック・フルート)奏者、柴田俊幸が芸術監督を務める「たかまつ国際古楽祭」が今年も9月30日から3日間開催される。第5回となる今回は、高松でのメインコンサートに、瀬戸内の島々を会場としたユニークな企画が加わり、香川の美しい自然と食とともに国内外の古楽奏者たちの奏でる古(いにしえ)の響きを楽しんでもらおうという趣向だ。
「なぜ高松でやるんだ、とよく聞かれますが、僕はヨーロッパに住んできて、さまざまな地方都市で行なわれている音楽祭のすばらしさを奏者として、聴衆として肌で体験してきました。どこも自らのアイデンティティを持ち、大都市の音楽祭とはまた違う輝き方をしているんですよね。そういうものを僕自身も高松で目指していきたいと思ってやっています」(柴田)
2年前はコロナ禍での中止、去年は規模を縮小しての開催など困難に直面しながらも、音楽祭を継続してきた。その原動力はどこにあるのだろうか。
「音楽祭を継続することは大変ですけれど、毎年9月末~10月初旬の時期に高松に行ったら古楽祭がある、といったふうに広く認知してもらうようになれば、香川にとっても古楽界にとっても希望になるかなと思っているんです。そうした意味で、続けていくことに意義があると感じています」
豪華なアーティストが高松に集結!
高松でのメインコンサート(10月1日)はガラ・コンサートのような豪華な顔ぶれがそろう。「東京では聴けない組み合わせやプログラムを意識しています。それが音楽祭、ひいては街のアイデンティティにつながるから」と柴田。
「ジャンルフリー」な鍵盤奏者として注目を浴びるアンソニー・ロマニウクと、気鋭のピリオド管楽アンサンブルのル・ヴァン・ロマンティーク・トウキョウ(三宮正満ob/満江菜穂子cl/村上由紀子fg/福川伸陽hrn)とのコラボは、まさにここでしか聴けない一回限りの舞台。モーツァルト自身にとっても自信作だった《ピアノと管楽のための五重奏曲》と、それを手本にして書かれたベートーヴェンの初期の五重奏曲を、歴史的な楽器で聴くことができる貴重な機会だ。
ロマニウクが弾くのは、最近修復されたばかりのオリジナルのブロードウッド(1800年頃製)のフォルテピアノ。
さらにコンサート前半には、2022年度のサントリー音楽賞を受賞した濱田芳通(リコーダー)や、高松市出身で長年英国の古楽界で活躍してきた森川麻子(ヴィオラ・ダ・ガンバ)らがバロックの名作を奏でる。ナビゲーターは、古楽愛好家として知られる朝岡聡がつとめる。
「食」や「デリバリー古楽」を通じてクラシック音楽と観客を繋ぐ
高松港から高速艇で35分の小豆島のホテルでは、古楽×食のイヴェント『バッハ飯』が開かれる(10月1日ディナー、2日ランチ&ティータイム)。これは歴史料理研究家の遠藤雅司を迎えて、バッハが1716年にハレで出席した晩餐会のメニュー16品目を瀬戸内の食材を使って再現しようという企画で、食後のコンサートではその時代に奏でられた音楽が楽しめる。
「実のところ、古楽も再現料理も似てると思うんですよね。だって片方は楽譜から音楽を、片方はレシピから料理を再現して作るわけでしょう。そこにシェフがいて、僕たち演奏家がいる。コンセプトとしてまったく同じなんです」
一方、アートの島として有名な直島のホールは、コロナ禍の初めの頃、柴田が家庭などに出向いて生演奏を届ける「デリバリー古楽」を行なった場所でもあり、自然の光と風が感じられるすてきな空間だ。
柴田自身がフルートを吹き、リコーダー、中世ヨーロッパ由来のハーディ・ガーディ、チェンバロというユニークな編成でバッハやクープランなどの親しみやすい曲を奏でる。
「僕がいちばん意識しているのは、クラシック音楽と観客なんです。特にクラシックに詳しくない観客との間をどうつなぐのかということ。その一つの方法として、音楽家自身が企画することでその橋渡しをできたらと試みてきました。単にクラシックが好きな人だけの音楽祭をやることだけが未来ではないと考えています」
折しも、ちょうど現代アートの祭典である瀬戸内国際芸術祭も会期中なので、それと合わせて高松を訪れるのもおすすめだ。今年の古楽祭も瀬戸内の土地と空気でしか味わえない魅力と祝祭感に満ちあふれた3日間となることだろう。
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