インタビュー
2022.02.17
宝塚OGが語る、音楽と私 Vol.7

彩吹真央「歌は自分を表現するうえで一番大切」~舞台『僕はまだ死んでない』で終末期医療と向き合う執刀医役に挑む

宝塚歌劇団の人気OGが、お気に入りの音楽について語るインタビュー連載。
第7回は、元雪組男役スターで、退団後は舞台を中心に、ミュージカルやストレートプレイなど幅広く活躍する彩吹真央さんが登場。2月から上演される舞台『僕はまだ死んでない』に出演する彼女が、舞台の観どころや宝塚での演技指導、歌への想いを語ってくれました。

取材・文
NAOMI YUMIYAMA
取材・文
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...

撮影:各務あゆみ

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

彩吹さんが出演する新作舞台『僕はまだ死んでない』は、withコロナの時代に、終末期医療とどう向き合うのかに迫る人間ドラマ。ある日突然、脳幹梗塞を発症し、意識はあるが体を動かせない直人と、彼を病室で見守る家族や医師の想いを描く。原案と演出はウォーリー木下さん。2021年に“VR演劇”として配信され、今回は有観客での上演となる。2月17日から銀座・博品館劇場で幕を開ける。

病院での会話劇に参加する気持ちで人生を考える時間に

続きを読む

——『僕はまだ死んでない』は、意識はあるのに身体が動かせず、意思疎通が取れない状態に陥った直人と家族の姿を通して人々が終末医療とどう向き合うのかを描いた作品です。脚本を最初に読んだときの印象は?

彩吹 2年以上のコロナ禍で、医療従事者の方たちの大変さを改めて感じていました。そんななか、この脚本を読んで、彼らが普段から生と死の挟間、希望と現実の挟間で仕事をされているんだなと思いました。テーマはシリアスですが、病室で寝ている直人のそばで家族が喧嘩をしたり、お父さんが執刀医に言い寄ったり(笑)。人間のおもしろさも垣間見える作品だと思いましたね。

彩吹真央(あやぶき・まお)
1994年宝塚歌劇団入団。繊細な演技力と豊かな歌声を持つ男役スターとして活躍。『エリザベート』のフランツやルドルフ役などを演じた。2010年、宝塚歌劇団を退団。その後の主な出演作品は『COCO』『サンセット大通り』『ウェディング・シンガー』など。 コンサートをはじめ、歌手活動や声優などにも挑戦している。

——直人を見守る医師、青山樹里を演じるうえで役作りは?

彩吹 お稽古の最初に演出家のウォーリーさんから、「どういうお医者さんが好きですか」と聞かれたんです。私が「現実を突き詰めて、びしっと話してくれる先生が信頼ができます」と答えたら、ウォーリーさんは「僕は優しく伝えてくれるほうがいい」って。それを聞いて、医師と患者は本当にさまざまで、一期一会なんだと思いました。終末期医療にかかわっている医師だけに、絵本に出てくるような優しいだけのお医者さんにはなりたくはないのですが、最終的にはお客さまが「こんな先生に診てもらえたらいいな」と思う人をめざします。

——特に心に残る場面はありますか?

彩吹 病室で家族が1対1で話すシーンは、どれもジーンときますね。ほかの誰かがいたら素直になれないことも、二人だけなら話すことができるんだなって。特にお父さんが寝ている直人に語りかけるシーンは、親子ならでの会話だと思いました。お客様にもこの作品を通して、愛する人に思いを伝えておくことの大切さを感じてもらえると思います。

——去年配信されたVR版では、直人のベッドに置かれた360度動くカメラを通して、彼の視線で物語を見ることができました。今回の舞台ならではの魅力は?

彩吹 今回は寝ている直人を中心に、彼を取り巻く医師や家族など、周囲の掛け合いを見ることができます。VR版にはなかった、“もし直人が倒れなかったら”ということを想像してもらえる演出もされているので、そのあたりも楽しんでいただけますね。

「優しいだけでなく、患者さんを導くことができて、人間的にあたたかい執刀医を演じたい」と語る彩吹さん。

——withコロナの時代に、大切なことを思い出させてくれるような舞台になりそうですね。舞台を見てくれる方へのメッセージをお願いします。

彩吹 医療モノって重いと思われがちですが、この舞台は“自分らしく生きることの楽しさ”をポジティブに捉えられる作品です。舞台を見るというよりは、病室での会話劇に参加する気持ちでご覧ください。自分の人生や家族への思いを改めて感じられるし、希望をもって生きていくことって素敵だなと思っていただけると思います。

音楽とのつながり~思い出の曲、後進の指導、バレエ

——次は音楽との関わりについて教えてください。普段はどんな曲を聴きますか?

彩吹 去年たまたまヒゲダン(Official髭男dism)さんの曲をテレビで見たら、歌詞の深さに惹かれてしまって! 久しぶりに邦楽アーティストのCDを購入しました。希望や夢といった明るい部分だけではなく、自分の中のネガティブな部分を受け止めたうえでのポジティブな歌という感じがいいですね。お稽古が集中してしんどかったりしたときには、帰りにヒゲダンさんを聴いて、心をデトックスしています。

車の中などで聴くことが多いそう。

——宝塚時代は、演技も歌も上手な人気男役スターとして活躍されていました。今も思い出の楽曲はありますか?

彩吹 初舞台だった作品『ブラック・ジャック 危険な賭け』の主題歌が、すごく心に残っています。何か記念のときに1曲と言われると、安寿ミラさんが歌われた「かわらぬ思い」を歌うことが多いですね。宝塚で同期の霧矢(大夢)とトークライブでデュエットしたこともありました。去年宝塚で開催された「Greatest Moment」というイベントでは、安寿さんとご一緒できて、この曲を歌われている姿を袖から見ながら胸アツでした!(笑)

2021年11月に開催された「Greatest Moment」より

——最近は、宝塚の公演で演技指導もされているとか。そのことについてもお話していただけますか?

彩吹 演技指導をしたのは、花組の『はいからさんが通る』と、今上演されている月組の『今夜、ロマンス劇場で』の2回です。どちらも在団中からご縁があった演出家の小柳奈穂子先生からの依頼でした。

宝塚は1組に80人の生徒がいるので、演出家の目の届きにくくなる下級生を見ています。月組さんは芝居の稽古をすごくしっかりしていて、最初からおもしろい作品だなと思って見ていましたね。男役として16年在団した経験と、宝塚ファンだった頃のお客さま視点を生かし、素敵な作品をより深くお客様に伝えられればと思いながらお手伝いをしています。

『今夜、ロマンス劇場で』初日舞台映像

——先輩の豊かな経験が、後輩の方たちに継承されるところが素敵ですね。では、クラシック音楽でお好きな曲があれば教えてください。

彩吹 好きなのは、チャイコフスキーとラフマニノフです。宝塚音楽学校に入る前にバレエをやっていたので、とっかかりはやっぱり《くるみ割り人形》。チャイコフスキーのバレエ音楽がすごく好きです。どの曲もドラマチックで、目の前に絵が浮かぶようなメロディと楽器に惹かれます。

チャイコフスキー《くるみ割り人形》

チャイコフスキーのバレエ音楽は、まるで絵を見ているような感覚になるという。

彩吹 ラフマニノフはバレエの発表会でピアノ協奏曲の2番を踊り、その素晴らしさにぞくぞくして、他の曲も聴くようになりました。

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番第1楽章

ストレートプレイでも台詞を歌に置き換えるなど、音楽は大切な表現手段に

——宝塚を卒業後も、ストレートプレイ、ミュージカルなど幅広いジャンルで活動されています。それぞれの魅力の違いとは?

彩吹 ストレートプレイをやっていると、自分が普段、歌やメロディに助けられていることを痛感して。だからセリフが言いづらいときは、1回歌ってみるんです。これがミュージカルだったらどうなんだろうとか。それを経由すると答えが見つかったりするんです。

ただストレートプレイをやったあとでミュージカルをやると、これがまた難しくて(笑)。ミュージカルは何小節目でこれを歌うなどの細かい制約が多いので、自由にセリフを言えるストレートプレイの良さを感じるんです。

この仕事を始めてもう25年以上たつので、どちらも慣れたいと思うのですが、慣れすぎたくない気持ちもあって。役をいただいたら1作品ずつ、納得できるところまで取り組むので時間がかかってしまう。自分でも不器用だなって思います(笑)。

「自分をより表現できるのは歌」

——そんな彩吹さんの誠実な取り組み方が、心のこもったお芝居や歌に表れているんだなと感じました。最後に、彩吹さんにとって歌とは?

彩吹 子どものころから歌は大好きで、兄弟と歌ったり、カラオケが好きな父とよく一緒に行って歌っていましたね。宝塚時代の16年間は男役でしたが、特にそれを意識しすぎずに自然に歌っていました。

最近は楽譜をもらうと、まず歌詞だけを書き出して細かく分析しています。作者が言葉にこめたメッセージを伝えるために。そして歌えば歌うほど新しい発見が見つかるんです。

歌は自分を表現するうえで一番大切なもの、ありがたい方法のひとつだと思います。

公演情報
舞台『僕はまだ死んでない』

日時: 2022年2月17日(木)~28日(月)

会場: 博品館劇場(銀座)

原案・演出: ウォーリー木下

脚本: 広田淳一

出演: 矢田悠祐、上口耕平、中村静香、松澤一之、彩吹真央

料金: 7500円(全席指定・税込)

問い合わせ: チケットスペース03-3234-9999(平日10:00~13:00)

詳しくはこちら

※2月17日・18日はVR生配信あり。詳しくはこちら

取材・文
NAOMI YUMIYAMA
取材・文
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ