インタビュー
2022.02.22
宝塚OGが語る、音楽と私 Vol.8

音月桂「音楽は唯一無二の親友であり戦友」~『陰陽師 生成り姫』で雅な雰囲気を醸す

宝塚歌劇団のOGが、お気に入りの音楽について語るインタビュー連載。
第8回は、元雪組トップスターで、退団後は舞台やドラマで活躍中の音月桂さんが登場。2月22日からは舞台『陰陽師 生成り姫』で美しいヒロイン・徳子姫を演じる彼女が、舞台に賭ける思いや、大好きな音楽について語ってくれました。

取材・文
NAOMI YUMIYAMA
取材・文
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...

撮影:各務あゆみ

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舞台『陰陽師 生成り姫』は、日本を始め世界で大ヒットした夢枕獏のベストセラー小説の舞台化。若き安倍晴明が、鬼になってしまった徳子姫を救うために奔走する姿や、友人・源博雅との友情が描かれる。脚本はマキノノゾミが手がけ、演出は鈴木裕美が、そして主人公の安倍晴明を三宅健が演じる。2月22日から新橋演舞場で開幕する。

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鬼になってしまう徳子姫の葛藤と向き合って

——『陰陽師 生成り姫』は、華やかな平安時代を舞台に、若き日の安倍晴明が活躍する人気作です。出演が決まったときのご感想は?

音月 世界中にファンがいる「陰陽師」の中でも、「生成り姫」は特に人気の高い作品。ファンの方にはすでにこの作品へのイメージがあると思いますので、みなさまの期待を裏切らないかというプレッシャーと、「陰陽師」という世界に足を踏み入れるんだというワクワク感がありましたね。

音月桂(おとづき・けい)
1998年、宝塚歌劇団に入団。2010年に雪組トップスターに就任。華やかな容姿と、歌、ダンス、芝居と3拍子揃った実力派トップスターとして人気を誇り、代表作に『ロミオとジュリエット』のロミオ役など。2012年に『JIN‐仁/GOLD SPARK!』で退団。その後、テレビや映画と幅を広げ、女優として活躍中。

——舞台では、音月さん演じる徳子姫と、安倍晴明の友人との切ない恋が描かれます。闇落ちして鬼になってしまう徳子姫についてどう思いますか?

音月 徳子姫は、もともとはピュアで奥ゆかしい女性。ただ、恨みつらみが発展して“鬼”になってしまう。最初はそこまでの葛藤が想像できず、彼女を裏切った済時様やお相手の綾子様への憎しみについて考えていました。

ただ、あるときふっと、徳子姫を鬼にしたのは、彼女の中にある“執着心”なんだと気づいて。それからは靄が晴れたように、すごくやりやすくなりました。人間なら誰でも、ネガティブな感情がある。それが爆発してしまったのが徳子姫で、彼女の葛藤は誰の心にも刺さるものだと思います。

平安時代の華やかな世界を作りたい

——「陰陽師」という作品ならではの見どころとは?

音月 先日、座長の三宅さんと、今回の舞台は内容の充実はもちろんのこと、平安時代の宮中の雅な空気を出したいね、とお話しました。私もとても豪華で素敵なお衣装を着せていただきますし、お客様にも「陰陽師」ならではの華やかな世界を堪能していただけると思います。

ただ、宝塚では男役でしたので、私自身は現在、和物特有の所作と悪戦苦闘中で……(笑)。徳子姫の立ち振る舞いが自然に身に付くように、初日までには仕上げます!

——安部晴明役、三宅健さんとの共演はいかがですか?

音月 ポスタービジュアルの三宅さんの妖艶さには、ド肝を抜かれました! 自分も女性として負けていられないなと(笑)。稽古場ではフラットな雰囲気で、まるでご自身であるかのように阿部晴明を演じられています。

演出の方とのセッションでは、「そんな角度から考えているんだ」という発見や学びがあって。舞台への熱量がすごく高い座長なので、稽古場は暖房いらずです(笑)。あと、先日も演出部の方と足袋の形やサイズについてお話して迷っていたら、それに気づいて、すぐにアドバイスを下さったり。自然体でありつつ、周囲への細やかな気配りがすごいなと感動しました。

——原作の雰囲気もそのままで、新たな「陰陽師」が満喫できそうですね。

音月 今回の舞台には、すべてが人力で作られているという魅力もあります。これまでの「陰陽師」の舞台は映像を使う演出が多いように思いましたが、そのような部分をダンスで現したり。私もリフトしていただいて表現する演出があります。大変さもありますが、役者として芝居の原点に帰った感じです。お客様にも温かさやぬくもりを感じていただけると思います。

実はファンクラブに入るほどのBTSファン

——次に、お好きな音楽について教えてください。音楽を好きになったきっかけはいつ頃ですか?

音月 両親が音楽好きで、家でいろんな曲がかけられていたので、子どもの頃から音楽には親しんでいました。家族でカラオケに行くことも多かったですね。小さいときはスーパーに買い物に行くと、お店の音楽にあわせて踊っていたみたいです。両親は恥ずかしかったようですが(笑)。

——普段よく聴く曲やお好きなアーティストは?

音月 舞台前にメイクをしているときに、アップテンポな曲を聴くことが多いです。いまハマっているのは、BTSです。かなり本気モードで、実はファンクラブにも入っています(笑)。

きっかけは、コロナ禍で音楽や映画をYouTubeなどでよく見るようになったこと。BTSも最初はダンスがいいなと思って見ていました。それから、彼らのメッセージに元気をもらえたり、背中を押してもらえたりして……。特に、ボーカルのVさんは、低温の低い声が素敵だなと思います。この話は始めたら止まらないのでこの辺で!(笑)

BTS「Dynamite」

——宝塚歌劇団の曲で、心に残っている楽曲はありますか?

音月 トップスターお披露目公演だった『ロミオとジュリエット』の曲は心に残っていますね。特に、「僕は怖い」。実はロミオってソロ曲が一つしかないんですよ。歌っていると途中から友達が入ったり、デュエットになったりして。

「僕は怖い」のすごさは、たとえ何の感情も入れずに歌ったとしても、ロミオの切なさや若さを音楽が表現してくれるところです。お芝居の感情が入ると相乗効果で、さらに豊かな曲になる。ロミオという役は、自分に音楽の威力を感じさせてくれた役でもあります。ほかにもジュリエットと歌う「エメ」が好きですね。

『ロミオとジュリエット』
2021年の星組バージョンの予告編

歌うと幸せで、涙が出そうにもなるオペラ曲も

——お話をうかがいながら、音月さんの「僕は怖い」の歌唱の素晴らしさ、表現力の豊かさが蘇ってきました。ではクラシック音楽でお好きな曲は?

音月 オペラでは「誰も寝てはならぬ」が好きです。宝塚の退団公演でも、フィナーレの大階段で歌っています。実は、この曲は自分の初舞台でも使われていたのですが、そのとき、衝撃を受けて。卒業公演なので、演出家の先生に何かリクエストありますかと言われて、この曲をお願いしました。

プッチーニ:《トゥーランドット》より「誰も寝てはならぬ」

——在団中の大切な節目に歌われた曲なんですね。

音月 念願かなって、最後に歌えたという感じです。宝塚でもクラシック音楽はアレンジされてよく使われていて、多くの曲を歌いましたが、感情がのらないときにはどんなに練習しても歌えない。この曲は自分の心にストンと落ちてきます。壮大で包み込むようなところが、歌っていて幸せで、涙が出そうにもなるし、穏やかな気持ちにもなるんです。

——ほかにもお好きな曲はありますか?

音月 バレエでは《海賊》です。この曲は音楽自体というより、男性ダンサーの方のエスコートの仕方や、女性へのリフトの仕方が素敵だなと! 男役を長年演じていた癖ですね。映画を見るときも、女優さんより俳優さんを見てしまうんです。映画でブラッド・ピットさんを見ると、彼のお酒の飲み方や煙草の吸い方がかっこいいなとか……。今回は「陰陽師」ですので、歌舞伎の女形の方のしなやかさを見て勉強したいと思います(笑)。

アドルフ・アダン《海賊》より「パ・ド・ドゥ」

自分が表現する場所である舞台を守っていきたい

——今、音月さんにとって音楽はどんな存在ですか?

音月 私にとって、唯一無二の親友でもあり、戦友でもあるような感じですね。気持ちよく歌えるときは、すごく身近で助けてくれるし、元気もくれるし、ありがたいなと思う。でも、難しくて攻略できないときは、闘っているような気持ちになる。ただ、決して敵ではないんです。

——最後に、今後の抱負をお願いします。

音月 今はコロナ禍で、いろんな作品が厳しい状態にあります。私自身は原点が舞台なので、自分が表現する場所を、お客様も含めて、一生守っていけたらと思っています。だからこそ、今のこの時期が大切だなと感じますね。

今後、『陰陽師 生成り姫』の徳子姫のあとは、今の私からは想像できないような、お客様の期待をいい意味で裏切るような、そんな役に挑戦できたらと思います!

公演情報
舞台『陰陽師 生成り姫』

日時: 2022年2月22日(火)~3月12日(土)

会場: 新橋演舞場

出演: 三宅健、音月桂、林翔太、姜暢雄、太田夢莉、佐藤祐基、市川しんぺー、岡本玲、佐藤正宏、木場勝己、ほか

料金: 1等席12,500円、2等席8,500円、3階A席4,500円、3階B席3,000円、桟敷席13,500円

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取材・文
NAOMI YUMIYAMA
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大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...

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