インタビュー
2021.11.14
宝塚OGが語る、音楽と私 Vol.3

安蘭けい「歌で表現することが武器に」~30年間の芸能生活と『蜘蛛女のキス』を語る

宝塚歌劇団の人気OGが、お気に入りの音楽について語るインタビュー連載。
第3回は、元星組トップスターで現在はミュージカルやドラマなど女優として幅広く活躍する安蘭けいさんが登場! 11月26日からはミュージカル『蜘蛛女のキス』でタイトルロールを演じます。開幕を前に、舞台のみどころや歌への想いについて語ってくれました。

NAOMI YUMIYAMA
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...

ミュージカル『蜘蛛女のキス』で蜘蛛女役を演じる安蘭けいさん。
写真提供:ホリプロ

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元宝塚星組トップスターの女優・安蘭けいさんが出演する舞台『蜘蛛女のキス』が開幕する。作家マヌエル・プイグの小説を原作に、『キャバレー』や『シカゴ』などのヒット作を生んだジョン・カンダー(音楽)とフレッド・エブ(歌詞)によってミュージカル化された、究極のラブストーリーだ。ラテンアメリカの刑務所を舞台に、2人の男性のドラマが繰り広げられ、そこに、大女優オーロラ演じる蜘蛛女が絡んでいく。石丸幹二、相葉裕樹、村井良大ほかミュージカル界で活躍中の豪華なキャスト陣も期待が高まる。

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安蘭けい(あらん・けい)
滋賀県出身。元宝塚歌劇団の星組トップスター。代表作に『スカーレット・ピンパーネル』(パーシー役)、『王家に捧ぐ歌』(アイーダ役)など。2009年に退団し、現在は女優として舞台を中心に活躍。近年の出演作に舞台『ジェイミー』『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』『サンセット大通り』ドラマ『危険なビーナス』など。芸能生活30年周年記念アルバム『AVANCE』発売中。

——『蜘蛛女のキス」』は刑務所を舞台にした、同性愛者のモリーナと政治犯のバレンティンとのラブストーリー。安蘭さんが演じるオーロラと「蜘蛛女」という役は、映画好きのモリーナが語る物語に登場しますね。

安蘭 オーロラは映画好きなモリーナが憧れている女優で、「蜘蛛女」は、オーロラが舞台で演じた役のひとつ。モリーナはオーロラが大好きなのですが、蜘蛛女にキスをされると死んでしまうので、モリーナは蜘蛛女役だけは嫌いなんです。演じるときは、どちらも圧倒的な強さや美しさといったカリスマ性を出すことを意識しています。

——原作のプイグの小説は1976年の発売当時、ベストセラーになった不朽の名作です。また映画版の『蜘蛛女のキス』は、モリーナのバレンティンへの愛と自己犠牲が感動的を呼び、モリーナ役のウィリアム・ハートはアカデミー賞主演男優賞を受賞しました。それらの作品からインスパイアされたことは?

安蘭 映画を見て、オーロラは独房という退廃的な世界とは対極にいるキャラクターだと感じました。舞台でも、そんな存在でいなければならないと思っています。

あと、モリーナは傷ついたバレンティンに痛みを忘れさせるために物語を語ります。そこでてくるのがオーロラなので、彼女は愛の象徴なんだと。「蜘蛛女」は死の象徴ですね。

——今回の舞台は、『キャバレー』や『シカゴ』を手掛けたジョン・カンダーとフレッド・エブの素晴らしい楽曲も話題です。高い歌唱力で知られる安蘭さんにとって、聴かせどころのナンバーは?

安蘭 やはり主題歌の「蜘蛛女のキス」ですね。この楽曲はミュージカル好きな人は誰もが知っているような名曲。流れるだけでこの物語の世界観が立ちのぼるので、一番の聴かせどころだと思っています。

——彼らの楽曲の特徴などはありますか?

安蘭 曲を盛り上げるために、たびたび転調されるんです。最近の曲はあまりそういうことがないので、少し懐かしい感じがしました。あと、どの歌もキーが凄く低いんですよ。私は宝塚で男役をしていましたけれど、それより低い音が頻繁にでてくるので、稽古で低音部分を強化しているところです。

——出演者は安蘭さんをはじめ、石丸幹二さん、相葉裕樹さん、村井良大さんなど、ミュージカルで活躍されている実力派キャストばかりですね。

安蘭 もしこの舞台をストレートプレイでやるとしたら、おそらく独房だけのセットで終わると思うんです。

でも、今回はミュージカルなので、オーロラの映画の世界が舞台上で作られたり、サンバやタンゴのダンスナンバーがあったりして、ダークな世界をエンタテインメントとして鮮やかなものにしています。すごく夢が広がる、楽しめる舞台になると思います。

最近よく聴く曲と宝塚時代の思い出の曲は?

——次に、安蘭さんと音楽とのかかわりについておうかがいします。普段、よく聴かれるお好きな音楽はありますか?

安蘭 BTSが好きですね(笑)。「ダイナマイト」とか。彼らの場合、パフォーマンスも見たいので、よく映像で楽しんでいます。あと、最近は何が流行っているのかなという研究もかねて、優里さんや藤井風さんの歌も聴くようにしています。男性のファルセットはいまこんな感じなのかとリサーチしたり。

BTSの「ダイナマイト」MV

安蘭 あいみょんさんの「生きていたんだよな」という曲も好きです。自殺した少女の現場をテレビで見てしまったという歌詞で、社会を斜めに見ているような感じが自分の中でセンセーショナルでしたね。もっと可愛い感じの歌を歌う方だと思っていたので、それ以来、注目するようになりました。

あいみょん「生きていたんだよな」

——宝塚時代のお気に入りの曲は?

安蘭 やはり『スカーレット・ピンパーネル』の「ひとかけらの勇気」は、印象に残っています。

ミュージカル『スカーレット・ピンパーネル』より「ひとかけらの勇気」

——安蘭さんは「スカピン」の日本初演時のパーシー役でした。当時、宝塚の舞台で、この歌を披露されたときの感動を今も覚えています。今では日本で何度も上演される人気作品になりましたね。

安蘭 この歌は、作曲家のフランク・ワイルドホーンさんが日本に来られたとき、はじめにデモテープを聴かせてくれたんです。そのときもいい曲だなと思ったのですが、小池(修一郎)先生の歌詞がはいったときに、曲の世界観がより鮮明になって、すごく感動したのを覚えています。

ほかにも宝塚の曲では、トップスターお披露目公演だった『シークレット・ハンター』の主題歌「Eres mi amor—大切な人—」や、『イカロス』で歌ったベッド・ミドラーの「ローズ」も思い出の曲です。

——クラシック音楽でお好きな曲はありますか?

安蘭 ショパンの《別れの曲》は、宝塚の受験の課題曲だったのですごく勉強した記憶があります。ピアノを昔弾いていたときには、リストやモーツァルトをよく聴いていました。モーツァルトはときどき眠れない夜に、癒しの曲として聴くこともあります。

ショパン:エチュードOp.10-3《別れの曲》

人の心に残る歌を歌っていきたい

——ところで、安蘭さんは今年で芸能生活30年を迎え、先日、アルバム『AVANCE』を発売されました。これまでの集大成的なアルバムですが、特に思い入れの強い歌は?

安蘭 もちろん全部の曲に思い入れはあります。ただバラードが多かったので、雰囲気を変えるためにジャズを入れることになり、ジャズ・ピアニストのクリヤマコトさんに弾いてもらったのですけど、初めてご一緒したにもかかわらず、すごく気持ちよく歌えました。

2曲歌ったあと、もう1曲やりたいということになり、その場で決めたのがボーナストラックの「星に願いを」です。ぶっつけ本番だったのに、すごくいい仕上がりになりました。

芸能生活30周年記念アルバム 『AVANCE』
2021年10月13日にホリプロより発売。

これまで出演してきたミュージカルの中から人気曲を抜粋し収録。
シャンソン曲はアコーディオニスト桑山哲也、ジャズ曲はジャズ・ピアニスト クリヤマコトをゲストに迎え、アーティスティックな一面も光る1枚。

——30年の間に、「歌」に対する想いの変化はありましたか?

安蘭 宝塚をやめて12年がたちましたが、途中で歌うことが苦痛になった時期があったんです。自分の中のハードルが高くなり、上手く歌えない自分が嫌になってしまったんですね。そんなとき、ちょうどストレートプレイの仕事が続いて、歌から離れることになって。

もちろん、ストレートプレイも大好きです。ただ、演じながら、「ここに歌があったらもっと伝えられるのに」「ミュージカルなら、もっとこう表現したら伝えられるのに」と思う自分に気づいて。そのとき、歌で表現することが自分の中でどれだけ武器になっているのか、どれほど自分は歌が好きなのかということに改めて気づきました。

——いま、歌ううえで大切にされていることとは?

安蘭 綺麗に歌わないということです。昔、宝塚にいたときに先生から、「君の歌は飽きるんだよ」と言われたことがあるんです。そのときは「歌に飽きるなんてことがあるんだ」って思いましたけど。耳にスーッと入るけど忘れてしまうような歌だったんだと思います。

今も、先生のその言葉は、私が歌ううえでの原動力になっています。人を気持ちよくする歌ではなく、人の心にひっかかる歌、心に残る歌を歌っていきたい。そして、いつも必要とされる役者であり続けたいと思います。

公演情報
ミュージカル『蜘蛛女のキス』

東京公演
日時: 2021年11月26日(金)~12月12日(日)
会場: 東京芸術劇場プレイハウス

大阪公演
日時: 2021年12月17日(金)~12月19日(日)
会場: 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

出演: 石丸幹二、安蘭けい、相葉裕樹/村井良大、鶴見辰吾、香寿たつき、小南満佑子、間宮啓行、櫻井章喜、ほか

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NAOMI YUMIYAMA
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...

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