インタビュー
2025.03.18
特集「ホールへ出かけよう! 2025」

東京文化会館~現代音楽フェスが今年も開催!誰もが気軽に立ち寄れる音楽文化の発信地

上野公園の一角に佇む東京文化会館は、半世紀以上にわたって日本のクラシック音楽文化を支えてきた殿堂。野平一郎・音楽監督のもと新風を起こし、昨年始まった現代音楽フェスティヴァルは幅広い聴衆を集めました。今年はその第2回が開催されます。またインクルーシヴな取り組みや子ども向けのワークショップにおいては、楽界をリードする存在でもあり、誰もが気軽に立ち寄れる場所。2025年の注目企画について、野平一郎さんに伺いました。

取材・文
伊藤制子  
取材・文
伊藤制子   音楽学・音楽評論

東京藝術大学、同大大学院修了。現在、東邦音大・同大学院、静岡文化芸大、日大講師。日仏の20世紀以後の音楽、音楽美学を研究するかたわら、音楽評論、海外オペラ取材なども行...

写真:友澤綾乃

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多種多様な方に来場いただけるような企画を

数年前にすっきりと整備されたJR上野駅の公園口を出ると、左手方向に前川國男設計の品格のある建物が目に入る。1961年開館以来、わが国のクラシック音楽文化を支えてきた殿堂、東京文化会館である。多くの博物館や美術館を擁し、四季折々の美しい自然に恵まれた上野公園の一角をしめる同館は、野平一郎が音楽監督をつとめ、楽界に新風を起こしている。

野平「東京文化会館には中学生の頃からコンサートで通っていましたので、自分を育ててもらった場所のように感じています。クラシック音楽文化を伝える役割を担ってきた東京文化会館ですが、上野は江戸以来の下町文化も共存しているユニークな街なので、こうした点に留意しながら主催公演を考えています。

音楽監督をお引き受けする以前に、東京音楽コンクールのピアノ部門の審査員を担当しましたが、ピアノの先生やピアノ科の学生だけではなく、実にさまざまな方が聴きにいらしていたのが印象的でした。何があるのかなみたいな感じで、気軽に来られるんです。やっぱりこの上野ならではの環境、土地柄というのでしょうか。それで監督になってからも、多種多様な方に来場いただけるような企画をと思っています」。

お話を伺った、東京文化会館・音楽監督の野平一郎さん。作曲・ピアノ・指揮・プロデュース・教育など多方面で活躍している。「ぜひ東京文化会館で生演奏を聴いて“音を手で触る”体験をしてほしい」
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チャップリンの映画、アコーディオンのトリオ、人気ピアニスト……今年も刺激的な「フェスティヴァル・ランタンポレル」 

2025年の主催公演では、野平音楽監督肝入りの目玉企画として、フェスティヴァル・ランタンポレル(11/13~17)に注目だ。

野平「この音楽祭はフランスのニームのレ・ヴォルク音楽祭、パリのIRCAMと提携し昨年から始動しましたが、予想以上に多くの方に来場いただき、大きな手ごたえを感じました。IRCAMシネマなど映画ファンにも好評でしたが、今年は、チャップリンの3つの映画に、フランスの現代作曲家マルティン・マタロンによる音楽を生演奏でつけて上演します。

今年はテーマがモーツァルトとジョージ・ベンジャミン(イギリスの現代作曲家)で、ピアニストの福間洸太朗さんに2人の作曲家のプログラムでのリサイタルをお願いしています。またアコーディオンも入る独創的なTrio K/D/Mトリオ・カデム)の演奏会にもご期待ください。

この音楽祭は日本の若手たちが、外来演奏家から刺激を受け、自身の演奏を高める場にしたいと考えていますので、レ・ヴォルク音楽祭の監督でヴィオラのキャロル・ロト=ドファンが、東京文化会館チェンバー・オーケストラと共演する機会も設けます」。

左)ピアニストの福間洸太朗は、モーツァルト「デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲」、ベンジャミン「ハイドンの名による瞑想曲」他によるリサイタルを開く。人気ピアニストによる現代音楽の演奏が聴けるのも、このフェスティヴァルならではの魅力 ©Shuga Chiba

上)昨年も好評だった現代音楽と無声映画のコラボレーション。今年はチャップリンの3作品『放浪者』『舞台裏』『移民』を上映し、著名な現代作曲家であるマルティン・マタロンが付曲する。映画上映に合わせてアコーディオン、打楽器、ソプラノ、クラリネット、チェロ、トロンボーン、エレクトロニクスによるユニークな作品が生演奏される ©Collection Lobster Films

青少年や入門者に一流の舞台を~「シアター・デビュー・プログラム」「響の森」

主催公演では、クラシック音楽入門者向けの企画も多数用意されている。

野平シアター・デビュー・プログラム《虫めづる姫君》(6/20,21)は、虫をこよなく愛する風変りな姫の物語です。姫君役で舞踏家の我妻恵美子さん、作・編曲家でピアニストでもある加藤昌則さんによりクリエーションされました。グリーグ、バッハ、ショスタコーヴィチ、さらに加藤さんご自身の作品もまじえ、構成されています。そして東京音楽コンクール入賞者の皆さんも起用したアンサンブルが活躍します」

「虫めづる姫君」の舞台。シアター・デビュー・プログラムは、クラシック音楽と他ジャンルがコラボレーションしたオリジナルの舞台を、一流アーティストを起用して小中高生に向けて企画・制作するプログラム。「虫めづる姫君」は、世界の若い聴衆のための音楽作品における創造性と革新性を表彰する章「YAMawards」の「ベストオペラ・コンサート」部門にノミネートされ、国際的にも高く評価された ©堀田力丸

野平《響の森》vol.56(6/8)では、東京音楽コンクールの入賞者で躍進中のソプラノ迫田美帆さんとテノール宮里直樹さんが、プッチーニの《蝶々夫人》《ラ・ボエーム》などの名アリアやデュオを披露。後半はドヴォルジャークの《新世界より》で、オペラとシンフォニーの王道プログラムになっています」

障害のある方も安心して聴ける「リラックス・パフォーマンス」、質の高い子ども向けワークショップ

さまざまな人に開かれたインクルーシヴな取り組みも、東京文化会館が地道に続けてきたことである。

野平リラックス・パフォーマンス(6/7)は、障害のある方も安心して聴けるコンサートです。車椅子席はもちろん、ろう者・難聴者、さらに弱視者の方々を助けるための最新鋭の機器もご用意しています。三ツ橋敬子指揮の東京フィルハーモニー交響楽団による演奏、東京音楽コンクール優勝の中島英寿さんのソロで、ラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番』第1楽章など、おなじみの名曲をとりあげます」。

「リラックス・パフォーマンス」は、完全な静寂でなくても鑑賞を楽しめる、ナビゲート付の初心者プログラム。自閉症や発達障害などによりホールでの音楽鑑賞に不安がある方や、4歳以上の子どももご家族・介助者と安心して鑑賞できる(写真は2023年の公演から)©堀田力丸

野平音楽監督は、数多く開催しているワークショップにも注目してほしいと語る。

野平5月から6月にかけて、6~18か月の幼児向けを含めたワークショップを3日行ないます(5/16, 17, 6/14)。ぜひお子さんたちが音楽を楽しむきっかけにしていただきたいですね」。

「東京文化会館ミュージック・ワークショップ」は、音楽や芸術に対する関心を高め、自己表現能力やコミュニケーション能力を養うことにより、豊かな心を育てることを目的としている。6か月から大人までを対象にした多種多様なプログラムがあり、東京文化会館が独自に育成した優秀なワークショップ・リーダーが参加するため質が高い。回数も多いので、ぜひ気軽に参加してみてほしい(写真は「バーバラの魔法のくすり」2023年の公演から)©鈴木穣蔵
東京文化会館でオペラ、バレエ、オーケストラなどの公演が行なわれる大ホールの内観
東京文化会館

[運営](公財)東京都歴史文化財団

[座席数]大ホール2303席、小ホール649席

[オープン]1961年

[住所]〒110-8716 東京都台東区上野公園5-45

[問い合わせ]Tel.03-5685-0650(チケットサービス)

取材・文
伊藤制子  
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伊藤制子   音楽学・音楽評論

東京藝術大学、同大大学院修了。現在、東邦音大・同大学院、静岡文化芸大、日大講師。日仏の20世紀以後の音楽、音楽美学を研究するかたわら、音楽評論、海外オペラ取材なども行...

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