飯田有抄と音楽でつながる仕事人たち。

第5回:音楽ライター 飯尾洋一さん

インタビュー
2017.11.15

連載も第5回を迎えました。今回は私と同じ肩書きの先輩、音楽ライターの飯尾洋一さんです。飯尾さんはライターのほかにも、音楽ジャーナリスト、編集者という肩書きのもとにご活躍中です。私がライター業を始めた当初から、飯尾さんからはいろいろなお話を伺い、ライター仕事の極意などを教わったように思っています。この日は、私が仕事場にしているレトロな木造アパートの一室にお招きしました。

仕事人
飯尾洋一 音楽ライター・編集者
飯尾洋一
仕事人
飯尾洋一 音楽ライター・編集者
音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...
聞き手・文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター
飯田有抄
聞き手・文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター
1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...
目次

「音楽ライター」とは、何をする人ぞ?

仕事とは、他人の需要を満たすもの

――今日は、後輩ライターが先輩ライターにインタビューをするという、少し変わった企画です。飯尾さんがインタビューを「受けた」ご経験は?

飯尾 ほとんどないですね。この仕事をしていると、インタビューを「する」側に立つことは多いけれど。でも最近、僕は自分がインタビューする仕事もあまりできていませんが。

――「音楽ライター」といっても仕事の内容はいろいろありますものね。今、おもにどんな原稿を書いておられますか?

飯尾 それ、よく訊かれるけれど、意外と答えに窮する質問ですよね(笑)。コンサートで音楽関係者の方に会うと、よく「最近、何書いてるの?」って訊かれる。でも、すぐに答えられなくて、少し困る。そんなことないですか?

――あ、わかります。なぜかスッとは出てこない。

飯尾 僕らの仕事内容はいろいろと分散しているからね。でも、そうだなぁ、大別すると、コラムや連載などの読み物と、コンサートの聴きどころの紹介記事が多いですね。後者は、雑誌やホールなどの主催者が発行している広報誌などに載るもの。最近はチケットセールスにつなげるべく、イベントに先立って書く記事が業界全体に増えている感触があります。

 CDのライナーノートもたまに書きます。不思議なことに、最近コンサートのプログラム解説の仕事が増えています。オーケストラのものが多いですね。

読売日本交響楽団が発行するプログラム誌「月刊オーケストラ」や、オーケストラ・アンサンブル金沢のプログラムノートで解説を執筆。
NHK交響楽団の機関誌「フィルハーモニー」や兵庫芸術文化センターのプログラムノートにも寄稿。

――「不思議」とおっしゃるのは?

飯尾 解説というと、学術的な素養のある若手から中堅の人が書くイメージだから。僕のキャリアはそうではない。

――アカデミックな解説も大事ですが、入門者の人にもわかりやすく、長年の愛好家にも楽しく読める文章が求められる時代なのだと思います。その意味で、飯尾さんの文章はリズム感よくスッと頭に入りますから……なんて、後輩の私がエラそうに、すみません。でも飯尾さん、解説書くのお好きだって、前に言っていましたよ。

飯尾 そう、実は好きですね。

――仕事の種類や内容について、「このジャンルなら任せてほしい!」とか「本当はああいうものが書きたいのに、こういう依頼が増えてしまったな」とか、ありますか?

飯尾 いや、ないですね。僕は「やりたい仕事」っていうのは特にないので。

――えっ!?

飯尾 「来た仕事をやる」のがポリシーというか。仕事というのは、他人の需要を満たすものだと思ってる。自分のやるものを自分で決めない。自分のやるものは人が決める。それでいいんじゃないかな。ただね、断る自由だけはある。やりたくないものはお断りできる。それは、この仕事のいいところです。

異例の書籍デビュー

――飯尾さんには「初めてクラシックを聴く人にもわかりやすく」とか「入門者向けで」といったお仕事が多いですよね。そこに対しては、どんなふうに思っていますか?

飯尾 いいと思っています。最初にどう世に出るかで、その人の方向性は決まると思いますが、僕は最初に出版した本が入門者向けだったので、やはりそういう依頼が多くなっています。それでいいんじゃないかな。

――こちら、記念すべき最初のご著書ですね。

『クラシックBOOK この一冊で読んで聴いて10倍楽しめる!』(三笠書房/王様文庫)

飯尾 2007年、最初に出した本です。会社員としての組織プレイが今ひとつ肌に合わなかったのか、特に志高い理由もないまま出版社を辞めてしまい、フリーランスとなって細々と仕事をしている中で舞い込んだ仕事です。実は、これは実績のある方が執筆する予定だったそうなのですが、その方の都合がつかなくなってしまった。それで急遽代役が必要になって、編集プロダクションの方が僕を推薦してくださったのです。よく指揮者とかピアニストが急な代演でデビュー、というのがあるでしょう。あれですね。

――なんと、書き手にも代役デビューというドラマが!?

飯尾 で、この本がすごく売れた。知らないでしょう(笑)。音楽書にしては驚異的大ベストセラーなんですよ。新聞広告には11万部って出ましたね。売れる本って、発売する前から重版がかかるってことを初めて知りました。本屋に並ぶ前から「重版決まりました!」って2回くらい連絡がきたんですよ。びっくり仰天。

――え、発売前から?

飯尾 もちろん、僕のチカラではありません。当時「のだめカンタービレ」で大人気だった漫画家の二ノ宮知子さんが、表紙に絵を描いてくれたからなのです(笑)!

――!!

飯尾 本屋さんは「のだめカンタービレ」のコミックの隣に、この本を置いたらいいんじゃないか、と考えたのでしょうね。出版社の営業や編集の担当者も優秀で、とてもがんばってくれました。

――華々しいデビューですね!

飯尾 そう。1冊目で夢にも思わなかったヒットを出した。ところがね、同じシリーズで2冊目を出したら、そっちは売れなかった(笑)。そこで早くもトドメをさされたんですよ。早いな、オレの人生は! 一気に頂点まで来たかと思ったら、もうトドメが来たよ、と思いました。

 本がどのくらい売れているかというのは、出版社の人はわかるんです。他社の本でもデータがある程度は見える。売れていない人が売れているフリをするなんてできないんです。だからもう、自分には本の依頼はないな、と思いました。

――シビアな世界ですね。

飯尾 でも、最初の本が売れたからか、そこからじわじわ仕事が広がっていきました。仕事を頼んでくれる人が、どういう経緯で僕のことを知ってくれたのか、そのルートは人それぞれでしたが。会社員時代から知ってくれていた人だったり、僕のWebサイトを見てという人だったり、書店で本を見て知ったという人もいます。

 この世界で活躍してる人って、意外と著書や単著がなかったりするんです。それは、忙し過ぎて本を書く時間がないから。短いサイクルでプログラム解説などの原稿を次々と書いている。仕事が増えると、「本を書く」という時間はなくなっちゃう。書き下ろしはすごくエネルギーが必要だから。僕は1冊目のころ、まだ仕事が少なかったので、執筆時間をまるまる本を書くことに充てられたんですね。

――本は長期的な作業が必要ですものね。雑誌記事や解説などの執筆とは、時間の流れ方が違うというか……。

飯尾 僕は2冊目でトドメを刺され、仕事も増えたので、もう自分には本は書けないと思ったけれど、3冊目のお話が来ました。1、2冊目は、女子高生にもわかるクラシック入門書、という依頼でしたが、今度は40歳前後の人に向けた新書による入門書。こちらも編集プロダクションからの推薦でした。でも、書き下ろしをする時間は持てなかったので、途中までは架空連載のように、毎月少しずつ納品して、ある程度から先はまとめて書きました。

『R40のクラシック ── 作曲家はアラフォー時代をどう生き、どんな名曲を残したか』(廣済堂新書)

――書き手にとって「締め切り」があることは、とても重要ですね。一冊丸ごと書き下ろしは難しくても、連載なら書けるという感覚、わかる気がします。

飯尾 そうこうしていたら、4冊目のチャンスが来ました。やはり入門書です。こちらは、東急沿線で配布されている広報誌「サルース」で連載していた文章を掲載したり、僕が話したことをまとめてもらうなどして形になった本です。最近は監修の仕事でも本に携わっています。

入門者向けの『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)は中国語版が出版されることになった。同じ本とは思えないほどデザインのテイストが異なる。
田中マコトさんの漫画『今宵は気軽にクラシックなんていかがですか?』の監修を担当。やはりこちらも入門者向け。
近刊「マンガで教養クラシック はじめてのクラシック」(朝日新聞出版)は、飯尾さんが監修し、飯田さんも協力している。
ANA機内プログラム「旅するクラシック」では、ユニバーサル クラシックス&ジャズのライブラリーから、テーマを決めて選曲する構成を担当。

飯尾さんと、音楽評論について考える

イロイロある、「書き手」の名乗り方

――ところで先ほど、「フリーランスはやりたくないものはお断りできる」というお話でしたが、どんな仕事が「やりたくない」ものですか?

飯尾 ブラックなもの。

――それ、誰でもいやだと思います(笑)。自分に向かないな、みたいなのはないですか?

飯尾 う~ん……そんなに意識はしていないけど、あえて言えば、演奏会評の執筆かなぁ。あ、でも誰からも頼まれてないや(笑)。

――演奏会の批評を書くのは、「音楽評論家」のお仕事、というイメージですが、飯尾さん、普段は「評論家」という肩書きは名乗っていないですよね。

飯尾 そうですね、名刺には「音楽ジャーナリスト&ライター/編集者」と書いています。でもこの世界、肩書きが細分化され過ぎていて、あまりいい傾向だとは思っていません。人によって「評論家」、「ジャーナリスト」、「ライター」をそれぞれ名乗っていますが、一般の人には違いがわからない。実際、やってる仕事はみんな全部一緒でしょう。

――そうですか? 私は批評をしていないので、自分は「ライター」だと思っています。評論って、「先生」と呼ばれる方たちのイメージがあります。編集者さんが「先生の玉稿、お待ちしていました!」と言ってくれるような世界。

飯尾 たしかに、僕のことを「先生」って呼ぶ編集者はゼロだし、自分でも「先生」マインドはゼロです。どっちかと言えば「生徒」マインドのほうが強いかも(笑)。先生というと、原稿用紙のマス目に手書きで原稿を書いていそう。

 でも、自分の仕事を音楽業界と関係のない人に説明するとしたら、「音楽評論家」というほうがわかりやすい。実際、それを理由に、そう名乗っているとはっきりおっしゃっている方もいます。僕は最初の著書に「わかりやすい」という理由から、出版社に頼まれて「音楽評論家」と付けました。

 「音楽ライター」ってわかりにくい。この言葉、僕は少し引っかかりを感じていて、一種の業界用語だと思ってる。

――「音楽ライター」を英語にしてMusic Writerって言ったら、音符を書いてる人だと思われますね。

飯尾 そうそう。楽譜の浄書屋さんとか、アレンジャーさんとか、とにかくミュージック・スコアを書く感じ。

――もっと適切な言葉が欲しいような気もしてきました。

飯尾 じゃあ「音楽ジャーナリスト」でいいんじゃない?

――それだと、最新ニュースを追っていそうな感じがして、私にはどうもしっくり来ません。

飯尾 「ジャーナリスト」という言葉を辞書で引くと、媒体にモノを書いたり、放送でモノをしゃべったりする人って書いてあったんです。

――あれ? それなら私、ジャーナリストなのかも。

飯尾 そう。この言葉に悪事を暴く正義の人みたいなニュアンスが付くことも多いんだけど、あれ……苦手です。

――依頼がなくても、自分から問題意識をもって、新しい潮流などを嗅ぎつけて取材に乗り込み、記事を書き、マスメディアに売り込む、みたいなイメージもあります。

飯尾 特に、紛争地域に乗り込むジャーナリストはそうかもしれない。でも、趣味の世界、例えば鉄道ファンや料理の世界のジャーナリストだっているわけじゃないですか。「3分でできる美味しい卵料理」について書く料理ジャーナリストだっている。その人たちは僕らと似た仕事をしていると思うな。

音楽の業界では昔から、演奏会評やCD評を書く人が「音楽評論家」で、それをやらないけれどいろんな原稿を書いている人を「音楽ジャーナリスト」と呼ぶような傾向が、なんとなくあります。そういった評を書きたくないという消極的な理由で「評論家」の肩書きを選ばない人が多いのでは?

――そうかもしれません。私の場合、誰かの演奏に対して評価判断して、特に「この演奏はここが問題で、よろしくない」というのを文章にしないので、やっぱり「音楽評論家」と名乗ることには違和感が。

飯尾 でも、「批評」って本当は、「良い/悪い」を論じることじゃないですよね。

――え、違うんですか?

音楽評論とは、何を伝える文章か

飯尾 たとえば文芸評論なら、村上春樹やカズオ・イシグロの新刊について、「第1章の人物描写はとても上手くて、第2章の構成はイマイチだけど、ここの文体はすごく美しくて……」などと良い・悪いを批評で書く人はいないよね。作品について、何らかの見方、新しい切り口や捉え方を読み手に提供してくれるような文章じゃないと、批評とは呼べない。事実、すぐれた音楽批評はみんなそうやって書かれている。

――なるほど。

飯尾 批評とは本来、作品本体から独立して成立するもののはず。作者自身が作品の解釈を一番よく知っているわけではない、カズオ・イシグロの小説の読み方すべてを決めるのは、カズオ・イシグロ本人ではない。それが批評の大前提でしょう。

 演奏について「良い/悪い」の感想を述べるというのは個人の営みとしてあって、僕もツイッターとかブログで、「今日の演奏会は良かった!」と言うことがよくあります。でも、それは感想で、批評とはまた別のものでしょう。

 何かをけなすための評論はおかしいと思いませんか? そんなの、誰が読んでも幸せになれない。かといって、褒めるものばかりを書いて、アーティストの提灯持ちみたいになってしまうのも居心地が悪い。

――そうなんです。私はこの仕事をし始めたころ、飯尾さんが「僕は絶対に人を悪くいう文章は書かない」とおっしゃったのが強く心に響いて、私も密かに掟のように心に誓ったのですが、誰でもかれでも褒めているみたいに思われるのは、とても困る。

飯尾 そうですね。特に演奏会批評は、需要がどこにあるのか考えさせられます。

――一般のお客様が、自分が聴いたCDやコンサートなどについて「私は良かった/良くなかったと思うけれど、プロの評論家の耳には、どんなふうに届いたんだろう?」と知りたくて読む、という需要はありませんか?

飯尾 うーん、自分はすごくいいなと思ったのに、評論家がけなしていたから、やっぱり良くないのかと思う必要はあるかな? 逆に、自分はつまらなかったのに評論家は絶賛してるから、自分が間違っていたと思うのもヘンでしょう。それで自分自身の聴取体験が変わるわけではないのだから。

 でも、演奏や作品の読み解き方を提示してくれる評論は、読んでいておもしろいし、発見がある。たとえば、ある指揮者がブルックナーの交響曲を演奏したときに、その作品をシューベルトの音楽の延長上にあると捉えていて、そのような工夫が見られる演奏をしていた、みたいな話だったら。

――それはおもしろそう。読みたいです。

飯尾 作曲家や演奏家の意図がどうであるかにかかわらず、その批評家独自の切り口で首尾一貫していて、独立した読み物として成立していれば、それでいいと思うんです。そういった形の、すごくおもしろい評論を書いておられる方々はいらっしゃる。

――飯尾さん、これからも肩書きは「音楽ジャーナリスト、音楽ライター、編集者」でいきますか?

飯尾 編集者から「署名の横の肩書き、何て付けますか?」って、本当によく尋ねられる。文字数に合うのでいいかな(笑)。

書く仕事は「恥ずかしい」!?

黒田恭一さんからのアドヴァイス

――ところで、飯尾さんは私がライター駆け出しの頃、仕事についてのさまざまなアドヴァイスをくださいました。私より若い世代のライターはまだ少ないですが、これから次の世代に育ってもらうためにも、ここで改めてお聞きしてもいいですか?

飯尾 僕自身が駆け出しの頃、書く仕事で生きていく自信はまったくなかったけれど、すごく納得のいく方法があったので、それはお話してきたかな。でもそれは、僕もフリーランスの先輩から聞いたお話で、元をたどれば日本の音楽評論の大御所、故・黒田恭一さんからのアドヴァイスなんです。黒田さんは僕が出版社時代に編集担当をしたこともあり、とても尊敬する方です。いくつかのアドヴァイスの中で、特に僕に響いたのは「営業するな」。

――「営業するな」(復唱)。つまり、名刺をもって「何かお仕事があればください! 何でもやりま~す!」などとご挨拶して回ることをしない、と。

飯尾 黒田さんによると、「営業しないで、なんとなくフラフラしていると、そのうち何か仕事が来る」という話なんだよね。でもそれを真に受けて、本当にフラフラしているうちに、何も来なくて無職になっちゃうかもしれないよね? っていう、コワい話もその先輩としていたんだけど(笑)、僕にはとても腑に落ちる話だった。

 自分の編集者時代を思い起こすと、やはり会社に営業しにくる人がいたんですよ。編集プロダクションの方や、執筆者の立場の人。「じゃあこの人に、この仕事を頼めるなぁ」と依頼するでしょう。するとね、自分はこの人に仕事を頼んで「あげた」っていう意識が残ってしまうんです。

――「やってあげた」感ね……。

飯尾 逆に、編集者が「この原稿を書いてほしい」と思う人がいて、お願いしてみたら快く引き受けてくれた、となると「嬉しい! なんていい人なんだ!」という気持ちが残る。同じ仕事でも、相手に対して気持ちの違いが生まれるんです。

 それを知っていたので、自分が書く立場になってからは営業しないことにしました。頼まれたものをやる。未だにそれは大事だなと思っています。

 執筆者の人たちって、文筆で身を立てていくことを目標としてやってきたというよりも、「結果的にそうなった」っていう人が多いのでは? 僕もそう。目標ともしてなかった。

――実は、私も同じでございます。いい具合に成り行きで……ありがたいことです。でも、飯尾さんから早い段階で「営業はしていないよ」と伺っていたので、深く理由も考えずに真似していました。だいたい私は当初業界に疎くて、「営業の仕方」もわからなかったので、「しなくていいのか、よかった」みたいに思っていました(笑)。その代わり、巡り巡ってご依頼いただいた仕事は120%の全力でこなして、次につながりますように……という思いだけは込めてやってきました。

「賢く見せたい」気持ちは大敵!

――飯尾さんがこのお仕事をしていて、喜怒哀楽を覚える瞬間を教えてください。

飯尾 嬉しい瞬間は、原稿がうまく書けた! と思うときかな。

――「うまく」というのは、ご自分の感触で? それとも編集者さんからのリアクション?

飯尾 編集者さんのリアクションがいいのは最高に嬉しくて、とても力になりますよね。

――はい。編集者さんの反応は励みになりますし、反省材料にもなります。

飯尾 原稿は書いたものがそのまま世に出るわけじゃなくて、まず編集者からの「赤字」が入るからね。誤字脱字のチェックから正誤の確認、修正案などが書き込まれて戻ってくる。「赤」が入るのは大歓迎です。それでも間違いが起こる可能性はゼロではない。それに、日本語の上手・下手の問題もある。

 だから僕は「原稿を書くこと」は、「恥ずかしいこと」だと思うんです。どんな原稿でも、実際に書いている時間よりも、プレッシャーと戦っている時間のほうが長い。会社員なら個人名は出ないけど、自分の名前で、自分の原稿の至らない部分も、すべて丸見えになるわけだから。

――そうですね。一つ一つの原稿に「試されている感」を覚えながら仕事をしています。

飯尾 恥をかくのも仕事のうちですね。僕の原稿を読んで、「この書き手はこの程度の理解なのか」とか「日本語力低いな」とか思う読者、バカにしながら読む読者だって必ずいると思うんです。ライターをしていたら、バカだと思われないことはありえない。

――でも、そこが魅力だと思うんです。ときに「自分はバカだと思われていい!」くらいの勢いで、少し変わった切り口を提示したり、初心者向けの文章で思い切った柔軟な説明をしたりして、それが許されることもある。「絶対にバカだと思われてはいけない」というか、たえず「賢い人だと思われ続けなければいけない」お仕事ならばツラいし、あまりおもしろいものが書けなくなりそうです。

飯尾 そう。「自分を賢く見せたい」という気持ちは、この仕事にとって大敵ですよね! 僕は最初のころ、その点で苦労しました。

 とくにインタビュー記事などには、危険な罠がある。自分がいかにアーティストからの信頼を得たかとか、自分はアーティストと親密なんだといったアピールをしたい誘惑に駆られたりするけれど、それは記事に出したらダメだと思うんです。そんなの読者からしたら、どうでもいいんだよね。読者が興味を抱くのはアーティストなのであって、インタビュアーじゃないんだから。

――同感です。私は記事上で自分がどれだけ透明な存在になれるかに挑んでいます(笑)。文はおもしろいけど、書き手の存在は気にならない、見えない、というのが理想です。飯尾さんは「うまく書けた!」という原稿は、どういうときに生まれますか?

飯尾 最初に明確なアイディアが生まれたときです。楽曲解説などでは、情報を伝えれば十分という考え方で、無色透明に書くことも一つの技術。でも、そこに何かひとつのエピソードとか、この視点を強調しようというアイディアがあるとうまくいきますね。

 まったく同じ参考文献を使ったとしても、10人ライターがいたら、10人がまったく違う原稿を書く。フィギュアスケートの規定演技じゃないけれど、制限のある中で何ができるか。

――同じ3回転ジャンプでも、正確さだけではなく、何かそこに魅せるものがある、みたいなのが理想ですね。

 

メディア露出は意外と楽しい

――原稿書きは恥ずかしい仕事とおっしゃる飯尾さんですが、最近はラジオやテレビのお仕事で、ご自身の露出も増えていますよね。さらに恥ずかしさとのプレッシャーと闘っておられる?

飯尾 いえ、ラジオやテレビに出るのは好きですよ。

――え! 意外すぎます(笑)。

飯尾 今楽しいのは、新潟のFM PORTの番組「クラシック ホワイエ」のお仕事。土曜夜の1時間枠なのですが、構成、台本執筆、お話を担当していて、「スポーツと音楽」、「動物に関する曲」など、いろいろな特集を組んでいます。テレビは大晦日のEテレの「クラシック・ハイライト」が楽しかったです。

――前に飯尾さん、「人前でしゃべるのはいやだ」っておっしゃっていましたが……?

飯尾 そう。人前はいやだけど、スタジオのマイクの前で話すのは好き。カルチャースクールなどの講座で話すのは、本当にニガテ。

――講座は何十人単位、でも、マイクの向こうには何万人といますけど。

飯尾 たとえ数人でも、目の前の人におもしろくなさそうな顔をされてしまうのがニガテなんです。スタジオだと、視聴者のお顔は見えないから大丈夫。

――なるほど。ご自分が出演していないけれど、携わっている番組もありますね。

飯尾 2015年から「題名のない音楽会」に「音楽アドバイザー」として関わっています。番組の構成会議に参加したり、番組ブログの執筆等に携わっています。毎週製作していますし、テレビは関わるスタッフの人数がとても多いので、原稿の仕事とはまったく違ったスピード感とスケールの中でがんばっています。

イラスト:飯田有抄

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