第7回:東京都交響楽団 広報・営業部 竹末健太郎さん
大ホールを華やかに、そして迫力満点に彩るオーケストラのコンサート。磨き上げられたプロの楽団が奏でるプログラムにはさまざまな工夫が凝らされ、初めてオーケストラのサウンドを耳にする人たちから、毎月訪れる定期会員まで、多くの来場者の心を満たしてくれます。指揮者や楽員たちの演奏はもちろんのこと、コンサートの企画や運営、そして周知を促す広報や集客など、さまざまな業務を行なう事務局の働きによって、1回1回のコンサートが充実したものとなっていきます。今回は、東京都交響楽団の広報・営業部の竹末健太郎さんのもとを訪れ、オーケストラ事務局での竹末さんのお仕事について教えてもらいました。
オーケストラと社会とをつなぐパイプ役でありたい
オーケストラと音楽の魅力を伝える「通訳」
――東京都交響楽団の演奏会を訪れますと、よく会場の出入り口付近で竹末さんのお姿を見かけます。にこやかに、かつキリッと、来場者をお迎えしたり、送り出されたりしていますね。
竹末 チケット引き換えの窓口対応や、終演後お帰りになるお客様をお見送りすることは多いですね。帰り際に「今日の演奏会良かったよ!」「感動しました」などというお声がけをいただくことがあると嬉しいです。
――普段は事務局の「広報・営業部」としてお仕事をなさっているとのことですね。
竹末 オーケストラの活動自体を広く知っていただくための広報や、演奏会チケットの販売促進の仕事をしています。
広報というのは、オーケストラと社会とをつなぐパイプ役だと僕は思っています。オーケストラが発信したいことを、一般社会のお客様に広く知っていただきたい。そのためにはお客様の目線に立って、どんな情報だったら興味をもっていただけるかを常に考えています。
――その「情報」とは、具体的にはどんなところで目にできますか? どなたにもアクセスしやすいものはあるでしょうか。
竹末 たとえば都響のWebサイトでは、コアなクラシック・ファンのお客様だけではなく、これからオーケストラを聴いてみたい方にとっても読みやすい内容や、特定の作曲家や作品についての導入になるような特設ページも作っています。飯田さんのようなライターの方々にもご協力いただいて、「こういうポイントで、こういう内容の読み物をお願いします」と依頼し、ページを作成していきます。
――そうでした。以前、竹末さんからマーラーの「大地の歌」について文章をご依頼いただきましたが、その切り口がとても明確で、「ああ、こういう読み物をお作りになりたいのか」という方向性が、書く側にもよく伝わりました。
竹末 たとえば、マーラーの1番から9番までの交響曲はなんとなく知っているというお客様も、「大地の歌」のような作品となると、急にサーッと潮が引くように反応が薄くなってしまうときがあります。「大地の歌」にもこんな魅力や、こんな由来があるんですよ、というのをお伝えできれば、きっと関心をもっていただけるのではないかと、5つの視点にポイントを絞る形で執筆いただきました。
――解説よりも一歩手前の読み物、ですよね。そういった文章を書くのは個人的にも好きなので、ご依頼いただけて嬉しかったですし、ポイントを絞ることで私自身の理解も整理されました。
竹末 ストレートすぎる情報だと、かえって届きにくいこともあると思うのです。伝えたい情報を要約し、ある意味「通訳」をして情報を出さないと、演奏会や音楽そのものの魅力をお伝えできないこともあるかなと思います。20世紀や同時代の作曲家・作品紹介などについては、特にそう感じます。
――最近では、1月の定期公演で都響音楽監督の大野和士さんが指揮されるメシアンの「トゥーランガリラ交響曲」についてよくわかる特設ページもユニークな構成ですね。小田島久恵さんのコラム「クラシックとスピリチュアルな話」は、その切り口や星座占いも飛び出す内容が新鮮で、メシアンをより身近に感じさせてくれると思います。
竹末 「トゥーランガリラ交響曲」の魅力をお客様にもっと知っていただくにはどんな方法があるか、いろいろと考えました。ひとつ思ったのは、作品の聴きどころなどを解説的にずらりと並べて紹介しても、未知の方々にはなかなか響かないのではないということ。作品名からしても「難しい」、メシアンという作曲家でさらに「とっつきにくい」という印象をもたれてしまう。そうした方々にも、少し身近なところの話題をうまく組み合わせて紹介できれば、「こういう捉え方もあるんだ」と知っていただけるのでは、と考えました。
この作品には「愛」という概念が深く関係していますから、星座やドラマなどをキーワードとしてライトに書いていただこうと、小田島さんにご依頼させていただきました。
――このページでは大野さんの解説動画もあって充実していますが、私も原田節さんにオンドマルトノについて取材させていただいて、この楽器についてわかりやすくお伝えするお手伝いができて嬉しかったです。
竹末 原田さんのお話はとても素晴らしかったですね。飯田さんには、以前ジョン・アダムズの作品「シェヘラザード.2」に関連して、生頼まゆみさんにツィンバロンの取材をしていただきましたが、珍しい楽器を前にしたときの飯田さんの子どものような目の輝きといったら……!(笑)
――あまり知られていない楽器だけに、それはもう興奮しますよ(笑)。その仕組みなどをお伝えできることにも興奮でした。そうした珍しい楽器も含め、新しい作品について、都響が特設サイトで事前に情報を発信されていること自体も、広く知っていただきたいですね。
竹末 はい。たとえチケットの購入そのものには至らなかったとしても、特設ページなどをきっかけに都響のサイトを訪れていただいて、都響を知っていただくのも、広報としての大きな役割だと感じています。
広報媒体のデザイン
――Webサイトだけではなく、広報のさまざまな媒体がありますね。
竹末 チラシやダイレクトメール、毎月発行している「月刊都響」(コンサート会場で配布)など、制作物はたくさんあります。「月刊都響」には、プログラムの楽曲解説のほか、オーケストラの活動紹介やインタビュー記事なども掲載しています。
――内容の充実度はもちろんですが、デザインなどにもこだわっていらっしゃるのでしょうか。
竹末 そうですね。「月刊都響」については、年間を通じて指揮者の写真をベースとしながら、月ごとの代わり映えも出したいので色の指定にはこだわって、デザイナーさんと相談しながら制作しています。同じ黄色でも微妙に違う黄色だったり、蛍光色を使ったり……。私の担当ではありませんが、チラシやダイレクトメールなども、見やすさだけでなく印象に残るようなデザインに仕上げたいと思っています。
――クールでカッコいいイメージのものが多いですね。オーケストラの定期演奏会はどの楽団でも割とお客さんの年齢層が高いですが、若い人たちにも響きそうなデザインといったところも意識しているのでしょうか。
竹末 オーケストラの演奏会はご来場いただくと一目瞭然ですが、たしかに年齢層の高いお客様に支えられているのが現状です。しかし、昨今のシルバー層は情報に対して敏感ですし、シルバーだからといって若々しいデザインが響かないかというと、そうではありません。もちろん新しい若い顧客層も視野に入れながら、チラシを受け取る方々がどんな場所で手に取り、どの要素が際立っていたらしっかり見ていただけるか、お客様の目線、立場に立って考えます。そうしないと、本来のチラシとしての機能が成り立たなくなってしまいますね。
トロンボーン専攻の音大生が目覚めた「感動の共有」
釣り竿に釣られ、トロンボーンと出会う
――竹末さんは東京都交響楽団の事務局でお仕事をされてどのくらいになりますか?
竹末 10年くらいになりますね。どうしてもこの仕事に就きたくて、大学を卒業してから1年間、事務局の募集が掛かるのを待ちに待って、ようやく受けることができ、念願の事務局に入ることができたのです。
――そうでしたか! 学生時代は何をお勉強されていたんですか?
竹末 武蔵野音楽大学でトロンボーンを吹いていました。中学で入部した吹奏楽がきっかけです。部活動では卓球をやりたかったのですが、たまたま入学した中学校の吹奏楽部が強くて、親が「釣り竿を買ってあげるから、吹奏楽部に入りなさい」と。
――釣り竿?(笑)
竹末 今でも釣りは好きで趣味でやっているんですが、当時1000円くらいのホームセンターで売ってるような釣り竿を、親が買ってくれると言うんです。甘い誘惑、人参をぶらさげられたような格好ですね(笑)。買ってもらえるなら……ということで入部しました。
自分に強い希望があったわけではないから、最初はたまたまパーカッションを担当しました。コンクールに出て金賞もいただけたのですが、2年生で先生から突然マウスピースを渡されて、「竹末、ちょっとお風呂で練習してきて」と。なぜか金管楽器を希望する生徒が少なかったんですね。トランペットは人気なんですが、ユーフォニアムとかテューバとかトロンボーンは生徒が足りていなくて。う~んこれでいいのかな……とお風呂でブーブー吹いて練習していまして、気づいたらトロンボーンへ転向ということに(笑)。
――でもそれでハマってしまった?
竹末 そうですね、割とひとつのことにのめり込むタイプです。高校時代も吹奏楽にのめり込んで、お昼休みもご飯を食べ終えると音楽室に直行して楽器を吹いたり。ピアノを弾ける友だちと合奏したり、オリジナル曲を作って演奏したりと、音楽漬けの青春時代でしたね。進路を決める際、もう少しトロンボーンを勉強したいという心がありましたので、武蔵野音楽大学に進みました。もう朝から晩まで、ひたすら楽器と向き合い、練習に没頭するような生活でした。
オーケストラの感動体験がもたらした「共有」への欲求
――それだけ楽器の演奏に夢中になっておられた竹末さんが、プレイヤーとして音楽の道に進むのではなく、オーケストラの事務局という仕事を選ばれたのは、どういう経緯があったのでしょう?
竹末 私はずっと吹奏楽にのめり込んでいたので、実はオーケストラを意識的に聴いたのは大学に入ってからなんです。そのときの強烈な感動ですね。
――大学に入ってから初めてオーケストラを聴いたというのは、ちょっと意外ですね。
竹末 大学のトロンボーンの先生の一人が、東京都交響楽団の当時のバストロンボーン奏者、井上順平先生だったんです。先生が学生たちに聴きにこないかと声を掛けてくださり、それが初めて出かけたオーケストラのコンサートでした。そのとき演奏されたのはブラームスの交響曲第1番と第3番。なんて素晴らしいんだ! と感激しました。吹奏楽とはまた違った魅力が心に響いたんですね。それからオーケストラが好きになり、国内外のオーケストラのコンサートにちょくちょく行くようになったんです。
そして決定的な経験をしました。大学3年のときに聴いた、エッシェンバッハ指揮のフィラデルフィア管弦楽団のコンサート。曲目はマーラーの交響曲第5番でした。いつものように出かけたのですが、これまでの私の人生の中で1番2番を争う、すごい衝撃を受けました。特に衝撃だったのが、第4楽章のアダージェット。何とも言えない感覚に陥りました。
――ああ、音楽を聴いて受ける強い衝撃。あの「何とも言えない感覚」というのはわかる気がします……。
竹末 よくアスリートの方たちが「ゾーンに入る」という言い方をしますよね。「究極の集中」とも言われたりするんですけれど、あの感覚に近いのではないかと思います。例えばゴルフなら、通常は五感をフルに活用して、気温や湿度や風向きや芝の様子などの情報を読み取り、意識してカップに向けて飛ばす。ところが「ゾーンに入る」と、数百メートル先にあるカップが目に見えるような、手に取るような感覚がやってきて、どのくらいの力とバランスで打てばいいのかなどを頭で考えることなく打てて入ってしまうことがあるそうです。
それと似たような感覚が本当にあって、もはや音楽を能動的に「聴く」のではなく、「聴く」を超えた高い集中によって、自分の身体の中に自然と入ってくるような状態に、そのときの私は入っていたのだと思います。ステージの上に、たとえ小さな水滴がポタッと一滴落ちるのも聴こえてしまいそうな集中力。その感覚の中で、オーケストラの奏でる音の洪水を受け、泣いてしまうくらい感激したのです。
その感動を味わえたときに、この感覚をたくさんの人と共有したい! という気持ちが、自分の中に強く湧き起こるのを感じました。
私は昔から、例えば美味しいものを食べたりすると、自分だけが味わうのではなく、誰かと一緒に分かち合いたいと思うタイプなんですね。ですから、そのとき味わえた感動も、多くの人に届けることができたらいいのではないか、自分はせっかく音楽の勉強をしているのだし、何かできることをしたい。プレイヤーとして音楽を届ける仕事はもちろん素晴らしいけれど、自分はいわば裏方として、広く多くの人に音楽を伝える仕事に携わってみたいという思いが芽生えたのです。
――強烈な体験ですね……すばらしい!
竹末 忘れられない体験ですね。飯田さんにもそういう演奏会の記憶ってありませんか?
――ああ……ありますね。それこそ、先ほど話題に出た「トゥーランガリラ交響曲」。やはり私も大学3年でした。ゼミ発表のような課題で、ちょうど作品の勉強をしていたんです。たまたまコンサートがあり、秋山和慶さんの指揮で、オンドマルトノはやはり原田節さんだったと思いますが、オーケストラはどこだったか思い出せないけれど……とにかく聴き終わったあと立ち上がれなかった。宇宙のビックバンみたいな、こんなすごいことが、こうやって夜な夜なコンサートホールで起こっているとしたら、それもすごい! と興奮して、忘れられない経験になりました。
竹末 コンサートに通われるお客様たちには、きっと誰にでもそのような経験があるのだと思います。演奏会での感動というのは、演奏の勢いや熱気だけでなく、聴く側のそのときの心身のコンディションなど、いろいろな要素が重なって心に響くとは思うのですが、やはりそれを、一人でも多くの方と共有できたら素敵ですよね。
――その体験があって、今のお仕事。竹末さんに広報はまさにぴったりですね。晴れて事務局に入られたときの喜びは大きかったことでしょう。
竹末 そうですね。入団してからリハーサルを見たときにも、またビビビッと、うわぁこれだぁ! と感激しましたね。演奏会が作られるまでの過程を見られますから。都響は定期演奏会の本番までに3日間のリハーサルがありますが、その3日で仕上げて本番を迎えなければいけないので、楽員さんもすごく神経を研ぎ澄ませ、練習量も多く、指揮者の熱量もすごい。そういう現場を初めて目の当たりにして、ああ、こういうふうにプロの音楽は作られ、進化していくんだなぁと感激しました。
今でも取材などでリハに立ち会うたび感激しています。これはやっぱりオーケストラで働いている醍醐味ですね。充実しているなと思います。
▼ ベートーヴェン「第九」公演での竹末さんのお仕事(2017年12月25日/東京文化会館)
時代を見据え、世界に向けた発信を
時代の流れを敏感にキャッチして
――日本のプロ・オーケストラの実力はどんどん上がっていますし、各団体が工夫を凝らしたプログラムや活動を行なっています。竹末さんから見て、東京都交響楽団とはどんなカラーのオーケストラですか?
竹末 今や日本のオーケストラは、世界に発信すべき高い実力をもっていますが、単に「弦楽器が強い」とか「金管楽器の響きが素晴らしい」といった演奏面だけでカラーを語れる時代ではありません。広報として、オーケストラと社会とのパイプ役として語るならば、「東京都交響楽団はいち早く時代の移り変わりに反応し、変化を遂げているオーケストラ」だと言えます。
たとえば、都響は首都圏のオーケストラとしてはいち早くロゴマークを刷新しました。2009年から使用している現在のロゴは、お客様から都響についてのイメージをアンケートで何百枚も募ったり、事務局も楽員も一緒になって委員会を立ち上げて考えたりして、それをアートディレクターの佐藤可士和さんに伝えて作られたものなんです。青と赤の五線を表したデザインは、冷静と情熱、繊細さと迫力など、相反する二つの要素を織りなすようにしてオーケストラが成り立っていることを表しています。
ロゴマークは一例ですが、オーケストラも時代に即した効果的な発信力をもたなければいけないと思います。時代の移り変わりは早い。携帯電話が出てきたと思ったら、もうスマートフォンの時代です。伝統は守りつつも、変わるところ、時代に即したアップデートはしていかなければ、取り残されてしまいます。時代のデバイスに合わせて発信しなければ、届けたい層に情報が届かなくなってしまいますね。アメリカなど海外のオーケストラはその点で進んでいます。
ニューヨーク・フィルやロンドン響、ベルリン・フィルといったトップオーケストラが、WebサイトやSNSなどでどんなことを発信しているかなどをチェックして、変化のスピードに注意を払いながら感度を上げるようにしています。
――良い演奏と同時に、時代に即した情報発信をする。これがプロの団体としてとても大切なのですね。
竹末 クオリティが高い演奏ができればそれで良い、というものではなく、オーケストラと事務局とがお互いにレベルアップしながら両輪となって進んでいかないと、ひとつの団体としての発展性がなくなってしまいます。事務局側の体制が弱ければ、いろいろな面で楽員を支えられなくなって演奏クオリティも落ちてしまう。両者がひとつになって進むことが非常に大事だと思っています。
――楽員さんたちの交流はありますか?
竹末 楽員と事務局とが意見交換をするセッションがありますので、そこがいろいろな提案を互いに出し合う交流の場となっています。そこで出た課題を、事務局側は各部署で相談しながら解決していきます。
――もう少し非公式的な交流もあるんでしょうか? たとえば、一緒に飲みに行くとか。
竹末 それがですね、私の気持ちとしてはいつでも飲みに行くのはウェルカムなのですが、残念ながら働く時間帯がずれているんです。都響の事務局スタッフは定時が9時半から18時15分まで。楽員のリハーサルは10時半から15時半まで、なかなかタイミングが合わないんです。でも、地方の出張コンサートの際などには、食事をしながらお話を聞いたり、ということはありますね。
――お客様とは、どんなふうに交流されていますか?
竹末 最初にお話したように、演奏会の後で直接お声がけいただくことも多いのですが、お客様の潜在的なお声というのはなかなか聞き出すことが難しいですね。そこで、毎回の演奏会でアンケートを取らせていただいています。定期的に質問の内容を変え、公演プログラムにどういった改善の余地がありそうか、どんな連載記事があったら良いかなど、さまざまな意見をお寄せいただく形でコミュニケーションを取らせていただいています。
――演奏会場で見られるお客様の様子から、竹末さんが何かを感じとることもあるのでしょうか。
竹末 そうですね、都響は毎回クオリティの高い演奏をお届けしておりますが、その中でも、多くのお客様が満足される公演というのはやっぱりあって、そういうときにはお帰りになるときの姿が違いますね。ニコニコと積極的にお声をかけてくださるお客様が増えます。それと、演奏が終わった瞬間の拍手。これまでに何百回と拍手を聞いてきていますから、わかるんです。ボリューム、勢い、スピードから厚く感じる拍手があって、いつも以上にご満足いただけたとわかります。
人と人とのつながりをもたらす音楽の力
――音楽の送り手として多くのお客様に働きかける竹末さんは、音楽にどのような力があると感じていますか?
竹末 音楽には、人と人とのつながりをもたらす力があると思います。大ホールに集まる約2000人のお客様は、当然お一人お一人状況が違います。演奏会の前に嬉しいことがあった人もいれば、悲しいことがあった人もいる。体調がいい人も悪い人もいる。曲目が響くプログラムのこともあれば、そうでないこともある。
そうしたバラバラの人たちが、そのときだけは、みんなが同じ空間にいて、同じ音楽に耳をすませて聴いている。そのひとつの接点が生まれることでつながる。もちろん、お客様それぞれに捉え方もバラバラです。でも、だからこそ音楽の受け止め方には広がりがあります。
――多くの人がひとつにつながり、なおかつそこから多様な受け止め方が生まれる。コンサートは素敵な空間ですね。
竹末 はい。だからこそ、一人でも多くの方に足を運んでいただきたいです。クラシック音楽は、とかく「わかろう」とする方が多いかもしれません。クラシック初心者の方は時々「わからないから敷居が高い」とおっしゃったりしますが。
――特にクラシックに対して言われることですね。
竹末 でも、そこでお伝えしたいのは、音楽とは「わかる」ものではないということ。美味しい料理を食べたときに、「美味しい」というのはわかる。でも「これは国産の○○の和牛で、調味料は○○を使っていて、この焼き加減が絶妙だから美味しい」とわかる必要はないじゃないですか。評論家なら別としても、音楽がただそのときの自分にとって、心にどう響いたかが大切。ベートーヴェンでもマーラーでもブルックナーでも、彼らの音楽を硬く高尚なものだと括らずに、素直にひとつの音楽として向き合って聴いていただきたいですね。
――お料理の例え、わかりやすいですね! ジャンクフードばかり食べていると、急に高級なフレンチなどを口にしても「美味しい」と思わないかもしれない。見知った味のほうが安心しますから。でも、大人になるに従って、社会経験を積む過程で少しずつ素材のよい料理を口にする機会も増える。すると、美味しさを感じ取れる繊細な味覚が徐々に成長したりしますよね。ふとジャンクフードに戻ったときに「あれ? なんでこれが美味しかったのかな」と思ったりもする。味覚と同じように、音楽を聴く耳も、少しずつ成長するように思います。
竹末 コンサートにたまたま人に誘われて足を運ぶのもいいと思います。スタートは何であれ、聴けば聴くほど、クラシックには発見があると思いますね。
――なかでもやっぱり、オーケストラはその音楽的宇宙が大きいですよね。
竹末 圧倒的に奏者の数が多いですからね。多いときで約100人、合唱も合わせると何百人もの人が集まって演奏しますから、その分伝わってくる音圧は違いますね。その圧を共有できるとき、お客様と何かしらつながることのできる力をしみじみと感じます。
――竹末さんがこれからやってみたいこと、夢はありますか?
竹末 日本のオーケストラの素晴らしさを、国内外を問わずもっと伝えていきたいですね。2020年には、東京オリンピックが開催されます。誰が見ても何かが起こりそうな年。都響はもともと、1964年の東京オリンピックを記念して設立された団体なんです。そういう経緯もありますから、今後も積極的に発信して、多くの人々に知っていただけたら本望です。
▼ 竹末さんが広報の仕事で大変だと感じたこととは?
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