伝統と革新 オペレッタの殿堂ウィーン・フォルクスオーパーの今~指揮者ジョエルにきく
年末年始のサントリーホールは、1年間でもっとも華やかになる。オペレッタの殿堂ウィーン・フォルクスオーパーから、ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団が一流歌手たちとともにやってきて、優雅な調べを奏でてくれるからだ。
来日公演を控え、今回タクトをとる首席客演指揮者のアレクサンダー・ジョエルにメール・インタビューをおこなった。有名な歌手のビリー・ジョエルを異母兄弟に持つというその素顔、ウィーン・フォルクスオーパーの百年以上続く変わらぬ伝統と最近の新しい傾向、そしてヨハン・シュトラウスⅡ世の生誕200年にちなむ特別プログラムについて、以下にご紹介する。
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
世紀転換期のウィーン文化を今に受け継ぐウィーン・フォルクスオーパー
サントリーホールが1年のうちでもっとも華やかになる年末年始。ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団がほぼ毎年来日して、優雅な音楽のひとときを届けてくれるようになって約35年にもなる。和服などで着飾った人も多く、おおらかで本当に素敵な雰囲気になる。初詣のついでにぜひ足を運んでほしいひとときだ。
ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団の演奏は、日ごろ私たちが耳にしているオーケストラの響きとは何かが根本的に違う。
楽器たちが本当によく歌うのだ――それはやはり、彼らがオペレッタの殿堂、ウィーン・フォルクスオーパーで、いつもは劇場のオーケストラ・ピットのなかで演奏しているからだろう。
今回の来日公演のタクトをとるウィーン・フォルクスオーパーの首席客演指揮者アレクサンダー・ジョエルに、その音楽的特徴と魅力について尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。
「この劇場には昔から変わらない伝統――ウィーン独特のユーモアがあるんです。それはオーストリアのキャバレーの伝統に基づいており、多くのオペレッタ作品の中にも満ちています。
それから、最近の新しい傾向についてもお話しすべきでしょう。新作オペラ《アルマ》や《世界を忘れよう-フォルクスオーパー1938 (Lass uns die Welt vergessen – Volksoper 1938)》のような作品を世界初演していて、20世紀のオーストリアにおける歴史的出来事に光を当てて、ひじょうに革新的なこともやっているのです」
オペラだけでなくマーラー、ブルックナーなどのドイツ・オーストリアの管弦楽作品にも幅広いレパートリーを持ち、気品と情熱を兼ね備えた音色をオーケストラから引き出すことができる指揮者。1993年から2003年までフォルクスオーパーのカペルマイスターとして活躍。2022/23シーズン以降、フォルクスオーパー首席客演指揮者として定期的にタクトを振っている
ここでジョエルが言う「キャバレーの伝統」とは、20世紀初頭にウィーンにオープンしたキャバレー「常夜灯」や「フレーダーマウス(こうもり)」のことを指している。とくにヨハン・シュトラウスⅡ世の有名なオペレッタの名前を冠した後者は、当時の最先端の工芸美術家集団「ウィーン工房」がインテリアを手掛け、演劇・文学・音楽・舞踊のさまざまな芸術家たちが集まってきて、世紀転換期のウィーン文化のサロンを作り出していた。
ちなみにウィーン・フォルクスオーパー(民衆・国民のための劇場の意)の創設は「フレーダーマウス」よりも9年ほど早い1898年。ほぼ同じ頃と言っていい。
右:LED照明でライトアップされた現在のウィーン・フォルクスオーパー ©Barbara Pálffy/Volksoper Wien
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