「ひとは炎を隠したがる」――ウィーンの名女優のために書かれた劇中歌
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
ウィーンの名女優のために書かれた劇中歌「ひとは炎を隠したがる」
1789年からウィーンのブルク劇場の女優で活躍した女優、フラヌル・フォン・ヴァイセントゥルン夫人(旧姓ギュルンベルク、1773~1847)が、劇中で歌う挿入歌として作曲されたもの。これまで成立年代不詳であったが、残された自筆譜に「ヴァイセントゥルン夫人のためにルイ・ヴァン・ベートーヴェン」と記されている。
おそらく1800年5月12日にブルク劇場で上演された演劇の幕後、喜劇的な「切狂言」(大衆演劇で、最後に座長が主役を務めるメインの演目)で歌われたと推定されている。したがって、作曲時期はこの上演の少し前と思われる。作詞者は不詳。
11行、2節からなるの有節歌曲で「ひとは炎を隠したがる、高貴な魂に満たされた心に忍び寄る炎を。でもどんなに口を閉ざしても、その眼差しはどれほど愛を感じているかを語ってる」。そして第2節では「ひとつの眼差しは千の言葉にまさる、眼差しは告げます、愛しい人に、捧げます彼に」と娘心を語る。前奏と間奏と後奏に、ピアノによる16分音符の印象的な走句が置かれている。
解説:平野昭
ブルク劇場といえば、かつてモーツァルトも大演奏会をひらいたウィーン随一の劇場。その看板女優ヴァイセントゥルン夫人直々の依頼で作曲されたのでしょうか? 親しみやすいメロディと、ピアノの美しいフレーズは、演劇を観にきた観客にも受けたのではないでしょうか? 現代では男声で歌われることも多いようですが、今回は初演の夫人を想像しながら、ソプラノの歌唱で聴いてみましょう。
「ひとは炎を隠したがる」WoO120
作曲年代:1800/01年(ベートーヴェン30歳/31歳)
出版:1888年
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