「遥かな恋人に寄せて(連作歌曲)」——愛と自然を歌った声楽史上初の連作歌曲
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
ウィーン会議、ナポレオンの没落......激動のウィーンで43歳になったベートーヴェン。「不滅の恋人」との別れを経て、スランプ期と言われる時期を迎えますが、実態はどうだったのでしょう。
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
愛と自然を歌った声楽史上初の連作歌曲「遥かな恋人に寄せて(連作歌曲)」
第1曲:この丘に座り
第2曲:山々があんなに青く
第3曲:大空を軽やかに
第4曲:大空のこの雲たちは
第5曲:5月が廻りきて
第6曲:さあ、受けたまえ、この歌を
1816年に作曲された《遥かな恋人に寄せて》作品98が声楽史上で最初の連作歌曲であり、シューベルトの《美しい水車屋の娘》D795(1823)や《冬の旅》D911(1827)に先行する作品である。曲数は6曲と少なく、《水車屋》の20曲、《冬の旅》の24曲には及ばないが、アロイス・ヤイッテレスの詩の構成においてもベートーヴェンの楽曲構成においても連作性、つまり、全体で完結するひとつの作品という点で、後続のシューベルト作品とは異なるタイプの連作歌曲となっている。ヤイッテレスの詩は両端の第1曲と第6曲で愛の憧れを歌い、中間部の第2〜第5曲には丘の上から見た光景という共通した性格が見られる。
最近の研究には、前述した第1曲と第6曲の最終節の詩それ自体がベートーヴェン による付加であった可能性が高いという説も見られる。まだ実証されていないが、もしそうであるとすればベートーヴェンは詩と音楽の両面で一体化した連環性を意図して、こうした新しい形式を生み出したことになる。
——平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)263、264ページより
ベートーヴェンはこれまでも多くの歌曲集を残していますが、全曲を通して関連や統一性が見られる「連作歌曲」として書かれているのは、この作品が初めてです。
それぞれが短い曲なので、ぜひ6曲通して聴いてみてください。物語を読んでいるかのように詩と音楽が展開されていきます。
「遥かな恋人に寄せて(連作歌曲)」Op.98
作曲年代:1816年4月(ベートーヴェン46歳)
出版:1816年10月
テキスト: アロイス・ヤイテレス
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