歌曲《約束を守る男》——楽譜上で歌唱指導?
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
ウィーン会議、ナポレオンの没落......激動のウィーンで43歳になったベートーヴェン。「不滅の恋人」との別れを経て、スランプ期と言われる時期を迎えますが、実態はどうだったのでしょう。
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
楽譜上で歌唱指導? 歌曲《約束を守る男》
この歌曲の詩人フリードリヒ・アウグスト・クラインシュミット(1749~1838)とベートーヴェンの関係はほとんど知られていないが、1776年にウィーン大学で法律の学位を取得しウィーン刑務所長を経てウィーンの警察官僚のトップになった人物であった。また、クラインシュミットは高価な名画コレクションをもち、芸術文学への関心も高く、A.ボイアール社の『劇場新聞』への常連寄稿者でもあった。
おそらくこの詩は、1816年の夏に直接ベートーヴェンに手渡され、すぐに作曲されて、異例の速さで同年11月にはウィーンのシュタイナー社から出版されている。
全6節の有節歌曲。第1節は「君は言ったよな、友よ、僕は必ずこの場所に戻ってくるからと。それが君の言葉だ。それなのに君は帰ってこない、その言葉を信頼してよい男なのか? 言葉を信じられるのが男じゃないのか?」。
ト長調、4分の3拍子、2小節の前奏の後に11小節の歌、4小節の後奏が繰り返される全17小節。興味深いことに、「各詩行の強弱にある異なる表情に従って」という歌唱表現の指示がある。
解説: 平野昭
この頃からピアノ・ソナタなどにも、ドイツ語での細かい指示を書き入れ始めたベートーヴェン。繰り返しのメロディに、異なる歌詞がつく有節歌曲を、各節ごとに歌い分けて欲しいというこだわりが楽譜に現れています。
歌曲《約束を守る男》Op.99
作曲年代:1816年初夏(ベートーヴェン46歳)
出版:1816年11月
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