「弦楽四重奏第14番 嬰ハ短調」第1〜4楽章——陸軍元帥への献呈につながる甥カールに起きた大事件とは?
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
48歳となったベートーヴェン。作品数自体は、これまでのハイペースが嘘のように少なくなります。しかし、そこに並ぶのは各ジャンルの最高峰と呼ばれる作品ばかり。楽聖の「最後の10年」とは、どんなものだったのでしょう。
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
陸軍元帥への献呈につながる甥カールに起きた大事件とは?「弦楽四重奏第14番 嬰ハ短調」第1〜4楽章
「弦楽四重奏第14番 嬰ハ短調」作品131は、陸軍元帥ヨーゼフ・フォン・シュトゥッターハイム男爵に献呈された作品です。その献呈には、ベートーヴェンの甥であるカールの重要なエピソードが関わっています。
ウィーン大学の言語学科に通っていたカールは学業についてゆけなくなり、1825年3月には中退して、4月からはウィーンの実業学校に通いだしていた。次から次へと学校を変えるカールのことがベートーヴェンには気がかりでならなかった。バーデンからウィーンのカールに宛てて5月14日から月末までに9通もの手紙を出している。
「今までは信じたくもなく疑心暗鬼だったが、ある人からはっきりと聞かされたのだが、お前はまた母親の許に出かけているそうではないか。私はここにきてまで恩知らずな仕打ちを受けなければならないのか?! 否、絆は断ち切られるべきなのか? それならそれでもよい」(BB 1978)という文面はカールの心をどれほど歪めたのだろう。1週間後の5月31日の手紙を締めくくる言葉は「残念ながら私はお前の父だ、あるいはお前の父でなどなければよかったのだ」(BB1980)である。そうかと思えば6月9日の手紙は「常にお前の忠実なる父より」(BB 1988)という皮肉な書き出しになっている。
——平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)197、198ページより
カールは将来への不安を抱えるなか、叔父ヨハン(ベートーヴェンの弟)やベートーヴェンに監視されているように感じていました。それらの重圧に耐えられなくなってしまった彼は、1826年の夏に拳銃自殺を図り、大怪我を負ってしまったのです。詳しくは明日、作品131の後半とともにご紹介します。
「弦楽四重奏第14番 嬰ハ短調」Op.131
作曲年代:1825年12月〜26年8月
初演:1828年6月2日
出版:1827年6月ショット社(マインツ)
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