洋楽ロック・ポップスとクラシックの蜜月——大貫憲章
ロック界のレジェンド・大貫憲章が選ぶ、クラシックを元ネタとしたロック・ポップスの楽曲たち。反骨的な音楽は、歴史に対するリスペクトがあってこそ生まれ得るのだ、と感じさせてくれる。ロック・ミュージシャンの超絶技巧にも注目だ。
東京生まれ。1970年立教大学1年生のとき、ひょんなところから平凡出版社(現マガジンハウス)で新雑誌「アンアン」で50字のCD評を書きはじめてから評論活動がスタート。...
ここに紹介するロック/ポップス・ナンバーには全部元ネタがあります。ロックやポップスの世界ではそれほど珍しくはありませんが、今回はその元ネタがクラシック音楽ということで共通しています。例えば、ザ・ピーナッツが50年代末に歌って知られた《情熱の花》が、そもそもベートーヴェンの《エリーゼのために》を下敷きにしたカテリーナ・ヴァレンテの曲のカバーでした。ここではその「ネタ元」、「出典」とともに楽しんで頂こうと言う趣向です。
曲目
1. Ten Seconds To Heaven / The Ventures
60年代を象徴する日本に馴染み深い人気エレキ・バンド、ザ・ベンチャーズの演奏。心弾むようなメロディがなんとも素敵です。アレクサンドル・ボロディンのオペラ《イーゴリ公》の「ダッタン人の踊り」からメロディを流用したポップスの古典であり、「ダッタン人の踊り」はトニー・ベネットの「ストレンジャー・イン・パラダイス」のヒットで広く有名になった。
2. A.ボロディン/オペラ《イーゴリ公》の「ダッタン人の踊り」
1の元ネタとなったクラシック。小澤征爾の指揮、シカゴ交響楽団の演奏でどうぞ。
▼元ネタ映像:小澤征爾/ベルリン・フィル
https://youtu.be/5mOPkNUVPmI
3. Bourree / Jethro Tull
1969年に英国のジェスロ・タルが発表した2枚目のアルバム『スタンド・アップ』に収録されたインストルメンタル・ナンバーで、今でもライブのレパートリーの定番曲。ジャズと英国古謡を一体化したスタイルで注目された。イアン・アンダーソンのフルート演奏の魅力が最大限活かされたもの。
4. J.S.バッハ/リュート組曲 ホ短調 BWV 996 第5曲 ブーレー
3の元ネタで、演奏はスペインのギタリスト、アンドレス・セゴビア。
5. In My Room / The Walker Brothers
6. (Alone) In My Room / Verdelle Smith
クラシックファンならずとも聞き覚えのある方が多いと思われる、バッハの有名な《トッカータとフーガ ニ短調》。天空からの神の声ともとれるトランペットの鮮烈で霊妙な響きで幕があく、1966年の当時アイドル人気絶頂のスコット・ウオーカーの曲。でも先に歌ったのは新人女性歌手、バーデル・スミス。比べるとその差は歴然?
7. J.S.バッハ/《トッカータとフーガ ニ短調》
5と6の元ネタ。オランダのオルガン/チェンバロ奏者トン・コープマンによる演奏でお聴きください。
8. Brandenburger / The Nice
1968年に発売された英国のトリオ、ザ・ナイスの2枚目のアルバム『Ars Longa Vita Brevis』に収録。リーダーでキーボード奏者のキース・エマーソンのクラシック音楽への造詣の深さと卓越した演奏技術が多くのクラシック・アレンジの名曲を生んだ。シンセやハモンドを活用したエマーソンによるバッハへの挑戦とも思える白熱ぶり。
9. J.S.バッハ/ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV.1048
8の元ネタをカラヤン指揮ベルリン・フィルの演奏で。
▼元ネタ映像:カラヤン/ベルリン・フィル
https://youtu.be/q6Dm-SD8FE4
10. Sabre Dance / Love Sculpture
近代ロシアの作曲家アラム・ハチャトゥリアンが1942年にバレエ《ガイーヌ》のため作った曲「剣の舞」を英国(ウエールズ)のバンド、ラブ・スカルプチュアが70年のセカンド・アルバム『Forms And Feelings』に収録。原曲の痛快なテンポとメロディを若き日のデイブ・エドマンズがエレキギターで見事に再現したプレイは圧巻。
11. A.ハチャトリアン/バレエ《ガイーヌ》より「剣の舞」
10の元ネタ。映画音楽の作編曲も多く手がけたスタンリー・ブラックの指揮、ロンドン交響楽団の演奏でどうぞ。
▼元ネタ映像: サイモン・ラトル/ベルリン・フィル
https://youtu.be/mUQHGpxrz-8
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