
ドロテー・オーバーリンガーがリコーダーと指揮で壮大な音楽~レゾナンツェン古楽音楽祭

オーストリアの1月後半と2月初旬の音楽シーンからオペラとオペレッタのレポートをお届けします。

オーストリア在住のチェリスト・文筆家。「平野玲音の演奏は、ピュアで豊かな音楽性によりウィーンの香りを客席まで運んでくれる。これはテクニック重視の現代の音楽界にあって大...

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
1月17~25日に「Les femmes(女性たち)」をテーマに開催された、ウィーン・コンツェルトハウスにおけるレゾナンツェン古楽音楽祭。24日にモーツァルトホールを訪れて、「女性のひげとズボン役」なる興味深いコンサートを取材した。
男性が女性に扮しとんでもなく高いパートを歌ったり、女性がズボン役を演じたりすることは、バロック・オペラにおいてはごく普通のことだった。それらは当時のイデオロギー的な規制(ローマのオペラの舞台に女性は出演するべからず)および、美的嗜好に起因するもの。こうした歴史を背景に、ソプラニスタのブルーノ・デ・サがピンクの衣裳で登場し、女性に劣らぬ澄んだ美声でコンツェルトハウス・デビューを飾った。
パンツ・ドレスと、ときにやんちゃな演奏姿で「ズボン役」を連想させたのは、リコーダーを吹きながら「アンサンブル1700」の指揮を務めたドロテー・オーバーリンガー。圧倒的な超絶技巧もさることながら、表現したい音楽が壮大で、児童も手にする小さな楽器を吹いているのにオーケストラが鳴るかのようなエネルギーに驚かされた。
アレッサンドロ・スカルラッティ、ボノンチーニ、ヘンデル、ポルポラ、コレッリのアリアや器楽作品による、約80分(休憩無し)のプログラム。演奏が始まってからソリストたちがゆっくり舞台に登場したり、デ・サが客席横のドアから入場し、通路で歩を進めつつボノンチーニ〈オンブラ・マイ・フ〉を歌ったり、演出にもオペラのような工夫が見られた。
スカルラッティ《愛の園》のアリア〈もう私を誘惑しない〉では、デ・サとオーバーリンガーの絶妙な共演を堪能できた。リコーダーの高音域とデ・サの声音が似通っており、3度違いで「デュエット」しても見事なハーモニーになる。
ヘンデル《時と悟りの勝利》のアリア〈あなたは、天からの〉によりプログラムが感動的に締めくくられると、アンコール2曲に加え、(終演後にビュッフェがあって多くの客が残っていたため)ホワイエの大階段の上で奏でるミニコンサートまで! 古の楽師のような大サーヴィスに、みな大喜びだった。
オーバーリンガーは、2027年2月20日サントリーホール、21日すみだトリフォニーホールにて、新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートでも指揮・リコーダーを披露する。
黄金のヨハン・シュトラウスが迎えてくれる《ウィーン気質》

© Barbara Pálffy
2月1日、リンツ州立劇場大ホールにて、大好評を博している《ウィーン気質(かたぎ)》を取材した。ヨハン・シュトラウス2世による同名のウィンナ・ワルツなど彼の曲を集める形で、シュトラウスが亡くなってからアドルフ・ミュラー2世が完成したオペレッタ。当劇場の新演出は、シュトラウスの200回目の誕生日だった昨年10月25日にお披露目されて、いまだによい売れ行きだ。
早めに会場に着きコートを預けに行ったところ、「開演30分前からパフォーマンスがありますよ」とのアドヴァイス。入り口を入ってすぐのスペースに、ウィーン市立公園に立つシュトラウス像のような黄金色の楽師が立って、《ウィーン気質》や《美しく青きドナウ》のメロディをアコーディオンで聴かせてくれる趣向だった。
この楽師、じつはなんと、リンツ・ブルックナー管弦楽団の元チェロ奏者ベルンハルト・ヴァルヒスホーファー!(別の奏者が担当する日もあるようだったが)オペレッタの舞台にも同じ姿で登場し、アコーディオンを奏でたり、指揮する身振りをしたりして、プロダクションの一つの「顔」となっていた。
トーマス・エンツィンガーによる演出のもう一つの特色は、原作のウィーン会議に現代的なタッチを加え、欧州連合などへの風刺が随所に挿入されたこと。舞台(ウルリッヒ・ライトナー)と衣裳(ゲッツ・ランツェロット・フィッシャー)も二つの時代のバランスを取り、新たなものと昔ながらのウィーンらしさを両立させる細やかな心配りを見せてくれた。
「ウィーン気質」を説くキーパーソン、ガブリエーレ(カリーナ・テュビャウ・マドセン)に気品があって、音楽面も心地よい。マルク・ライベル指揮ブルックナー管弦楽団は、メリーゴーラウンドやヒーツィングのホイリゲ(その年の新酒を出すワイン酒場)などの庶民的な空気を伝え、先述のアコーディオンと響き合う。本演出の今シーズンの上演予定は7月5日まで。
オーストリアで初演されたオペレッタ《ベナモール》

© Monika Rittershaus
1月27日にはアン・デア・ウィーン劇場へ行き、4日前に同劇場でオーストリア初演を飾ったパブロ・ルナ《ベナモール》を楽しんだ。スペインの作曲家であるルナは、レハールなどのウィンナ・オペレッタの影響を受け、サルスエラの新様式を築き上げた人物だ。
遠い昔のペルシアに「スルターンの最初の子供は男の子、次の子供は女の子。そうでなければ子供たちは打ち首に」という掟があって、逆の順序で子を授かった母パンテアが娘と息子を救うため、それぞれを異性として育てたのが事の発端。スルターンとして育てられたダリオ役をソプラニスタのフェデリコ・フィオリオ、妹(実は弟)ベナモール姫の役を女性のソプラノ、マリーナ・モンゾが演じるという、はからずも先に述べた「女性のひげとズボン役」の続きのような筋書きだった。
みずからが男であると信じつつ、つい女性らしさがにじみ出るダリオ役のフィオリオは、女性と信じてしまいそうな優美な声と容姿によってストーリーを盛り上げた。タイトルロールのモンゾのほうも、きれいな人で「男性には見えないな」と思ったのだが、立派な美声と抜群の演技力に知らず知らず引き込まれ…… カーテンコールでフィオリオが恋人フアン・デ・レオン役のダビド・オリェールを腕に抱えて出て来たのを見たときに、「こちらが男性なのだった」とわれに返ったほどだった。
そのほかの出演者は、ミラグロス・マルティン(パンテア)、ダビド・アレグレト(アベドゥル)、ホセ・ミゲル・ペレス=シエラ指揮ウィーン放送交響楽団、アルノルト・シェーンベルク合唱団ら。舞台(ヘルベルト・ムラウアー)と衣裳(バーバラ・ドロジーン)は物語に合う華麗なもので、演出(クリストフ・ロイ)も作品と歌手の魅力を最大限に引き出した。





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