レポート
2022.05.27

ファビオ・ルイージが9月から首席指揮者に 期待されるNHK交響楽団のこれから

寺西基之
寺西基之

1956年生まれ、上智大学文学部を卒業後、成城大学大学院で西洋音楽史を専攻し、修士課程を修了。大学院在学中より音楽評論活動を始め、CDライナー、演奏会プログラム、音楽...

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ルイージとN響は21年にわたる長い付き合い

NHK交響楽団は今年9月にイタリアの名指揮者ファビオ・ルイージを首席指揮者に迎えるが、その就任記者会見が5月24日に開かれた。

ルイージが初めてN響を振ったのが2001年7月、その後もしばしばN響の定期演奏会に登場してきたので、すでに21年にわたる長い付き合いがある。ルイージ自身によると「共演を重ねるうちに、音楽上の友情が強まってきた」とのこと、良好な関係を築いた上での就任だけに、このコンビの未来はおおいに期待できそうだ。

ルイージは今後首席指揮者として「N響の伝統を新たにしていくことをめざす」というが、それもこれまでの共演経験をとおしてN響の伝統を理解してきたからこそ言えることだろう。

サヴァリッシュをメンターとして仰いできたルイージ

N響は長い歴史の中で、ヴォルフガング・サヴァリッシュをはじめとする主にドイツ系の名匠たちのもとで確固とした伝統を築き上げてきた。もちろんその間、元音楽監督のシャルル・デュトワや、現首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィ(任期は8月まで)のような指揮者によって、そうした伝統とは異なる新しい風も吹きこまれ、オーケストラとしての表現力を大きく広げてきたが、それでも楽団の根幹にある歴史的な伝統の響きとスタイルには揺るぎないものがある。

若い頃からサヴァリッシュをメンターとして仰いできたルイージは、そうしたN響の伝統をしっかり踏まえつつ、それを刷新していこうという明確なヴィジョンを抱いているようだ。

ファビオ・ルイージ:1959年生まれ。ジェノヴァ出身。デンマーク国立交響楽団首席指揮者、ダラス交響楽団音楽監督を務める。これまでにメトロポリタン歌劇場首席指揮者、チューリヒ歌劇場音楽総監督、ウィーン交響楽団首席指揮者、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団および同歌劇場音楽総監督、MDR交響楽団芸術監督、スイス・ロマンド管弦楽団音楽監督などを歴任。また、フィラデルフィア管弦楽団、クリーヴランド管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、サイトウ・キネン・オーケストラに定期的に客演し、世界の主要オペラハウスにも登場している。N響とは2001年の初登場以来、8回共演を重ねている。2022年9月、N響首席指揮者に就任。

首席指揮者としての使命感

「フレージング、音の響かせ方、楽曲へのアプローチの仕方などをオーケストラとともに考えていきたい」と抱負を語り、「これまでのN響との関係の中ではオーケストラから自分に与えられたものが多かったが、今後は自分からオーケストラに何らかのものを与えていく」と述べる彼の言葉には、客演とは立場の違う首席指揮者としての使命感がにじみ出ていた。

このコンビの新時代に期待

興味深かったのは「以前のN響はメンバー全体がひとつの集団という感があったが、最近は個々の奏者の音楽性が感じられるようになった」という指摘である。筆者も最近のN響は、全体がひとつの枠の中に収まっていた感のあったかつてのオーケストラから、奏者の自発性が瑞々しい生命感をもたらすような柔軟性のあるオーケストラへと変わってきたのを感じている。

伝統を刷新するにあたっては、こうした柔軟性は何よりも大切だ。その意味で、N響はとても良い時期にルイージという相応しい指揮者を迎えることになったといえよう。今後このコンビがどのような時代を築いてくれるのか、楽しみでならない。

ファビオ・ルイージの今後の出演予定

2022年9月10日(土)11日(日)NHKホール
定期公演 Aプログラム(ファビオ・ルイージ首席指揮者就任記念)
ヴェルディ/レクイエム(ソプラノ:ヒブラ・ゲルズマーワ、メゾ・ソプラノ:オレシア・ペトロヴァ、テノール:ルネ・バルベラ、バス:ヨン・グァンチョル、合唱:新国立劇場合唱団)

2022年9月16日(金)17日(土)NHKホール
定期公演Cプログラム(ファビオ・ルイージ首席指揮者就任記念)
R.シュトラウス/交響詩「ドン・フアン」作品20
R.シュトラウス/オーボエ協奏曲 ニ長調(オーボエ:エヴァ・スタイナー)
R.シュトラウス/歌劇「ばらの騎士」組曲

2022年9月21日(水)22日(木)サントリーホール
定期公演 Bプログラム(ファビオ・ルイージ首席指揮者就任記念)
ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61(ヴァイオリン:ジェームズ・エーネス)
ブラームス/交響曲第2番 ニ長調 作品73
※同一プログラム・出演者による他日公演
2022年9月24日(土)所沢市民文化センター ミューズ アークホール
2022年9月25日(日)福井県立音楽堂 ハーモニーホールふくい

2022年12月3日(土)4日(日)NHKホール
定期公演 Aプログラム
ワーグナー/ウェーゼンドンクの5つの詩(メゾ・ソプラノ:藤村実穂子)
ブルックナー/交響曲第2番 ハ短調(初稿/1872年)

2022年12月9日(金)10日(土)NHKホール
定期公演 Cプログラム
モーツァルト/交響曲第36番 ハ長調 K.425「リンツ」
メンデルスゾーン/交響曲第3番 イ短調 作品56「スコットランド」

2022年12月14日(水)15日(木)サントリーホール
定期公演 Bプログラム
グリンカ/歌劇「ルスランとリュドミーラ」序曲
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18(ピアノ:河村尚子)
ドヴォルザーク/交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界から」

2023年5月19日(金)20日(土)NHKホール
定期公演 Cプログラム
サン・サーンス/ピアノ協奏曲 第5番 ヘ長調 作品103「エジプト風」(ピアノ:パスカル・ロジェ)
フランク/交響曲 ニ短調

2023年5月24日(水)25日(木)サントリーホール
定期公演 Bプログラム
ハイドン/交響曲 第82番 ハ長調 Hob.I-82「くま」
モーツァルト/ホルン協奏曲 第3番 変ホ長調 K.447(ホルン:福川伸陽)
ベートーヴェン/交響曲 第6番 ヘ長調 作品68 「田園」

2023年12月16日(土)17日(日)NHKホール
演目は以下の3曲からファン投票により決定
1)フランツ・シュミット/オラトリオ「7つの封印の書」
2)マーラー/交響曲 第8番 変ホ長調「一千人の交響曲」
3)シューマン/「楽園とペリ」作品50

2022年12月 結果発表予定 *投票方法など詳細は、後日ホームページで紹介

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【問合せ】N響ガイド 03-5793-8161
※ユースチケットの取り扱いはN響ガイドのみ。事前に年齢確認のための登録手続きが必要となる(N響ホームぺージをご覧ください)。※未就学児の入場はお断りしています。

寺西基之
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1956年生まれ、上智大学文学部を卒業後、成城大学大学院で西洋音楽史を専攻し、修士課程を修了。大学院在学中より音楽評論活動を始め、CDライナー、演奏会プログラム、音楽...

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