レポート
2018.04.17
東京春祭 for Kids 2018「音楽ワークショップ ~ドレミのふしぎな旅 ヘンテコ発明家の楽器づくり」

紙コップが楽器に! 音の不思議をエンターテイナーが案内するワークショップ

東京文化会館をはじめ、上野動物園や国立西洋美術館、国立科学博物館など、アートやサイエンスといった、さまざまな施設が集まる上野公園。まして桜のシーズンには、春休み中のファミリーや海外からの観光客などたくさんの人々が集います。

その頃に開催されるのが「東京・春・音楽祭」。東京文化会館を主会場に、オペラやオーケストラ、室内楽と多様な公演が繰り広げられるクラシックの音楽祭で、近隣の施設での関連イベントも目白押し。その1つ、国立科学博物館で行なわれた子ども向けワークショップに潜入してきました。

「音楽なのに博物館で?」と思われる向きも多いでしょう。でも、音楽と科学は切っても切れない仲。音楽を味わいながら「音の不思議」を科学するワークショップは、まさに上野の森ならではのコラボといえそうです。
2018月4月4日(水) 国立科学博物館2階 日本館講堂(東京・上野)

取材・文
小島綾野
取材・文
小島綾野 音楽ライター

専門は学校音楽教育(音楽科授業、音楽系部活動など)。月刊誌『教育音楽』『バンドジャーナル』などで取材・執筆多数。近著に『音楽の授業で大切なこと』(共著・東洋館出版社)...

写真:東京・春・音楽祭実行委員会/増田雄介、編集部

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コミカルなパフォーマンスにワクワク!

企画展「人体―神秘への挑戦―」も大人気の国立科学博物館ですが、今日の会場はちょっと奥まった場所にある日本館講堂。科学博物館は何度も訪れていても、講堂は未体験という人も多いのでは……昭和初期のクラシカルなつくりがそのまま残る講堂の雰囲気に、特別感も高まります。

科博と講堂
東京・上野公園内に立つ国立科学博物館
1931年に竣工し、平成20年に国の重要文化財となった日本館にある講堂

受付を済ませた子どもたちの手には謎の紙袋が。「この袋に入っているのは、ワークショップで使う、だいっ~~~じなものです! なので、袋を開け・ない!」 開演前に熱弁され、いっそう大切そうに袋を抱える子どもたち。前方と左右に並べられているのは、可愛い目玉がつけられた紙コップ……彼らが今日のワークショップの主人公です。

紙コップ
講堂の中で出番を待つ紙コップたち

開演時間になり、飛び出してきたのは「なおやマン」さんと「しま:アイ」さん。コミカルな衣装で現れたお2人は、子ども向け参加体験型コンテンツプランナー/エンターテイナーとして全国で活躍中。

「コップの仕事って知ってる?」と問うなおやマンさんに「水を入れる!」としたり顔の子どもたちですが、なおやマンさんは首を振り「いろいろな職業のコップがいるんです。たとえば、マジシャンのコップ……」と子どもたちから協力者を募り、その子の頭に乗せた紙コップから水を消す! というマジックを披露。

「パティシエのコップは、おやつのドーナツを作ります」とコップ型の筒から空気圧で円形の煙を発射。目の前で繰り広げられる「コップの技」に、子どもたちはさっそく目を輝かせて大騒ぎ!

「コップって水を注ぐだけじゃなく、いろんなことができるんだなあ」と気づいたところで、目玉のついたコップを見遣るなおやマンさん。「このコップたちは、楽器になりたいんだって」……さてどうすれば、コップから音を出すことができるだろう?

コップ
「コップの仕事って知ってる?」と問う
コップ型の筒から、空気圧で円形の煙を発射!

音楽家と科学のコラボ

そこに登場したのは、ヴァイオリニストの坂東真奈実さんとピアニストの香川明美さん。挨拶がわりにクライスラーの《プレリュードとアレグロ》(前奏曲とアレグロ)を演奏してくれたお2人に「楽器を操っている人に聞いたら、楽器の音が出る仕組みがわかるんとちゃう?」と突撃するなおやマンさん。

香川さんはピアノの構造を図解しながら「鍵盤を押さえると、ハンマーが弦をポンとたたいて、弦がブルブル震えるんです。それが空気を伝わって、みんなの耳に届くんですね」と解説し、「コップにも弦をプレゼントします!」とゴムひもを授けてくれました。

ピアノの構造を図解 ©東京・春・音楽祭実行委員会/増田雄介

さっそく大きな紙コップにゴムひもを張り、音を出してみるものの……高速の振動は、肉眼では捉えにくいもの。そこでなおやマンさんは「ブルブルが見える機械」とひみつ道具を発動。連続したフラッシュの照明で動きがコマ送りのように見えるようになり、確かに弦が振動していることが見取れます。

大きな紙コップにゴムひもを張り、音を出してみる ©東京・春・音楽祭実行委員会/増田雄介
連続したフラッシュの照明で、弦の動きがコマ送りのように見える

さらに「ブルブルキャッチャー」と称し、客席の1人ひとりに風船を配布。演奏家の2人がアンサンブルを始めると、楽器の音に合わせ、風船を持った手に振動が伝わります。激しいリズムや低音・強い音が続く部分では手のひらがびりびりするほどで、大人たちもびっくり! 理論ではわかっていても、体で実感することはなかなかない音の仕組みを再発見し、歓声が上がります。

風船を持った手で、楽器の音の振動を体感 ©東京・春・音楽祭実行委員会/増田雄介

ここで先の紙袋を開けると、大小の紙コップとモールが入っていました。なおやマンさんの解説と図解に従い、小さなコップを大きなコップに差し込み、ヘビのように巻いたモールをコップの底に乗せて「あー!」と声を吹き込むと……コップが振動し、モールのヘビがくるくる回ります。簡単な工作とユニークなヘビの動きに子どもたちは大喜び!

声を吹き込むとコップが振動し、上に乗せたモールがくるくる回る ©東京・春・音楽祭実行委員会/増田雄介
コップの作り方を図解

頭・体・心を使って学ぶ楽しさ

その後も長いゴムと短いゴムとで出る音を比べ、ピアノの高音域と低音域の違いに行き着いたり、「弦をこすって音を出す」というヴァイオリンの発音機構を学び、紙コップに結束バンドを通して「こすることで音が出る紙コップ」を作ったり……1時間弱のプログラムの中で、子どもたちは「紙コップを楽器にしてあげる」というミッションに成功し、音や楽器の仕組みをいっぱい学ぶことができました。

長いゴムと短いゴムとで出る音を比べる
結束バンドでこすると音が出る紙コップ
コップと結束バンドがヴァイオリンのように

なおやマンさんとしま:アイさんのナビゲートと演奏家たちのコラボレーションで、頭で考える・目で見る・耳で聴く・手で触れる・体を動かす・心を動かす……と、頭・体・心をフルに使って音の仕組みを体験した子どもたち。なおやマンさんの軽妙なボケも、子どもたちを引き込む役割を果たしています。「ピアノ」を「ピアー」と書いてみたり、「のど(声帯)の写真」と言って「トド」の写真が出てきたり……子どもたちが「ちがーう!」と元気にツッコミを入れることも、コミュニケーションや「参加している感」のきっかけになっているのでしょう。

声帯の解説
のどからトドが!?

「ワークショップの主役は子どもたちですから」となおやマンさん。

「主役になって、体験してもらって……大人から何かを伝えるのではなく、子どもたちが興味・関心を持ち、それぞれの経験や知識で、子どもたちなりの気づきや工夫を見つけてもらえるようにしています」とコンセプトを語るまなざしは、子どもたちの成長を見守る慈しみにあふれています。

なおやマン

紙コップを主人公に仕立てたのも「身近なものを楽しむ」ことを知ってほしかったから。

「音楽を楽しむためのツールは楽器だけじゃないし、生活の中でも音や音楽を楽しめることを体験してもらいたい。それに、いろいろなものに興味・関心を持つことでこそ、毎日が楽しくなると思う。『コップは水を飲むもの……ではなくて、楽器になっちゃったよ』という体験を経て、子どもたちの発想で生活を楽しんでほしいと考えています」

そして「音楽を科学ワークショップで伝える」ということの意義も……「普段、音楽にあまり触れない方にも、ワークショップをエンターテイメントとして味わっていただきながら『音楽ってこんなに楽しいんだよ』と伝えられたら。僕たちがごちゃごちゃやることで、今まで音楽に興味をもっていなかった方々がコンサートに来るきっかけになる……そういう役割を担えればと」

音楽家ではないなおやマンさんたちが、音楽家とは違う視点からアプローチすることで、元々の音楽ファンだけでなくより広い人々にも音楽との出会いをプレゼントできるのですね。そしてそのアプローチは、我々音楽ファンにとっても再発見とワクワクでいっぱい! 音楽の楽しみ方をまた1つ知って、さらに音楽が好きになれた、そんな素敵なワークショップ体験でした。

ミッション成功! と大きなボールが2階から降りてきて終演までサービス満載! ©東京・春・音楽祭実行委員会/増田雄介
取材・文
小島綾野
取材・文
小島綾野 音楽ライター

専門は学校音楽教育(音楽科授業、音楽系部活動など)。月刊誌『教育音楽』『バンドジャーナル』などで取材・執筆多数。近著に『音楽の授業で大切なこと』(共著・東洋館出版社)...

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