新国立劇場の屋根裏部屋で遊ぼう! 妹尾河童の遊び心がつまった「初台アート・ロフト」
新宿から一駅、たくさんのオフィスが集まる初台駅直結の新国立劇場。日本の演劇、オペラ、バレエの発信地として日々上演を行なっていますが、観劇はなかなか敷居が高いし......という方も、気軽に立ち寄れるオープンスペースが誕生しました。
日本の舞台美術の草分けであり、著書『少年H』でも知られる妹尾河童さんが監修した「初台アート・ロフト」。美しい舞台衣装や、劇場をもっと身近に感じられる遊び心満載の仕掛けで大人も子どもも楽しめます。ジャーナリストでアナウンサーでもある岩崎由美さんがレポートしてくれました。
東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員 岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、キャスター、レポーターとしてテレビ、ラ...
一度は舞台の衣裳を、間近で見てみたいと思っていた。一度でいいから舞台のセットのそばに立ってみたいと思っていた。そんな夢がかなうイベントが、無料で、常設で始まりました。
東京・初台にある新国立劇場は、伝統芸能以外の振興を図るために文化庁の独立法人である日本芸術文化振興会が今から約21年前につくりました。建物の中にはオペラ劇場、中劇場、小劇場があり、オペラやバレエ、現代舞踊、演劇などの自主公演が行なわれるほか、オペラやバレエ、演劇の研修所も併設されています。
建物は広々としていて高級感にあふれ、公演がある日はドレスアップした人たちが大勢詰めかけます。その場に紛れ込むだけで、自分が上品なレディになったかのような高揚感があり、気分は上々。
妹尾河童さんが目指した「屋根裏部屋」の精神
そんな新国立劇場の、誰もが入れるオープンスペースに「初台アート・ロフト」とよばれる新しい試みがスタートしました。これは、これまでに蓄積してきた舞台美術や、模型、舞台衣装、大道具といった品々を展示して多くの人たちに見てもらおうというものです。
今回の展示を監修した、日本における舞台美術の第一人者、妹尾河童さんは、オープニング・レセプションで「初台アート・ロフトのロフトというのは、屋根裏部屋という意味。屋根裏部屋から引っ張り出してきたようなものを見てもらいます」と、ユーモアたっぷりに挨拶されました。
舞台の上のお宝が目の前で
まず、入り口を入ってすぐのメインエントランスにドーンとあるのは、オペラ「アイーダ」の舞台で使われる大きな鷲の神像です。色合いも美しく、背景のレリーフなどは本物かと思うほど趣があり、戦利品を入れる宝箱もなんとも素敵。客席から見ていたのは、こんな立派なものだったのかと驚きです。そばには、美術館によくあるような解説のパネルがあり、これをじっくり読むだけで世界が広がります。
1998年の初演時の演出・美術・衣装は、映画『ロミオとジュリエット』を監督したことで知られるフランコ・ゼッフィレッリの手によるものです。
その隣には、1997年の新国立劇場竣工時の開場記念に行われた演劇『夜明け前』の舞台美術模型。美術は、今回監修の妹尾河童さん。美術模型はガラスの箱に入っていて、ボタンを押すと照明がつく仕組みです。妹尾河童さんの文もパネルになって展示されていますので、じっくり読んでいくとどんなに時間があっても足りません。
その向こうには、先日新制作されたオペラ《紫苑物語》の衣裳が間近で見られます。私はいつも衣装の質感や柄が知りたいので、客席からオペラグラスでじっくりと見るのですが、実際に本物を手に取れるぐらいの距離で(触ってはいけませんが笑)見るのとはわけが違います。何でできているか、素材もちゃんと書いてあります。
突き当りの待ち合わせコーナーにも、演劇の舞台美術模型が展示されています。私、新国立劇場にかなり通っていますが、こんな奥に待ち合わせコーナーがあることを知りませんでした。大きなスクリーンにはバレエの映像なども映し出されていて、上演を観たい気持ちが掻き立てられます。
圧巻! 『NINAGAWA・マクベス』の伐折羅大将の素材はなんと......?
2階にあがると、渡り廊下の向こうに大きな像が立ちはだかっているのが見えます。これは、演劇『NINAGAWA・マクベス』で使われた伐折羅大将(ばさらたいしょう)の像。
演出家の蜷川幸雄さんは、シェイクスピアのマクベスを安土桃山時代にうつし、最初は安土城の天守閣を舞台の中央に建てようと言っていたのですが、妹尾さんがそれに反対した結果、セットが仏壇になったということや、この作品をきっかけに世界の蜷川になったことなども解説されています。
レセプションでは、蜷川さんは劇中に突然まったく違う感じの舞台装置を出したくて、15秒で運び入れることができる木彫りの像7体をつくってほしいと言い出しました。しかし、幕が開くまでに5日間しかなく、発泡スチロールを彫らせたら右に出るものがいないという名人に頼みこんでつくってもらったことなど、思い出深く妹尾さんは語られました。
この大きな像が7体も舞台に登場したら、それは圧巻でしょう。発泡スチロールでできているなんて、あぁ、ちょっとでいいから触れてみたい(笑)。
劇場の裏側を「体験」できるバックステージ・コーナー
3階は、今までの展示の雰囲気とはまったく違うアミューズメント感覚です。バックステージコーナーと題したそこは、舞台の裏側の世界を体験できます。舞台裏は普段入ることはできませんし、舞台の仕事とはどういうものなのか、裏でどんなことが起きているのかイメージできるような体験をさせてくれます。大道具、小道具、照明、音響、衣装など、木材パネルに手書きでそれぞれのスタッフの仕事内容などが書かれています。
まずは舞台監督。そこには、ヘッドセットをした黒い服を着た人形が座っています。パネルには、舞台監督の仕事は映画監督とは違うとか、じゃあ、どんな仕事をする人なのかとか、知っているようで知らない納得の回答が書かれています。文字が手描きなのがなんだか楽しい。
舞台用語のコーナーでは、上手(かみて)と下手(しもて)は、どっちがどっちかといったことや、「じょうず」とか「へた」とは読まないなど爆笑の一文も。まるで本物の舞台袖に立って、大笑いしているような気がしてきてしまいました。
「ゴンドラを動かしてみよう」では、ひもをひくと、ゴンドラが舞台に出るという仕掛け。そういえば、よく舞台の上に船が出たり入ったりする場面ありますものね。引っ張ってみたら、結構、軽くひけました。でも実際にその場になったら、タイミングを間違えちゃいけないと私だったらドキドキしちゃうかもしれません。
ひとつ謎が解けたものもありました。よく役者さんがドアを出たり入ったりする場面がありますが、そのとき自然にドアがすっと閉まります。誰か後ろにいて、開けたり閉めたりしているのかと思っていましたが、実は扉に仕掛けがあったんです。扉におもりがついていて、自動的に閉まるようになっていました。
照明機材を操作できるコーナーでは、遠くのマネキンにスポットライトを当てることができます。音響を創り出すさまざまな道具が並んでいて、こちらも手にとって、実際に音を出すことができます。舞台衣裳の所では、倉庫のような所に、たくさんの衣裳や靴、帽子などが保管されている写真が展示されています。
遊び疲れたら休める、学べるコーナーも
5階には情報センターという図書館があって、演劇やオペラバレエに関する蔵書がたくさんあり、誰でも入って本を読んだり、そこで勉強をしたりしていいのだそうです。知らなかった。
今は、ここでオペラ《蝶々夫人》初演時の衣裳・小道具デザイン原画展が開催されています。1904年にプッチーニがスカラ座で上演するにあたって描かれた、当時人気のフランスのデザイナー、ルシアン・ジャスウムの水彩画です。ものすごく日本のことを研究して描いたということが忍ばれる原画は必見。ちょうどその頃、パリ万博の公演後に川上音二郎一座がヨーロッパを巡演していたため、彼らと出会い、彼らの舞台からたくさんの知識をもらったようです。
新国立劇場「初台アート・ロフト」は2019年7月4日にスタートしました。オープンスペースで、いつでも誰でも10時~18時の間、無料で楽しむことができる贅沢な空間です。これから展示替えもあるそうですから、時々チェックしなくちゃ。
開場時間: 10:00~18:00
料金: 無料
展示設置場所: 新国立劇場 1階~3階のオープンスペース
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