レポート
2022.07.01
いきものスケッチブック No.4「サル」

サルのシッポを学んで工作するワークショップ〜自作のサル人形でピアノ即興劇!

生物を題材にした子どものためのピアノ曲集を作るために、音楽之友社と作曲家の春畑セロリさんが企画した、題して『いきものスケッチブック』プロジェクト。
生き物とアートのスペシャリストも講師にお招きし、ワークショップを通じて、子どもたちに表現のアイデアをもらおうという試みです。
第4回のテーマは、サル。近い存在でありながら、知らないこともいっぱい。今回のワークショップでは、サルのシッポの色や形、役割を伝えつつ、最後は音楽つきの即興劇を発表!

写真・文
飯田有抄
写真・文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

取材協力:きたいピアノ教室
写真:飯田有抄
動画:編集部

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サルのイメージを膨らませてみよう

作曲家の春畑セロリさんと一緒に、生き物のことを考えながら、子どもたちに音や色を使って自由な想像・創造をしてもらうプロジェクト「いきものスケッチブック」。今回も生き物ハカセの蝦名元先生、そして色や形を描いてステキに表現する方法を教えてくれる秋田彩子先生と一緒に、楽しく学びます。

ワークショップ4回目のテーマは「サル」です! バーン

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春畑セロリ(はるはた・せろり)
作曲家。東京藝術大学卒。鎌倉生まれ、横浜育ち。
舞台、映像、イベント、出版のための音楽制作、作編曲、演奏、執筆、音楽プロデュースなどで活動中。さすらいのお気楽者。
主な著作に「ゼツメツギグシュノオト」「オヤツ探険隊」「空をさわりたい」「できるかな ひけるかなシリーズ(全7冊)」「連弾パーティー・シリーズ(全5冊)」「きまぐれんだんシリーズ(全6冊)」(以上、音楽之友社)、ピアノ曲集「ポポリラ・ポポトリンカの約束」「ぶらぶ〜らの地図」(全音楽譜出版社、CDは日本コロムビア)、こどものためのピアノ曲集「ひなげし通りのピム(カワイ出版)」などがある。

集まった子どもたちに、まずは頭の中で自由にサルたちを遊ばせてもらいます。

セロリさんがピアノ曲集「ゼツメツキグシュノオト」から1曲、「ニホンリス」を弾いてくれました。なぜリスの曲かって? この曲集には実はサルがいないからです(笑)。

でも、リスとサルはどちらもヒュルヒュル〜っと木を登りますよね。

「この曲をサルっぽく弾いてみるよ! サルの動きを想像しながら聴いてみてね」と、セロリさんは付点リズムバージョンにアレンジして弾いてくれました。

気分が高まってきたところで、さらにイメージを膨らませてもらいます。

「今ピアノを聴いて思い浮かべたサルのシッポはどんなだったかな……? みんなが想像したサルのシッポを絵に描いてみましょう!」(秋田先生)

ここで、秋田先生が描いた「シッポのないサル」の絵に、自分で自由なシッポの絵を描いてもらいました。みんな、思い思いのシッポのイメージがあるようです。

どんなシッポがあるかな?

シッポに注目!

本物のサルたちは、どんなシッポをしていたっけ……ここで、蝦名先生の登場です。

みんなにスライドを見てもらいながら、サルの種類やそれぞれのシッポの特徴を教えてもらいました。

サルの生態について解説!

世界にはなんと、220種類ものサルがいるそうです。陸地に住んでいるサルもいれば、木の上で暮らすサルも。ちなみに、楽しい歌でおなじみの「アイアイ」は、マダガスカル島にいるサルですが、現地では「縁起の悪いサル」なんだそうです。

「え〜、かわいそう…」(セロリさん)

日本にいる野生のサルはたった1種類。そうです、おなじみ「ニホンザル」!

サルはアマゾンやアフリカ、東南アジアなど温暖な地域に暮らしていることが多いのですが、日本では雪国に生息するサルもいますよね。そう、なんと世界でもっとも「北」に暮らしているという、特殊なサルなのだそうです!

「だから温泉に入るの?」という子どもたちからの質問も。よくテレビなどでも見ますよね。

「あれは長野県の地獄谷というところの温泉に浸かっているサルですね。日本でも温泉に入る野生のサルが確認されているのは、あの地域だけなんです。青森県にいるサルが、世界で一番『北』にいるサルなんですよ」(蝦名先生)

蝦名元(えびな・つかさ)
一般財団法人 進化生物研究所 研究員・学芸員。東京農業大学・佼成学園女子中学高等学校・東京農業大学稲花小学校 非常勤講師。博物館・科学館等での展示・講座など、科学の楽しさや生きものをテーマにイベントも実施。
著書:『生きものラボ! 子どもにできるおもしろ生物実験室』(講談社)、『今を生きる古代型魚類-その不思議なサカナの世界-』(東京農業大学出版会・共著)、『群れ MURE 群れるって美しい。』(カンゼン・共著・監修)、教育情報誌『たのしい学校』(大日本図書・連載中)。

ところで、ニホンザルのシッポはとっても短くて、チョコンとついています。寒い場所では、手足の先っぽが冷たくなりますが、シッポも長いと冷えて凍えてしまいます。それでニホンザルのシッポは、長い時間をかけて、だんだん短くなっていったそうですよ。

蝦名先生は、オラウータンにはシッポがないこと、クモザルというサルはとても長いシッポを手足のように器用に使えるということ、そしてワオキツネザルはシッポを使ってコミュニケーションしたり、縄張りを示したりするということを、写真や動画を使って教えてくれました。

シッポは長さや太さ、先っぽの形状によって役割が異なります。

「いろんな毛や模様のシッポをもったサルがいます。そしてシッポの使い方もいろいろなんです」(蝦名先生)

「シッポを音にしたら、こんな感じかな〜」

クモザルの長〜いシッポ、ワオキツネザルのふわふわのシッポ、ニホンザルの短いシッポを、セロリさんが長〜い音階やチョロンと鳴る装飾音のような音型にして、ピアノで弾いてくれました。

シッポのイメージを音にしてみます。

サルの操り人形を工作!

「みんな、サルのシッポはいろいろあったね。じゃあ今度は、長ーいふわふわのシッポでケンカしたりじゃれあったりしていたワオキツネザルみたいに、シッポを操れるサルを作ってみましょう!」

ということで始まったのは、秋田先生が用意してくれたオリジナル・サル工作キット! 

「下絵はワオキツネザルがモデルになってるけど、自分の好きな色や模様をつけていいですよ。ふわふわシッポに模様をつけるときは油性ペンを使いましょう」(秋田先生)

秋田彩子(あきた・あやこ)
ものづくり教室主宰。東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、Qinari(キナリ)研究所設立。子どもたち一人ひとりが、アートのみならずあらゆる物事を自分で考え表現できるように、様々な素材や技術、文化や価値観に触れ、様々な世界に出会える時空間を提供している。2019年からは自然の中での体験と美術制作を融合させる軽井沢出張所も不定期開催中。

この秋田先生のキットが優れもので、仕上げに細い針金や糸を使うことで、シッポが自在に動きます。みんな集中して、オリジナルのサルを作ってみました。

マリオネットのように、自作のサルを動かせる!
子どもたちの描いたサルは、鮮やかな色が多く見られました。
思い思いの色を塗ります。
明るい色が多いのは、サルのイメージ?
色を塗ったらハサミで切り抜いて表裏を貼り合わせます。

みんなのオリジナル・ワオキツネザルが完成しました!

ふわふわのシッポがついたmyサルの出来上がり!
細い紐をつけて操ります。

myサルを連れて、ピアノの前に集合〜!セロリさんのピアノに合わせて、シッポの準備運動。早く〜 ゆっくり〜 いろいろ動かしてみました。

「じゃあこんどは、3人ひと組にわかれて、ワオキツネザル劇場をやろう! 一人はピアノを弾いてもらい、二人は音楽に合わせてサルを動かしてね。舞台は森です。二人のサルたちは、シッポでお話してみてね!」(セロリさん)

秋田先生が描いてくれた森の絵を背景に、みんなのワオキツネザル劇場開演!セロリさんの伴奏にのって、ピアノの子は即興的に音を出します。その音を聞きながら、二匹のサルはじゃれあったり、ケンカしたり、仲良くなったり。それぞれの物語を演じました。

ピアノの即興に合わせて、myサルで寸劇!
遊んだり……
ケンカしたり、仲直りしたりと、ピアノの音に合わせてストーリーができました。

今回もいろんな学びと遊びがたくさん!サルにはたくさんの種類がいて、いろんなシッポの色・形・役割があることを知りました。そして、カラフルなオリジナル・サルを工作して、音に合わせて即興劇! みんな上手にできました♪

ワークショップの動画(一部)

セロリさんの音のモチーフ

「今回はしっぽに着目してみました! ワオキツネザルはシマシマ模様。そこで白鍵と黒鍵を交互に使ってみた!? うーん、音としてはあまり意味ないかなぁ? クモザルのしっぽは長くて器用そうで、ちょっと不気味。ニホンザルはすごくちっちゃくてカワイイしっぽ。で、オランウータンのしっぽは……? ない!?」

ご協力いただいている先生からコメントをいただきました!

学校では各科目を1つの授業として学んでいますが、実際の社会で生きていくには、各科目で学ぶような要素を相互的に考え、つなげていく(創造する)ことが必要です。

このワークショップでは、ある1種類の「いきもの」の特徴を知り(理科)、表現する(美術・音楽)という流れで思考することができます。もちろん、表現する(美術・音楽)ために、さらに特徴を知ろうとする(理科)こともあります。まさに、創造する行為です。

私は両親を早くに亡くしたのですが、そのとき、幼少期から続けていた音楽が生きる支えとなってくれました。決して、上手だったわけではありません。もちろん、音楽でなくてもよいと思います。

美術、理科、スポーツ、文学など、何であっても、子どもたちが“生きる力”となるものを見つけられるよう、心から願っています。このワークショップや普段の学校、ピアノ教室での学びが、“生きる力”につながっていくきっかけになれば、それ以上の幸せはありません。
このような素晴らしい音楽之友社の企画に少しでも協力できることに感謝しています。ありがとうございます。

——きたいピアノ教室 北井かえ

 

このワークショップでは、解を得ることではなく、五感を使って対象の未知数と広がりを探り、表現する中で、あそびながら まなぶことの可能性を追求しているように思います。

我がままにあそび まなんでいたら、いつの間にかcalling (天職)と profession(専門職)と job(賃仕事) がかなりの部分一致していた、という恵まれた状態に自分はいると思いますが、それは歴史的にも地理的にも本当に稀有で有難いことだなぁと、年を重ねるにつれしみじみと思います。ワガママにときめき、没頭し、まなぶ経験を重ねることは、これからの世界を生きる子どもたちにとっても、その心身を培うものになるだろうと、これもますます確信を深めつつある今日この頃です。

子どもたちも「先生」も、みんながあそんで まなべるワークショップを、私も準備から現場まで毎回楽しみにしております。

——秋田彩子

 

STEM教育(Science:理科・科学、 Technology:技術、 Engineering:工学、Mathematics:数学からなる理数教育)に、Art・Arts(芸術・リベラルアーツ)を加えた「STEAM教育」が注目されています(AはAgriculture:農業のバージョンもあります)。自然科学と人文科学を横断的・実践的に学ぶことで、論理的思考と創造的思考を育む効果が期待されています。
また、多様化している現代社会のさまざまな問題を解決するためには、複数の可能性を考える拡散的思考と唯一の結果を求める収束的思考とのバランスも重要です。
このワークショップでは、生物・美術・音楽の観点から「知る」「考える」「創造する」「表現する」という体験が可能です。実際に驚き、考え、楽しみ、時には戸惑い、試行錯誤ながら表現につなげている子どもたちを見て、感性が豊かな子ども時代には、実体験と興味を沸かせる動機づけが不可欠であることを改めて痛感しております。
めざせ! 現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ!

——蝦名元

写真・文
飯田有抄
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飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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