ドラマー石若駿が「石若駿の演奏」を学習するAIとセッション!
メディア・テクノロジーを使って、芸術表現の幅を広げる取り組みをしている山口情報芸術センター [YCAM]。2018年からコラボレーションしている石若駿さんとともに、今年は「自分自身の演奏を学習させたAI」など「エージェントたち」と共演する作品を発表します。6月の本公演に向けて、多くの実験を重ねているプロジェクトの一環として東京で行なわれたプレ公演ライブにONTOMOが潜入! 生形三郎さんがレポートしてくれました。
オーディオ・アクティビスト(音楽家/録音エンジニア/オーディオ評論家)。東京都世田谷区出身。昭和音大作曲科を首席卒業、東京藝術大学大学院修了。洗足学園音楽大学音楽・音...
石若駿を取り囲む、石若駿の演奏を学習したAIたち〜不思議なライブ空間に潜入!
いま、若手打楽器奏者/ドラマーとして最も注目を集める人物「石若駿」が、なんと、自分自身の演奏を学習させたAIなどテクノロジーとのコラボレーション作品を発表するという。その名も「Echoes for unknown egos—発現しあう響きたち」。
山口市にある山口情報芸術センターことYCAM(Yamaguchi Center for Arts and Mediaの略)で、6月4日(土)と5日(日)に実施される公演の、実験の一環として行なわれたプレ公演のライブ・イベントをレポートする。
石若氏は、東京藝術大学を卒業後、自身のリーダープロジェクトとともに、映画やムービーなどの音楽や演奏、そして、国内外のバンドやミュージシャンとの数多くの共演を重ねてきた。
この企画は、そんなさまざまなセッションやコラボレーションを経てきた石若氏が、逆に「自分の感覚に非常に近い奏者と一緒に演奏をしたら、果たしてどんな音楽が生み出されるのだろうか」という発想を抱いたところからスタートしたものなのだという。
それを実現するために、今回の作品では、石若氏自身の演奏とともに、石若氏の演奏をあらかじめ学習したAIや、演奏の特徴によって駆動するエージェント(代理者)とともに、演奏が繰り広げられることとなる。ティザー動画や写真からご覧頂くとおわかり頂けるように、機械仕掛けの太鼓やシンバル類、そして、なにやら、くじ引き機のような装置が回ることで演奏がされるという、なんともアグレッシブな試みとなっている。
そんな企画の実験の一環として行なわれたのが、渋谷にある「公園通りクラシックス」でのライヴ・パフォーマンスだ。今回は、本番公演でも共演するサックス奏者の松丸契(まつまる・けい)氏もゲストで参加(松丸氏の出演は6月5日のみ)。
会場となった「公園通りクラシックス」に足を踏み入れると、ドラムセットを中央に、何枚ものシンバルが設置された一角や、その後方には先のくじ引き機のような自作楽器が鎮座していたり、客席のそば3箇所ほどに、フロアタムやシンバルなどの楽器がまとめて置かれていたりと、なんとも不思議な空間となっていた。
AIをはじめとするオリジナルの打楽器などの「エージェント(代理者)」はYCAMと、AIの研究者かつクリエーターの野原恵祐氏、小林篤矢氏。
これらが石若氏とコラボすると、一体どんな音楽が繰り広げられるのだろうか。
まるで分身のように奏でるエージェント(代理者)たち
開演時刻となると、おもむろに2人が入場し演奏が始まった。サックスがドラムの周囲を歩きながら、まるで試し吹きのような短いフレーズを奏ではじめると同時に、そこにドラムのアタックが重なった。
「Echoes for unknown egos―発現しあう響きたち」のティザー動画
散文的なフレーズが次第に熟して音楽的な盛りあがりに達すると、それに呼応するかのように、客席を取り囲むように配置されたエージェントの楽器が、先程のドラム演奏を模したかのように短いフレーズを叩いていく。「タタタタッ」っと素早いアクションで発せられたその音は均質かつ軽快で、なんとも対照的だ。
それらは、異なる場所で音を発し合い、まるで石若氏の演奏と呼応しながら客席の周りを飛び交う。動作原理的には、ソレノイドと呼ばれる電気エネルギーを機械的運動に変換する電気部品が、パーカッションを叩くことで、音が生み出されているのだという。
これは、事前に石若氏の演奏パターンを学習させたAIが演奏しているといい、確かに、まるで石若氏の遺伝子を持った分身であるかのようにリズムのアンサンブルを奏でていく。
続くパートに入ると、今度は石若氏がマレットを用いたロール奏法でロングトーンを演奏。サックスも息の長いフレーズで重なっていく。するとそこへ、事前に2人が録音した演奏が、石若氏のドラムの演奏によって呼び出され、リアルタイムの2人の演奏に加わり、音楽が多層化。
さらには、ドラムの奥に置かれたシンバルの一角からは、不思議なドローン状の美しい持続音が発せられている。これは、シンバルに取り付けられたコイルによってシンバルを振動させるとともに、その振動で鳴らされたシンバルの音をマイクが拾って、その信号が再びコイルの振動になるというフィードバック・ループによるもので、人の演奏では生み出し難い、なんとも言えない響きが印象的だ。
この辺りの演奏は、予め用意されたシーケンスも含めたパートになっているといい、全体を通して、即興的な構成だけではなく、音楽的なコンポジション(構成)をしっかりと感じとれる展開となっている。
その場で学習したものまで反映させて「自分自身」とセッションする
休憩を挟んだ後半は、待ちに待った「福引きマシーン」(制作チームはこのオリジナル楽器を「Pongo」と呼んでいるという)の演奏からスタート。予想よりも高速で回転し、中に入れられたボールのようなものが、内側に取り付けられたカウベルやウッドブロック、小さなシンバルなどに当たって独特のリズムを作り出していく。
そしてそのリズムに対して、石若氏の、力みなくナチュラルながらも生き生きとしたドラミングが絡み合っていく。長年にわたって石若氏と共演を重ねてきた松丸氏の演奏も実に躍動的で、この二人の演奏だけでもオーディオエンスを傾聴させる力強い魅力に溢れている。
なお、AIの演奏には、事前に学習した内容だけでなく、この日の石若氏の演奏も反映させているといい、それもあってか、先述のように、まさに石若氏の特徴を持ったAIたちとセッションを繰り広げているようで、大変面白い内容となっていた。
このイベントだけでも大変興味深い内容だが、本番では、さらなる演出が組み込まれるようで、この実験公演で提示された以上のものが展開されるとのこと。テクノロジーと音楽家はどう共演できるのかというコンセプトから、YCAMと石若氏が全面的にコラボレーションした作品であり、世界的に見ても、AIを用いた先駆的な音楽パフォーマンスとして、見逃すことができないものとなるだろう。
気鋭の若手実力派奏者として注目を集める石若駿の新作公演に、ぜひとも注目したい。
開催日時:
2022年6月4日(土)18:30 集合
2022年6月5日(日) 13:30 集合
会場: 山口情報芸術センター[YCAM] ホワイエ スタジオA
出演: 石若駿(打楽器奏者)、松丸契(サックス※6月5日のみ)
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