レポート
2021.05.28
経済活動のなかで永続的に自ら運営

反田恭平がオーケストラを株式会社に〜2030年「学び舎」創設までの計画とは

公益財団法人のオーケストラがほとんどの中で、オーケストラの株式会社を設立した反田恭平さん。ピアニストとしてのキャリアから、指揮者、経営者へと活動を広げる、その先には? 5月25日に行なわれた記者会見を山田治生さんがレポート!

取材・文
山田治生
取材・文
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

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2018年から拡大してきた活動の延長線上に株式会社化

反田恭平が、自らプロデュースするJapan National Orchestra(ジャパン・ナショナル・オーケストラ/JNO)を株式会社化するにあたり、スポンサーであるDMG森精機株式会社の川島昭彦専務執行役員とともにオンライン記者会見をひらいた。

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5月25日に記者会見を行なったDMG森精機株式会社の川島昭彦専務執行役員(左)と反田恭平。

ジャパン・ナショナル・オーケストラの始まりは、2018年に反田がプロデュースした「MLMダブル・カルテット」(弦楽八重奏)であった。

翌年、「MLMナショナル管弦楽団」へと発展して、反田(指揮&ピアノ独奏)とともに国内ツアーを行なった。そして、2021年1月に「ジャパン・ナショナル・オーケストラ」に改名し、2月から3月にかけて、佐渡裕(指揮)、反田(ピアノ独奏)とともに全国10公演のツアー(ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番やプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番などを演奏)を行ない、大きな成功を収めた。

設立記者会見は、東京オペラシティ コンサートホールを舞台に、オンラインで開催された。

記者会見の前後、JNOによる、チャイコフスキーの弦楽セレナード第1楽章(反田指揮)、ショパンのピアノ協奏曲第1番(弦楽オーケストラ版)第2楽章(反田のピアノ弾き振り)の演奏も紹介された。

会社化して経済活動のなかで音楽を

反田とDMG森精機との出会いは、2018年の、同社のドイツ本社のあるビーレフェルトでの反田のコンサートであったという。

川島氏は、「ビーレフェルトでのコンサートのあとに、反田さんにどういう夢がありますかと訊き、語り合いました。そして、音楽家が音楽に没頭できるように是非サポートしたいと思いました」と振り返る。

「Japan National Orchestra 株式会社」は2021年5月20日に設立され、DMG森精機の川島昭彦氏が代表取締役会長に、反田恭平が代表取締役社長に就任した。会社の事業目的は、「反田恭平+ジャパン・ナショナル・オーケストラの音楽活動」としている。

本社は奈良市。奈良は森精機の創業の地であり、大和郡山には同社の名前を冠した「DMG MORI やまと郡山城ホール」もある。

株式会社化について、川島氏は、「音楽家をサポートするのは歴史的にパトロネージュや寄付が一般的ですが、反田さんがきっちりやっていく人なので、会社化して、経済活動を通して永続的に自らが運営する取り組みにしたいと思いました」と語る。

「もちろん(同社)単体での黒字を目指しますが、売り上げや利益を伸ばしていくのが第一義ではありません。自活していくのが目的です。オーケストラが自ら地に足をつけて経済活動のなかで音楽活動をしていくということです。したがって、オーケストラのメンバーは社員になります。設立間もない頃は、どんなベンチャーでもサポートが必要なのは一緒。早い段階で自らの足で立って、黒字を出して、成長していく会社を目指します」

DMG森精機の川島昭彦氏がJapan National Orchestra 株式会社の代表取締役会長に。

奈良市の練習場やその周辺地域でメンバーが活動

反田は、「将来、学び舎を作るということで、自然が豊かで、歴史や文化のある奈良はよいと思いました」と述べる。

すでに、奈良市ではJNOの練習場の改修工事が進められているという。定期演奏会は、東京と奈良で開催され、奈良では、DMG MORI やまと郡山城ホールが会場となる予定である。

現在のメンバーは、反田を入れて、18名。「友人、先輩、後輩、音楽に人生を捧げたいという同志たちを集めました」と反田はいう。ソリスト、オーケストラの首席奏者などとして国内外で活躍する気鋭のプレイヤーたちだ。

岡本誠司、大江馨、桐原宗生、島方瞭(以上ヴァイオリン)、有田朋央、長田健志(以上ヴィオラ)、森田啓佑、水野優也、香月麗(以上チェロ)、大槻健(コントラバス)、八木瑛子(フルート)、荒木奏美、浅原由香(以上オーボエ)、皆神陽太、古谷拳一(以上ファゴット)、庄司雄大、鈴木優(以上ホルン)がメンバー。

現在は、このコアとなる18名を中心にオーケストラが編成されているが、「3年後にはメンバーを倍にしたい」と反田は語る。今のレパートリーは反田の弾き振りのピアノ協奏曲や弦楽合奏が多いが、今後は「シンフォニーができたらいいと強く思っています。現代曲にもトライしていきたい」と抱負を述べる。

オンラインサロンも開設、2030年を見越した計画とは

JNOの事業の3つの柱は、「コンサート」、「音源制作」、「オンラインサロン開設」である。

「コンサート」については、年2回の東京と奈良での定期演奏会のほか、オーケストラとしての全国ツアー、JNOメンバーによるリサイタル・シリーズなどを開催する。とりわけ、リサイタル・シリーズは、ひと月に2公演以上が奈良と東京で予定されている。将来的には、海外公演も目指す。

「音源制作」とは、オーケストラやメンバーによる演奏を録音し、CD制作とオンライン配信を行なうことである。

「オンラインサロン」は、有料のファンクラブとクリニックのようなもの。将来的には、演奏の音源にワンポイント・アドバイスをするような双方向の関係になればという。※現在は無料会員のみ 

音楽サロン「Solistiade(ソリスティアーデ)」は、映像を用いた楽曲解説やレッスン、「みんなで作るコンサート」などを企画予定と発表。

反田の将来の夢の一つに「学び舎(=音楽院)の創設」がある。今回、JNOを、奈良を拠点として株式会社化したのは、そのための大きな一歩であるといえるだろう。

「僕の人生の一つの目標に、2030年ぐらいには、学び舎を日本に作りたいということがあります。JNOは、ゆくゆくは、その学校専属のオーケストラに姿を変えると思います」と語る。

ドリーマーでありながらリアリストである反田とJNOの今後の展開に、大いに注目したい。

取材・文
山田治生
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山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

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