レポート
2024.04.14
井上が深い信頼を寄せる森山開次の演出で

井上道義が現役最後に取り組むオペラ《ラ・ボエーム》が秋に全国7都市で公演

ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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全国の劇場・音楽堂、芸術団体等が連携し、さまざまなジャンルの才能を集めて従来にないオペラの魅力を開拓する舞台を届ける「全国共同制作オペラ」シリーズ。2024年の秋には、全国7都市で《ラ・ボエーム》が上演される。

2024年末での引退を宣言している井上道義の指揮で、氏が現役最後に取り組むオペラ・プロダクションとなる。演出は、井上が深い信頼を寄せる舞踊家・演出家の森山開次。森山は、2019年に井上の指揮で《ドン・ジョヴァンニ》をオペラ初演出しており、今回は振付・美術・衣装デザインも担当する。

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歌手陣は、200人以上の中から井上自らがオーディションで選びぬいた、国内外の実力派が揃う。詩人ロドルフォ役にいま聴きたい新世代テノールの筆頭、工藤和真。ミミ役には本年ロンドンの名門ロイヤル・オペラ・ハウスにミミ役でデビューし、絶賛されたアルメニア出身のソプラノ、ルザン・マンタシャンが初来日するほか、圧倒的な表現力で定評ある髙橋絵理のダブルキャスト。画家マルチェッロ役に池内響、ムゼッタ役に中川郁文、イローナ・レヴォルスカヤ(初来日)ほか、充実の布陣。4月11日にはミューザ川崎シンフォニーホールで記者発表会が開かれた。

左から、工藤和真、髙橋絵理、井上道義、森山開次、中川郁文、池内響の各氏(4月11日・ミューザ川崎シンフォニーホール)

芸術の都パリを舞台に、ボヘミアンたちの愛と青春を描き、プッチーニの名旋律が全編を彩る傑作《ラ・ボエーム》。井上が最後のオペラに《ラ・ボエーム》を選んだのは、音楽というものは青春の息吹であり、生きている歓びであるからだという。

森山は、《ラ・ボエーム》の主人公たちに、愛に生き芸術に生きようとした自身の若い日を思い、1人のアーティストとして共感する。演出では、舞踏家としてどういう身体表現ができるか――歌手や指揮者やオーケストラが踊るのではなく、その佇まいやしぐさにおける身体表現――を探っていく(4人のダンサーも出演するが、その演出はお楽しみとのこと)。また画家マルチェッロに、パリで活躍しフランスに帰化した日本生まれの画家・藤田嗣治の視点を重ねる構想で、日本人の視点が加わる点が新しい。

画家マルチェッロ役の池内響は、髪型や眼鏡、ファッションが藤田嗣治そのもののような姿で登場。「マルチェッロを藤田に入れ替えるよりも、藤田をどうマルチェッロに溶け込ませていくか。今回のプロダクションにおける1つのキャラクターとして確立できれば。もしかしたらこのオペラをよく知っている人は度肝を抜かれるかもしれない。でもオペラを見たことがなかったり、このオペラが初めてだという方にも楽しんでいただけるような作品になると信じて取り組んでいきたい」。

詩人ロドルフォ役の工藤和真は、芸大に在学中、美術科の友人たちのシェアハウスにいりびたって芸術論を戦わせていたという。「問えば問うほど答えが遠のくような気がして、芸術は恋愛にすごく似ている。そんな大学時代を思い出したし、それをまた違う視点で表現していけたらいい。コンサートは聴きに行くものだけど、オペラは見に行くものなので、身体表現で自分の持っている音楽をどう伝えていくか、ということが今回のキーワードになると思っている」。

「僕は舞台で一生を終えたい。世の中は虚偽に満ちている。それだったら思いっきりすばらしい嘘を舞台で作れたら、こんなに嬉しいことはない」と語る井上。必見の舞台となるだろう。

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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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