リラックス・パフォーマンスが横浜みなとみらいホールで初開催~「違い」を想像する力
11月17日、横浜みなとみらいホール 小ホールで「リラックス・パフォーマンス~世代、障がいをこえて楽しめるコンサート」が開催されました。
リラックス・パフォーマンスの「リラックスrelaxed」は“寛容な”という意味。障がいのある方も小さいお子さんも安心して一緒に音楽を楽しめる環境が用意されたコンサートで、東京文化会館からスタートし、今回、横浜みなとみらいホールで初開催となります。
徹底した鑑賞サポート体制
会場に足を踏み入れると、ホワイエには、ヒアリングループ*、ポータブル字幕タブレット**、レーザ網膜投影視覚支援機器***といった、聴覚や視覚に障がいがある方の鑑賞をサポートする機器の貸し出しブースが並んでいました。鑑賞サポートの分野でもこのように技術革新が進んでいることに驚かされます。大きな字や点字によるプログラムも用意されていました。
**ポータブル字幕タブレット:遮光処理を施した専用タブレット(スマートフォン程のサイズ)に、トークの内容や曲名、場内アナウンスなどが文字で配信される
***レーザ網膜投影視覚支援機器:手持ち型の視覚支援機器「RETISSA ON HAND(レティッサ オン ハンド)」のスイッチを入れて覗くと、内蔵カメラからの映像が視野角60度で網膜投影される。最大7倍のズーム機能があり、舞台を拡大して楽しむことができる
また、横浜みなとみらいホール独自の企画として、ホワイエの大きなガラス窓をさまざまな形のカラーフィルムで飾って、ステンドグラスを作っていくコーナーがありました。ホール内でじっと聴き続けることができなくても、ホワイエに出てアート体験ができる場所が用意されているのです。
新井鷗子館長が客員教授を務める東京藝大の「障がいとアーツ」受講生による発案とのことで、もう一つ、聴覚に障がいのある方を対象にした「音をさわろう!わくわく玉手箱」も開演前に別室で開かれていました。
ろうナビゲーターが舞台の様子を同時進行で伝える
さて、開演5分前となりました。おなじみのベルが鳴るだけでなく、会場内の照明を点滅させたり、客席で係の人が「まもなく開演」の紙を掲げて知らせます。
そして客席の照明は明るいまま、舞台にナビゲーターの塚本江里子さん(東京文化会館ワークショップ・リーダー)が登場。はじめに出演者の服装やホールの客席数、舞台の大きさや使われている素材を紹介します。ろうナビゲーターのユミコ・メアリー・カワイさんが手話通訳を行ない、上演中の出入りが自由で、フリーエリアもあること、困ったことがあったら扉前のスタッフが伺うことも知らせました。
親しみやすくも聴き応えのあるプログラム
今回のプログラムは子どもたちも親しみやすい「お人形」や「踊り」がテーマで、構成はクラシック・コンサートや音楽番組の構成・監修を手がける構成作家でもある新井館長によるもの。ピアノ・レッスンでもよく弾かれる《人形の夢と目覚め》で幕を開けました。
ここで手話の拍手を紹介。右手を右ほほの近く、左手を左ほほの近くにおいて、手をひらひらさせるのだそうです。「リラックス・パフォーマンス」では、普通の拍手でも手話の拍手でもOK、みんなで手話の拍手を練習しました。
続いて2台ピアノによるチャイコフスキーの「行進曲」(バレエ音楽《くるみ割り人形》より)が演奏された後、まさにお人形のようなドレス姿でソプラノ歌手(清水理恵さん)が現れました。舞台中央に置かれた円形のお立ち台に上がり、オッフェンバックのオペラ《ホフマン物語》から、「オランピアのアリア」を歌います。
オランピアはゼンマイ仕掛けのお人形の役なので、ときどき止まってしまう……するとナビゲーターの声がけで、会場のみんなが腕を前につきだし、ぐるぐると回してネジをまくと……みごと復活!
子どもたちははじめ、聴いたことのない声量や音の高さに驚き、コロラトゥーラの技法におもわず笑ってしまったり、強いインパクトを受けていることが感じられました。しかし最後には、盛大な拍手がわき起こりました。
次にラヴェル《マ・メール・ロワ》から第3曲「パゴダの女王レドロネット」を連弾ピアノとフルートで。特徴的なリズムのアクセントに、足踏みをしたり手拍子をしたり、子どもたちの身体が自然に反応しています。管弦楽版で銅鑼が鳴る場面では、「パーーーン!」と書かれた大きな書が掲げられました。
目で見る音楽=サインミュージックの豊かな世界
ヴァイオリン演奏によるポルディーニ《踊る人形》が続き、圧巻だったのが、ストラヴィンスキー《ペトルーシュカ》より「ロシアの踊り」「ペトルーシュカの部屋」「謝肉祭」。2台ピアノの演奏を耳で楽しむだけでなく、目で見る音楽=サインミュージックを体験することができました。
ササ・マリーさんによる、からだ全体で言葉を発するような動きから、ペトルーシュカの悲劇がありありと伝わってきます。お腹の底に響くようなリズムに子どもたちも次第にノリノリになり、席から立ち上がってぴょんぴょん跳ねたり踊ったり……。コンサートのクライマックスとなりました。
ラヴェル《ラ・ヴァルス》から2台ピアノで華やかに締めくくった後、アンコールはチャイコフスキーの「花のワルツ」。フルート、ヴァイオリンも加わって、お客さまに別れを惜しみます。会場が、ひらひらとした手話の拍手でいっぱいになりました。
*
東京音楽コンクールに入賞した若手実力派たちの演奏で、生の楽器や生の声を響きのよいホールで聴く。世代、障がいをこえてリラックスして音楽を楽しむことができ、自分とは違う立場を想像する機会も得られた、貴重なコンサートでした。
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