音質、遮音性、フィット感......運動不足のベーシストによるランニング用おすすめイヤフォン聴き比べ
音楽を聴きながらランニングを楽しみたい人のために、きっと運動不足であろうベーシスト・小美濃悠太さんに実際に走っていただき、ランニング用イヤフォンを比較試聴!
機能性や装着感のほか、プロのミュージシャンならではの音質レポートをしてくれました。
1985年生まれ。千葉大学文学部卒業、一橋大学社会学研究科修士課程修了。 大学在学中より演奏活動を開始し、臼庭潤、南博、津上研太、音川英二など日本を代表する数々のジャ...
「そろそろ体にガタきてない?」
編集部Sさんからの一言に激しく動揺するわたくし。図星である。年を重ねるごとに体型は貫禄を増し、すっかりワガママボディと化してしまった。重量を増した手足を振り回して楽器を弾くので、体のあちこちが痛むし、毎夜ぐったりする日々である。そういえば、電車で楽器を運ぶのが面倒で、車移動が増えた。
そんな34歳怠慢ベーシストに、ランニング用のイヤフォンを試す企画を持ちかけるとは……。ONTOMO編集部のチャレンジ精神には脱帽だ。彼らの期待に応えるべく、購入から5年、未だ新品同様のランニングシューズを取り出し、ランニングコースの選定を始めたのだった。
雨降りそぼる洗足池で6.5km走ってみた。
しかし、わざわざ外に出て運動するという習慣がない私にとってランニングに出かけるのはあまりにもハードルが高い。
天気は悪いわ風邪はひくわ、ランニングを延期する条件が整ってしまったこともあり、あっという間にイヤフォンの返却締切の前日に。慌てて試聴のためのプレイリストを作り、ランニングのログを記録するアプリをインストールして、発送当日の朝に小雨が降る中出掛けていったのであった。
今回のコースは、仕事場の近く、東京都大田区にある洗足池を選んだ。静かな住宅街の中にあり、勝海舟が晩年を過ごした場所でもある(2019年に勝海舟記念館がオープンしたばかり)。一周約1kmである。
ジャズからオーケストラ、EDM(?)まで試してみました!
今回、レビューのために用意したのはこちらのプレイリスト。
まずは、スウェーデン、ポーランド、そして日本人ミュージシャンの国際ユニット、レイジャー・チルドレン(Leisure Children)がリリースしたばかりのシングル「ラブ・イズ・ア・ストレンジャー」(拙作で恐縮です)。
オーケストラものもあったほうがいいけど、聴き慣れてるものがいいな……ということで、サックス奏者ウェイン・ショーター(Wayne Shorter)が自身のカルテットとオーケストラを従えて収録し、2019年のグラミー賞を受賞した作品「エマノン」から、「プロメテウス・アンバウンド」。
続いて、オーソドックスにジャズのピアノトリオを1曲、トライフォニック(tryphonic)のアルバムから「フィクション」(拙作で恐縮です)。
オケがあったら弦カルもあったほうがよかろう、ということで以前ほかの記事でもご紹介したアトム・ストリング・カルテット(Atom String Quartet)のニューアルバムから「ストリームス」。
最後はONTOMO的にどうかな……と思いつつも、やっぱりイケイケなヒットチューンも試してみよう、ということで思いっきりEDMなヒットチューン、メデューサ(Meduza)の「ルーズ・コントロール」。
さて、前置きが長くなってしまったが、各製品を試してみた感想をお伝えしよう。
意を決して走り始める
・オーディオテクニカ SONIC SPORTS ATH-SPORT90BT
・パイオニア E8 truly wireless
・ヌアール NT110
・ハウスオブマーリー UPRISE EARPHONES
・フォーカルポイント AfterShokz Air
これからランニングを始めてみたいビギナーさんにも手の届きやすい価格帯1万円代で、防水機能を備えたスポーツ向きのイヤフォンから、編集部の独断でタイプの異なる5種類を選びました。
オーディオテクニカ SONIC SPORTS ATH-SPORT90BT
市場想定税込価格:¥17,000前後
なんと、1000曲以上の楽曲が保存できる音楽プレイヤー内蔵。
ひとつめのATH-SPORT90BTを耳に入れて、ペアリングをしてゆっくりと走り出す。
少し高音域が抑えられていて、シンバルの音はややドライに聴こえるような印象。オーケストラも大迫力のサウンドというよりは、少し距離を置いて聴いているような感じに聴こえた。長時間走りながら聴くなら、これくらいの落ち着いた音でもいいのかも。耳に優しくて、音楽を楽しんで聴くには十分の音質だ。
これなら何周でも楽しく走れるし、何なら42.195kmも楽勝なのでは? 遅咲きスーパーランナー爆誕なのでは? と思いながら走り始めた半周後、古傷の右膝が痛む。古傷は左膝だったような気がするが、とにかく無理は禁物だ。休憩しよう。
ということで、イヤフォンを外して池にいるユリカモメの写真を撮ったりしている間に気づいたのだが、左右のパーツがケーブルでつながっていると、なくしたり落としたりする心配がなくて安心だ。そそっかしい人にはこのタイプをオススメしたい(自分にも)。
「音量を上げても周りがしっかり聴こえていいね。音はおとなしめな印象だけど、上品な感じが心地いい」
「耳にぎゅっとはまる感じがする。プレーヤーが内蔵されていて、スマホとか持ち歩かなくてすむのが素晴らしい!」
パイオニア E8 truly wireless
価格:¥14,168(税込)
充電式ケースで、イヤフォンを収納するだけで充電することができる。使い勝手抜群。
4製品を残してすでに足が上がらない中、完全ワイヤレスに初挑戦。棒と化している足を引きずりながら走り出した。
完全ワイヤレスだから音もイマイチだろう、とナメててすいませんでした。一言で言うと、上品な音。穏やかで丸く聴こえるのがE8の特徴。低音がぼやけてしまうのはちょっと惜しいところだが、これも耳に優しい音だ。
この時点でかなり息が上がっていて肩が上下するような走り方をしていたと思うのだが、しっかりフィットしてくれるので耳から落ちる心配がない。また、電源を入れたときにLRをそれぞれの–耳から教えてくれる、地味に親切なところも嬉しい。
これといった大きな特徴があるわけではないのだが、音質もフィット感も安心して使える優等生といった印象。迷ったらこれを購入するのもいいのでは。
「バランスがよくて聴きやすさ○。外からの音とのバランスも丁度いい」
「軽い装着感。フィット感がいいので走っても落っこちなそう」
「ケースにバッテリーが内蔵されているって便利。めんどくさがりにもいい」
「軽い・落ちない・音色がよい(アコースティックの音につやがある)の3拍子そろっている!」
ヌアール NT110
市場想定税込価格:¥10,890
おしゃれでかわいいケース。
反対方向に走っているランナーと、こちらが1周走る間に3回すれ違う。つまり彼は3倍のペースで走っているということだ。すれ違うたび憐憫の眼差しを感じる。超スローペースなのはわかっている、しかし既に私の足は金属バット状態だ。イヤフォンから流れる軽快なビートに合わせて地面を蹴るなんて夢物語だったんだよ……。
と一人挫けてみたところで誰も慰めてくれないので、次に試したのはヌアールのNT110。実は、個人的にはこれがいちばんのお気に入り。高音から低音までバランスよく再生されていて、スポーツ用と言わず普段でも使えるレベルの音。
オーケストラはエッジが立ちすぎない音で、その中から立ち上がるウェイン・ショーターのサックスの音がはっきり聴こえる。自分が参加している2作品では、いずれもコントラバスの色気の成分がしっかり聴こえて、ドライすぎず低音がぼやけることもなく、いい塩梅。
また驚いたのが、EDMスタイルのバスドラム4つ打ちの迫力! なるほどこれは思わずノッてしまう! と踊り出すつもりだったのだけど、足はまったく動かないので棒立ちで両腕を上下するだけの人となり、フラワーロック(若い人は検索してください)よろしくコミカルな動きとなってしまい、6秒でやめて走り出した。
「軽さにビックリ。フィット感も○。低音がしっかり出てくる印象で、遮音性があるので、爆音で走るのも楽しそう!」
「フィット感がある。見た目もおしゃれで、普段使いにもいい。音も自然で立体感があるね」
ハウスオブマーリー UPRISE EARPHONES
価格:¥10,175(税込)
スタイリッシュなデザイン。コードの長さを調節できるので、フィット感も得られる。
絶対走りきれないと思っていたのだが、しばらく走っていると、だんだん疲れない走り方がわかってくる。足は確かに金属バットなのだが、これを腰の力でよいしょと引き上げて走れば、少しずつでも前に進むことができるのだ。なぜそこまでして走らなければならないのか、という根本的な問いを心の奥底に追いやりながら試したのは、ハウスオブマーリーのUPRISE。
これも完全ワイヤレスではなく、左右のパーツがケーブルでつながっているので安心感アリ。またケーブルが編み込みケーブルになっていて、丈夫なつくりになっていそう。スポーツ用途だと、ついケーブルを引っ掛けて断線させてしまったり、汗で劣化したりする心配があるが、これなら安心。
こちらは、耐久性や安定感に重きを置いた製品だと感じる。音像が全体的にボヤけるのが惜しいところだが、ベースは太く聴こえて、伸びやかなのは◎。
「見た目がかわいい! いかにもスポーツタイプって感じではないから自分は好き」
「ポップスやジャズを再生すると、元気なサウンドで楽しく走れそう」
フォーカルポイント AfterShokz Air
価格:¥13,880 (税別)
今回のラインナップで唯一の骨伝導タイプ。
疲れない走り方がわかったのは気のせいで、やがてどうやっても足が上がらなくなる。もう苦痛を通り越して遠い目をしながら走っていたと思うのだが、最後に試したのは骨伝導ワイヤレスイヤフォンのAfterShokz Air。
うーん、これは面白い! 耳がふさがらないのでまわりの音はしっかり聴こえるし、音楽も予想以上にちゃんと聴こえる。運動しながら音楽を聴くには十分すぎる音質だ。
骨伝導で音楽を聴いていても、ストレスはまったくない。ベース音で髄液がびしゃびしゃ振動して脳にダイレクトに振動が伝わる未知のリスニング体験ができたりするのだろうか、なんて思ってたので、ちょっと拍子抜けではある。強いていうなら、音量を大きくして聴くとベースの音でこめかみがムズムズするくらい。
「骨伝導初体験! 耳に入れていないのに音が聴こえて不思議な感覚だけど、違和感はない。想像以上にきちんと音楽が拾えるし、周りの音が完全に聴こえるのも走るにはGood!」
「鼓膜への負担がない安心感がいい! 外の音も普段どおりに聞こえるので、仕事中にも便利」
音質にこだわるONTOMO読者にもオススメしたい、スポーツ用イヤフォン
ご想像のとおり、この記事は筋肉痛に呻き声を上げながら書いている。
行きは洗足池まで10分ほど歩き、帰りは(瀕死なので)電車で戻るつもりだったのだが、駅まで来て財布も電子マネーも持っていなかったことに気がついたのが今回のハイライトであった。
スポーツ用に作られているだけあって、装着感はいずれも良い。体を動かしていても耳から落ちないように工夫されていることにはすっかり感心してしまった。防滴仕様になっているので、雨の中でも安心して使える。
そうはいっても、音質が悪ければ使いたくなくなるのが音楽好きの業の深いところ。しかし安心していただきたい、今回ご紹介した製品は走りながら使うには十分なレベルを満たしている。
正直なことを言えば、走ることで精一杯なので、音質合格ラインがかなり下がっていることは否めない。しかし、聴き疲れしにくい音になっているので、長時間のランニングやエクササイズにはむしろ適しているのではないだろうか。
イヤフォンを取っ替え引っ替えの6kmランニングだったが、終わってみれば楽しいものだった。億劫な運動も楽しくしてくれるスポーツ用Bluetoothイヤフォン、買ってしまえばあなたも無理なく運動が始められるかも?
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