ローマ歌劇場が来日。オロペサ、グリゴーロらが語る《椿姫》《トスカ》の今日性
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
9月13日~26日、ローマ歌劇場が2018年以来、5度目となる来日公演を行なう。
ローマ歌劇場は、1880年にコンスタンツィ劇場として出発し、1900年に《トスカ》がここで初演された。1946年にローマ歌劇場と改称され、2000年代半ばからのリッカルド・ムーティの尽力により、その水準が世界中から注目されるようになる。昨年には、俊英ミケーレ・マリオッティが音楽監督に就任。
今回の来日公演では、イタリア・オペラの代表的作品である、ヴェルディの《椿姫》とプッチーニの《トスカ》が上演され、《椿姫》は人気映画監督のソフィア・コッポラによる演出、イタリア・ファッション界の重鎮ヴァレンティノ・ガラヴァーニが衣裳を手掛け、《トスカ》は巨匠フランコ・ゼッフィレッリが演出・美術を手掛けたプロダクション。
《椿姫》のヴィオレッタ役は、いま世界中の歌劇場で引っ張りだこの人気ソプラノ、リセット・オロペサ。《トスカ》の表題役は、同じく世界の有名歌劇場を席巻するソニア・ヨンチェヴァ、カヴァラドッシ役に現代最高のテノールの一人、ヴィットリオ・グリゴーロ。さらにローマ歌劇場総裁のフランチェスコ・ジャンブローネが加わり、9月11日に日本公演の開幕記者会見が行なわれた。
マリオッティいわく、この2つのオペラは女性に対する攻撃や暴挙が題材になっているという。「《トスカ》は強い権力で女性を虐げる物語であり、最終的にトスカはそれに対抗し、乱暴を働いた相手を殺してしまう。その時の殺人は、本当に悪いことなのか。もちろん殺人に対して正しいことをしたと言うことはできないが、ここには深く考えさせられる課題が含まれているのではないか。《椿姫》のヴィオレッタは、人に蔑まれる立場にあるという意味で、社会的な犠牲者。これらのオペラが古さをまったく感じさせず、常に新しい発見があることには、意味があると思う」(マリオッティ)。
オロペサも同意見で、この2つのオペラの共通項は、女性が巨大な力の犠牲者である点だという。「トスカにもヴィオレッタにも、自分がしてしまったことに対して、神に許しを求める瞬間がある。ヴィオレッタの場合は罪びととして生きていて、その償いをしようと懸命だが、神に受け入れてもらえない。結局は病と社会の犠牲となって、救済は訪れないという、とてもとても悲しい物語。けれども音楽は信じられないほど美しい。この相反する要素が共存している。その複雑さが、このオペラをとても説得力あるものにしていると思う」(オロペサ)。
グリゴーロは、《トスカ》を自分にとっての宝物と表現する。初めて立った舞台も《トスカ》の羊飼い役だった。人生で多くの経験を積む中で自分が変わり、それがカヴァラドッシ役にも表れる、その変化を皆さんに楽しんでいただきたい、と語った。
「今の時代は、人と人が満ち足りた気持ちになれるような繋がりが失われてしまっている。携帯やメールに頼りすぎて、実際の感触を失ってしまい、人と人との繋がりを見失っていると感じている。今回ローマ歌劇場の公演で、生きた感触というものを、皆さんに感じていただきたい」(グリゴーロ)。
ソニア・ヨンチェヴァも、「オペラは愛や色々な人生の価値を教えてくれる。私には息子がいるが、子どもが色々な価値を知るのにクラシック音楽ほど雄弁に語ってくれるものはないと思っている。若い人たちにこの素晴らしい価値を紹介し、誘うことが大事で、実際にホールに行って感じることを、子どもたちにも教えていかなければと思う」。
古びるどころか時代によって新たな発見が生まれるオペラの魅力が語られた会見。今回はU29、U39シートもあるので、オペラ初体験にもぜひいかが?
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