
都響次期首席客演指揮者ルスティオーニがMETで《アンドレア・シェニエ》指揮

アメリカの12月の音楽シーンから、注目のオペラ公演を現地からレポートします。

ニューヨークのクラシック音楽エージェント、エンタテインメント会社勤務を経て、クラシック音楽を中心としたパフォーミング・アーツ全般について執筆、日本の戯曲の英訳も手掛け...

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
今シーズン、メトロポリタン歌劇場はジョルダーノ《アンドレア・シェニエ》を約10年ぶりに上演した。今シーズンのライブビューイング演目の一つであり、血湧き肉躍るイタリア・ヴェリズモ・オペラのオールドファッションな興奮を求める観客にとって、待望の上演だったかもしれない。ニコラ・ジョエル原演出による光と陰が美しいプロダクションは、1996年にルチアーノ・パヴァロッティとアプリーレ・ミッロという当時最高とされたイタリアの響きで初演されたことも、どこかノスタルジックな趣を漂わせる。
フランス革命前後を舞台に、理想に燃えながら断頭台へと消えた詩人アンドレア・シェニエ、伯爵令嬢マッダレーナ、そして革命政府幹部となるジェラールの愛と欲望が交錯する本作。今回はこの3役にピョートル・ベチャワ、ソニア・ヨンチェヴァ、イーゴル・ゴロヴァテンコが挑み、今シーズンからMETの首席客演指揮者となったダニエーレ・ルスティオーニが指揮台に立った。
ヨンチェヴァは登場から目を奪う華やかさを放ち、主演歌手としての研鑽が感じられた。しかし、劇的な場面では声の揺れが目立ち、レパートリーとしては限界ぎりぎりだったかもしれない。表題役のベチャワは、ワーグナー作品にも取り組むようになった堅実なテクニックで危なげのない歌唱を聴かせた。そこに突き抜けるようなイタリアの明るい響き、カリスマ性を求めるのは、ぜいたくなのだろうか。ゴロヴァテンコのジェラールも堅実な歌唱で、春にライブビューイングが予定されているチャイコフスキー《エフゲニー・オネーギン》表題役への期待をつないだ。
イタリア出身の期待の星、ルスティオーニの指揮は思いのほか重く、共に死へ向かうシェニエとマッダレーナの陶酔にも似た熱気と狂気を、もう一段突き抜ける感覚で満たしてほしかったかもしれない(12月13日所見)。
メトロポリタン歌劇場で初演90周年記念の《ポーギーとベス》
メトロポリタン歌劇場(MET)は、ホリデーシーズンの12月から1月にかけて、ガーシュウィン《ポーギーとベス》を13回上演した。2019年に初演されたジェイムズ・ロビンソン演出のプロダクションはひじょうに高い人気を誇り、今回が早くも3度目の上演となる。モーツァルト《魔笛》英語短縮版が子供を取り込むための企画だとすれば、《ポーギーとベス》には大人の新しい観客層の開拓を期待しているのだろう。

実際、本作にはアフリカ系の観客をふくめ、明らかに伝統的な演目とは異なる層が多く集まり、観客の反応も映画館に近い雰囲気がある。《ポーギーとベス》は早くからアフリカ系アメリカ人の描きかたに問題が指摘されてきた(貧民街に生きる障害を抱えたポーギーと、麻薬に溺れるベスという設定は、その象徴かもしれない)。白人作曲家ガーシュウィンによる「借り物の黒人文化」の描写に拒否感を示すアフリカ系の人も少なくない。しかし、その音楽的革新の魅力には抗いがたく、ジャズのスタンダードとして愛される曲も多い。本作を強く嫌う観客がいるいっぽうで、深く愛する観客もいるという状況は、プッチーニ《蝶々夫人》に対する日本人の反応と似ているのかもしれない。
今回、初演90周年記念を謳った上演は、開幕前から客席に漏れ聞こえる出演者たちの気合いの声にも似た、ひじょうに熱気あふれるものとなった。METデビューを飾ったクワメ・ライアンのスタイリッシュな指揮のもと、ポーギー役アルフレッド・ウォーカー、クラウン役ライアン・スピード・グリーンといったMET養成所出身歌手の人気と成長ぶり、さらにクララ役ジャズミン・ソーンダーズのような現役養成所メンバーの活躍も頼もしい。
しかし、METのような巨大空間で言葉を明確に伝えるのは難しく、今回もベス(ブリタニー・ルネ)がなぜクラウンに抗えないのか、なぜ麻薬に溺れるのかといったニュアンスを感じ取るのは容易ではなかった。むしろ際立ったのは、合唱による群衆劇としての側面であり、一人ひとりが個性的なダンサーの熱気(カミーユ・A・ブラウン振付)とともに、この日の最大の主役は群衆であった(12月20日所見)。





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