レポート
2017.10.07
音楽で社会性を育むために ~公開講座を見学して

根岸由香先生の《みんなでエンジョイ! つながるミュージック♪》公開授業編

本サイトのオンライン動画講座e-playingでおなじみ、筑波大学附属大塚特別支援学校の根岸由香先生。音楽療法士でもある先生は、音楽療法の手法を取り入れたオリジナリティあふれる授業で、特別支援教育での音楽活動のノウハウを提案している。

公開講座の講師
根岸由香
公開講座の講師
根岸由香 臨床発達心理士・日本音楽療法会認定音楽療法士

和歌山県(古座町)生まれ。兵庫教育大学大学院学校教育研究科芸術系(音楽)修了。筑波大学大学院教育研究科カウンセリング専攻(リハビリテーションコース)修了。 ...

取材した人
小島綾野
取材した人
小島綾野 音楽ライター

専門は学校音楽教育(音楽科授業、音楽系部活動など)。月刊誌『教育音楽』『バンドジャーナル』などで取材・執筆多数。近著に『音楽の授業で大切なこと』(共著・東洋館出版社)...

写真:編集部

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 7月21日に同校で開催された公開講座「特別支援教育における社会性支援のための音楽活動」には、そんな根岸先生のアイデアを学ぶべく、全国の特別支援学校などからたくさんの教員が集った。

公開授業《みんなでエンジョイ!つながるミュージック♪》

この講座の大きな特徴の1つが公開授業。子どもたちが実際にどんな表情で授業を受け、先生が子どもたちをどう支援するのかを間近で拝見できるのはとても貴重!

授業を受けるのは小学部1・2年(はな組)、3・4年(つき組)、5・6年(そら組)計23名と中学部2年生の6名。彼らをサポートするのは、各クラスの担任をはじめとした12名ものサブティーチャー陣だ。小中合同の授業というのもユニークだが、だからこそ「社会性」とも直結する、異年齢同士の触れ合いや役割分担の機会もたくさん生まれる。

教材曲はすべて根岸先生の自作。動作がそのまま歌詞になった曲が多く、子どもたちが理解しやすく、迷わずに歌い踊ることができ、音楽の楽しさを存分に味わえる。

1●お箏で挨拶

授業の始まりは歌から、しかも伴奏はお箏。「おことリーダー」と称された2人の男の子が爪を付けて構える。みんなで歌うのは、日本らしい五音音階でつくられた『音楽はじめよう』という挨拶の曲。
「ハードルの高い和楽器を、特別支援学校に取り入れるのは難しいのではとも思ってしまうが、根岸先生が着目したのは箏ならではの「音の出しやすさ」。おことリーダーの役割は、グリッサンドを自由にかき鳴らして彩りを添えること!

 

2●『みんなでうたおうよ』で発声練習

「歌のおにいさーん!」と呼ばれたのは、担任としてサブティーチャーを務める厚谷秀宏先生。音楽が専門でもなく、一見して堅物にも見える厚谷先生だが、美声と笑顔をふりまいて「歌のおにいさん」になりきり、見事なパフォーマンスで子どもたちをリード。『みんなでうたおうよ』は愉快な発声練習の歌。「おおきくうたおうよ あー」から始まり、「おこってうたおうよ うー」、「びっくりうたおうよ えー」など、感情によって、さまざまな声を使い分けることを知る。

 

 

3●「イントロクイズ」でさまざまな歌を集約

「イントロクイズリーダー」の男の子が「イントロクイズ ドン!」と声を上げ、それを受けて先生が弾き始めた前奏を聴きつけ、みんなは中央のスペースに出てきて歌い踊る。イントロを聴きとらないと動けないので、先生のピアノに耳を傾けるみんなも真剣。さまざまなレパートリーを組み込めるのも「イントロクイズ」ならでは。

最初に飛び出した曲は『みんなであくしゅ』。リズムにのって歩き回り、歌詞に沿って出会った相手と握手を交わす。その後は2人で手をとり、間奏のワルツにのって体を揺らす。

子どもたちは、異学年同士でもためらいなく手を伸ばしてペアをつくる。なかなかペアを組めなかった子は、先生方がすかさずキャッチし、マッチングしてあげたり、先生がペアの相手になったりしてフォロー。さらにペアを変えて繰り返しつつ、3回目からは参会者も活動に参加。初めての活動に戸惑う大人たちを、子どもたちが頼もしくリードしてくれた!

 

「イントロクイズ」2曲目は、『あつまりゲーム』。歌詞のとおり2人組になって手をつなぎ、それが4人組・8人組になり、最後は全員で大きな輪をつくる。

 

3曲目『Sun サン サンバ』では、空き缶マラカスにビニールテープのポンポンをつけた「花*花マラカス」というオリジナル楽器が登場。いち早く前奏を聴きつけた「がっきリーダー」の女の子たちが、みんなにマラカスを配り、サンバのリズムを共有しながら踊る楽しさを満喫! カラフルな「花*花マラカス」は、見た目でも気持ちを盛り上げるのに一役買っている。

 

『Sun サン サンバ』が終わると「がっきリーダー」は素早くマラカスを回収。リーダーが役割を果たすこと、整理整頓することの大切さを知るとともに、余計な楽器を手元に残さないことで「楽器をむやみに鳴らして騒がしくなる」という事態を予防。

「歌のおにいさん」こと厚谷先生は、子どもたちにもマイクを向け、場の主役に仕立て上げる。子どもたちが張り切って歌い上げる姿も、堂々としたもの!

楽器を出したり、片づけたりするのは、児童の役割。

 

4●『wow wowタンバリン』で「配慮」を学ぶ

大盛り上がりのイントロクイズに続き、ロックテイストの『wow wow タンバリン』。上級生と下級生でペアになり、上級生が持つタンバリンを下級生がリズムにのってたたく。タンバリンの持ち方を工夫し、相手がたたきやすいように傾けてあげたり、面白くするために位置を変えてみたり……相手を思いやり、相手が楽しめるようにとタンバリンの構え方を考えること、それは相手を慮ることそのものだ。楽しい音楽ゲームを通して、子どもたちは人としてもっとも大切なことの1つを学んでいる。

 

5●みんなでリズムを共有する喜び『すずをまわそう』

登場した巨大なロープの輪にはたくさんの鈴と、アンパンマンやドラえもんなどのキャラクターのボタンがついている。全員でこのロープを囲み、リズミカルに繰りながら歌う『すずをまわそう』。合いの手で「ヘイ!」と声を合わせるのも楽しい!

曲が終わるタイミングでキャラクターが自分のところに来た子は名前を紹介され、みんなに讃えられる。何度か繰り返すうち、時には自分が讃えられ、時には仲間にスポットが当たることも学び、自分と他者の喜びを分かち合うことを知る。

6●いろいろな楽器と音色を知る『すてきなおとのうた』

今度は音をじっくり聴く活動。『すてきなおとのうた』では、間奏で先生方が楽器の腕前を披露する。1人目の先生はヴァイオリン、2人目はエレキギター、3人目はバイミージャ(豆の民族楽器)、4人目はユーフォニアム……楽器の形や音色、それを奏でる先生の仕草にみんなは興味津々。「ヴァイオリンという楽器~♪」歌詞にのって楽器の名前を知り、みんなで復唱する。

「どの楽器が好き?」とインタビューされ、ある子は「ヴァイオリン!」、ある子は「ギター!」と笑顔を見せる。実物を目の前にして楽器を知ることで「私はこれが好き!」という実感もわくし、それを発表して分かち合うこともまた喜びになる!

安達敬子先生がバイミージャ、田上幸太先生がヴァイオリン、
若井広太郎先生がエレキギター、佐藤知洋先生がユーフォニアムを担当します。

 

7●最後はクールダウン

歌って踊って……大興奮の授業の最後には「クールダウン」も必要。根岸先生が鳴らすエナジーチャイムの音に耳を傾けるうち、気持ちが落ち着いてくる。

 

「音楽をよーく聴いて、合わせることはできましたか?」先生が問うと、ほぼ全員が誇らしげに挙手。「友達と一緒に、楽しくできましたか?」、「リーダーの役割はどうでしたか?」と授業を振り返り、サブティーチャーの安達敬子先生が「大きな声でリードすることができましたね!」とリーダーを労う。

締めくくりには『さよならのうた』。しっとりと終わらせて、音楽の興奮を次の時間には持ちこさないようにする。

手を取り合って礼儀正しく退場する子どもたちに、参会者は盛大な拍手。誰とでも仲良く、規律をもって音楽を分かち合える、とても素敵な子どもたち……彼らの心身をそのように育む音楽授業の秘密は、この後の根岸先生の講義で明かされた。

 

*根岸先生による活動方法や手作り楽器の作例などは、e-playing講座「音楽療法的アプローチで指導力アップ!」で紹介しています。

公開講座の講師
根岸由香
公開講座の講師
根岸由香 臨床発達心理士・日本音楽療法会認定音楽療法士

和歌山県(古座町)生まれ。兵庫教育大学大学院学校教育研究科芸術系(音楽)修了。筑波大学大学院教育研究科カウンセリング専攻(リハビリテーションコース)修了。 ...

取材した人
小島綾野
取材した人
小島綾野 音楽ライター

専門は学校音楽教育(音楽科授業、音楽系部活動など)。月刊誌『教育音楽』『バンドジャーナル』などで取材・執筆多数。近著に『音楽の授業で大切なこと』(共著・東洋館出版社)...

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