連載
2026.02.27
【Stereo×WebマガジンONTOMO連携企画】ピーター・バラカンの新・音楽日記 45

ブッカーT&ジ・MGズのギタリストとして数多くのヒット曲を支えたスティーヴ・クロッパー

ラジオのように! 心に沁みる音楽、今聴くべき音楽を書き綴る。Stereo×WebマガジンONTOMO連携企画として、ピーター・バラカンさんの「自分の好きな音楽をみんなにも聴かせたい!」という情熱溢れる連載をアーカイブ掲載します。

●アーティスト名、地名などは筆者の発音通りに表記しています。
●本記事は『Stereo』2026年2月号に掲載されたものです。

ピーター・バラカン
ピーター・バラカン ブロードキャスター

ロン ドン大学卒業後来日、日本の音楽系出版社やYMOのマネッジメントを経て音楽系のキャスターとなる。以後テレビやFMで活躍中。また多くの書籍の執筆や、音楽イヘ...

イラスト:酒井恵理

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北部の大都会では成しえない泥臭い音楽

2025年12月3日に84歳で亡くなったギタリストのスティーヴ・クロッパーの代表的な名演は?と訊かれれば、1960年代にメンフィスのスタックス・レコードで作られたさまざまなヒット曲が浮かびます。ウィルスン・ピケットの「イン・ザ・ミッドナイト・アワー」、エディ・フロイドの「ノック・オン・ウッド」、サム&デイヴの「ソウル・マン」、オーティス・レディングの「ドック・オヴ・ザ・ベイ」など名曲ばかりです。でも、スティーヴのギターは派手なソロがあるわけではなく、あくまで歌手をサポートするリズム・ギター、それに聴き手の印象に残るようなシンプルなリフを作る名人でもありました。

今、挙げたすべての曲のバックを務めたのはブッカーT&ジ・MGズという4人のグループでした。スタックスが本格的な活動を始めた60年代初頭は、音楽業界でまだメンフィスのような地方都市があまり認識されていない時代でした。圧倒的にニューヨークがレコーディングの中心になっていて、熟練のスタジオ・ミュージシャンが集まり、編曲家が書いた楽譜を初見でこなしながら、効率よく3時間のセッションで4曲ほど仕上げるビジネス・ライクな世界でした。

ブッカーT&ジ・MGズ

それとまったく違ったのがスタックスのやり方です。キーボード、ギター、ベイス、ドラムズという編成の地元の若いミュージシャン4人が毎日スタジオに通い、その日行なわれる録音で演奏するわけですが、編曲家がいるわけでもなく、楽譜もありません。手探りで曲を形にする作業がカジュアルに進むなかで、北部の大都会では成しえない泥臭い音楽が生まれ、後にソウル・ミュージックと呼ばれるようになります。

いちばんファンキーなものはということで「Green Onions」

ブッカーT&ジ・MGズは最初はバック・バンドに徹していましたが、1962年のある日、ロカビリー歌手として知られたビリー・リー・ライリーのセッションがうまくいかず中断されました。予約されたスタジオの時間が余っていたため、まだグループ名もついていないバック・バンド自らの録音をやってみることになり、「Behave Yourself」というオルガン中心のジャズ寄りのスロー・ブルーズの曲ができました。これをシングルとして出すことに決めたものの、そのB面の曲はなくて、残ったわずかな時間を使ってその場で思いついたシンプルなリフのインストルメンタル曲を録音したのです。

「Behave Yourself」

タイトルは曲の土臭さを反映するため、「いちばんファンキーなものは何?」と誰かが訊きました。あの当時「ファンキー」はまだ音楽用語として広く通用するものではなく、どちらかというと「強く臭う」というニュアンスでした。「いちばんファンキーなもの」はネギだろう、という話になって曲のタイトルは「Green Onions」に決定。

あくまでB面だったこの曲は普通だったら大して聴かれもしない運命をたどるはずでした。しかし、あの時代のラジオのDJたちは今と違ってかなり選曲権を与えられていました。シングル盤中心の時代でしたし、A面が今ひとつぱっとしない時は、人によっては盤をひっくり返してB面を試してみることもありました。そのようにして「Green Onions」は早速A面になって再発売され、全米チャートの3位まで上がる大ヒットとなりました。

メロディはオルガンのブッカーTジョーンズと当時ベイシストだったルイ・スタインバーグ(後にダック・ダンに交代)がユニソンで弾き、ドラマーのアル・ジャクスンは揺るぎないビートを刻みます。そして途中でスティーヴ・クロッパーは切れ味の鋭いシンプルなフレイズをギターで加えるとこの曲のインパクトはずしっと決まります。

「Green Onions」

英国でいち早く着目したのは若き日のジョージィ・フェイム

その後ブッカーT&ジ・MGズによるインストルメンタルのヒット曲が続くわけですが、その傍らスタックス・レコードの圧倒的多くの録音のバックを務めました。

しかし、1962年にはスタックス・レコードはアメリカ以外でまだほとんど認識されていません。「Green Onions」がイギリスでチャートに入ったのは映画「さらば青春の光」で使われてシングルとして発売された1980年でした!

ぼくが初めてこの曲を聴いたのはたぶんジョージィ・フェイムのアルバム『Fame At Last』のヴァージョンだったと思います。1965年にジョージィ・フェイムの曲「Yeh Yeh」がイギリスでナンバー・ワンのヒットとなり、ぼくも大好きでした。まだあまりアルバムを買えない時期だったのに彼のアルバムがほしくて、その時買った、新作だった2作目が『Fame At Last』。収録されている12曲はどれもR&Bやジャズのカヴァーで、当時13歳だったぼくにとって知らない曲ばかりでしたが、それまで聴いたことがない、非常に洗練された音楽の世界が開けてきて、60年後の今につながる愛聴盤です。

曲のオリジナルはレイ・チャールズ、モーズ・アリスン、ジョー・リギンズ、ルイ・ジョーダン、ジミー・マグリフなど、ほとんど名前すら知らない人たちでしたが、このアルバムを作った64年に21歳だったジョージィ・フェイムの選曲のセンスには今も脱帽します。オリジナルを耳にしたのは何十年も後でしたが、先日、日本だけで発売されたCD『フェイム・アット・ラスト+13 R&B クラシックス』にはジョージィのヴァージョンもオリジナル・ヴァージョンも全曲収録されているので、探す努力をしなくても聴き比べができます。

「Green Onions」に関しては間違いなくMGズに軍配が上がりますが、他の多くの曲はいい勝負をしています。もっと多くの人に知ってほしい名盤です。この機会にぜひ聴いてみてください。

ピーター・バラカン
ピーター・バラカン ブロードキャスター

ロン ドン大学卒業後来日、日本の音楽系出版社やYMOのマネッジメントを経て音楽系のキャスターとなる。以後テレビやFMで活躍中。また多くの書籍の執筆や、音楽イヘ...

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