「第九」で学ぶ!楽典・ソルフェージュ 第6回 音階と調性 1. 音階を構成する音程
音大受験生や音大生はもとより、楽器や歌、音楽鑑賞を楽しむ人までを対象にした、楽典とソルフェージュの連載。国民的人気曲「第九」を題材に、楽しみながら耳を育て、スコア・リーディングにも挑戦! 楽典の学びを実践するエクササイズで、表現力やアンサンブル能力を磨きましょう。
今回は、音階と調性 1. 「音階を構成する音程」です。
【楽典】
1、 音階とは
音階とは、ある音を起点として特定の秩序に基づいて1オクターヴ上の音に達するまで、楽音を配列したものです。英語のスケールScaleという言葉も使われます。
音階には、地域や民族、音楽の様式によって多くの種類がありますが、ここでは、「第九」で用いられている長調と短調の音階について学びましょう。
まず、Cを起点にして幹音のみでできる音階を見てください
譜例1
音階の音にはそれぞれ名前があります。とくに大切な音は次の4音です。
主音→起点となる音。多くの場合、曲やメロディが最後に帰着する音でもある
属音→主音から完全5度上の音
下属音→主音から完全5度下の音
導音→主音の下の音。導音はしばしば主音を導く
上記以外の音にも名前があります。
上主音→主音の上の音
中音→主音と属音の中間の音
下中音→主音と下属音の中間の音
2、長音階のしくみ
長調の音階を長音階、短調の音階を短音階と呼びます。
長音階はテトラコルドによってできています。
テトラコルドとは、ギリシャ語で「4本の弦」という意味で、完全4度の枠をもち、長2度、長2度、短2度、長2度の音程で構成されています。このテトラコルドを2回繰り返してできるのが長音階です。
2つのテトラコルドの間の音程は長2度です。ちょうど、先ほど見たCから1オクターヴ上のCまでの幹音による音階になります。
「2度」を省略して「長長短長長長短」と覚えましょう。
譜例2
この音階のように、C(ハ音)が主音である長音階をハ調長音階といいます。C durの音階のように調性だけをドイツ語で言うこともあります。
3、短音階のしくみ
短音階には自然短音階、和声短音階、旋律短音階の3種類があります。
ここでは、A(イ音)を主音として考えるため、それぞれ「イ調自然短音階」「イ調和声短音階」「イ調旋律短音階」となります。
1)自然短音階
Aを主音としたときに、1オクターヴ上のAまでの幹音のみでできる音階です。
「長短長長短長長」となります。調性の関係などを考えるときに使います。
長音階の下中音から始めても同じ音程構成になります。
2)和声短音階
自然短音階の主音から数えて第7音を臨時記号で半音上げた音階です。
「長短長長短増短」の音程からなり、増2度が大きな特徴として挙げられます。和音や和声に用います。
半音上がった状態の第7音の音を「導音」と呼び、臨時記号がつかない元の音は「下主音」と呼んで区別します。
3)旋律短音階
上行形と下行形で異なる音を用います。
上行形は、音階の第6音と第7音の音を臨時記号で半音上げます。「長短長長長長短」です。長2度が4回続くのが目印です。
下行形は、半音上げていた音をもとに戻します。自然短音階と同じです。歌うメロディのときには旋律短音階を用いることが多いです。
ドイツ語を使うときには、a mollの和声短音階、a mollの旋律短音階のように、調性をドイツ語で、音階の種類を日本語でいうことが一般的です。
譜例3
では、「第九」の中で見てみましょう。
第1楽章終結部の543〜545小節には、主音〜主音までの音階が2度演奏されます。木管楽器と弦楽器のオクターヴ・ユニゾンです。
調号は、♭が一つです(B=変ロ音)。この音階の第6音に♮がついて、調号のBがH(ロ音)になっています。そして、Cを♯で半音上げたCis(嬰ハ音)は導音です。
したがって、音程構成は、長短長長長長短ですね。長2度が4回続く旋律短音階です。導音の次のD(ニ音)が主音ですから、ニ調旋律短音階上行形です。
譜例4 「第九」第1楽章 543〜545小節
【エクササイズ】
1、音階の判定
第4楽章543小節からは、弦楽器に音階が出てきます。
543〜544小節は下行形になっています。長または短を書き込んで、何調何音階か答えましょう。
① 音程を書き込む。→音階が続いている最高音Dから最低音Aまで、長または短を書き込んでいく(調号を忘れずに!)→(上から下へ)D-Cis-H-A-G-Fis-E-D-Cis-H-A 短長長長短長長短長長
② 音程構成から音階の種類を判別する→(下から上へ)D-E- Fis-G-A-H-Cis-D 長長短長長長短が読み取れる→長音階である
③ 主音を判別する→3つ長が続く半音上D(ニ音)が主音
④ 答えはニ調長音階
他の部分でも取り組んでみましょう。1)〜4)を判定します。
調号の音に注意してください。
1)第4楽章326〜330小節の第1ヴァイオリン・パート
2)第1楽章 114〜115小節1拍目の第1ヴァイオリン・パート
3)第1楽章 296〜300小節の第1ヴァイオリン・パート
4)第1楽章404〜405小節の第1、第2ヴァイオリン・パート
答え:1)イ調長音階 2)ロ調長音階 3)ニ調和声短音階 4)ト調旋律短音階
2、1 で判定した音階を上行や下行で歌ってみよう
3、他にもスコアから音階を探して自分で判定してみよう
4、聴いて確かめよう
エクササイズ1)第4楽章326〜330小節の第1ヴァイオリン・パート
(53:11~)
エクササイズ2)第1楽章 114〜115小節1拍目の第1ヴァイオリン・パート
(03:46~)
エクササイズ3)第1楽章 296〜300小節の第1ヴァイオリン・パート
(08:42~)
エクササイズ4)第1楽章404〜405小節の第1、第2ヴァイオリン・パート
(11:40~)
いかがでしたか? たくさんの音階が使われていることがわかりましたね。
次回は、音階と調性2. 「調号と調性」です。お楽しみに。
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