
ラトル指揮ロンドン響の《マクロプロス事件》/コパチンスカヤを迎えたロンドン響定期

イギリスの1月の音楽シーンから、バービカンホールで行われたコンサートをレポートします。

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
英国ロイヤル・オペラ・ハウスが11月に上演したヤナーチェク《マクロプロス事件》を、バービカン・センターもサイモン・ラトル指揮のロンドン交響楽団による演奏会で取り上げた(バービカンホール、1月15日)。
ケイティー・ミッチェル演出の舞台では、大スクリーンにめまぐるしく表示されたチャットメッセージが音楽に耳を傾けることの妨げとなった。今回はオーケストラがピットではなくステージ上で演奏していることも手伝い、サイモン・ラトルの指揮によって、ヤナーチェクの独創的で型破りなオーケストレーションが細部まで照らし出された。
「序曲」では推進力のあるオスティナートや生き生きとしたティンパニの付点のリズムが躍動感とエネルギーを生み出し、温かみのある抒情的な主題が300年を超える長い時間の経過を暗示した(オペラの主人公は不老不死の薬の実験台にされて、337歳になっている設定)。
ヴィーテクの娘クリスタが登場してエミリア・マルティを賛美する場面での美しい和音(第1幕)、元外交官ハウクがかつて恋したジプシーを描写するカスタネットのリズムに乗ったダンスのモティーフ(第2幕)、マルティが封書を持ってくるようプルスに命令する緊迫した付点のリズムとシンバルによる第2幕の幕切れ、といった描写は聴き手に強い印象を残した。
しかしもっとも忘れがたいのは、やはりマルティが素性を明かし、死ぬべき運命と和解する最終幕のフィナーレで、解き放たれたような崇高なマエストーゾと安堵に満ちたマルティの旋律が、死こそが人間の生命に意味を持たせるものであるという真実をえぐり出した。
歌手陣も秀逸だった。まずマルティ役マルリス・ペーターゼンが輝きのある声と喜怒哀楽に富んだ歌唱を聴かせた。自分の娘を不老不死の薬の実験台にした尋常ならざる王の専属医の子であるヒロインにふさわしく、切実さを極めた最終幕では337歳というマルティの時を超えた存在を体現していた。
その他のキャストには、ロイヤル・オペラの公演とは対照的にチェコ人の歌手がそろった。気品のあるグレゴル役アレシュ・ブリシュツェイン、厳格なプルス男爵役スヴァトプルク・セム、チャーミングなクリスタ役ドゥブラフカ・ノヴォトナといずれも見事で、彼らに加わったヴェテラン英国人歌手ヴィーテク役ピーター・ホア、ハウク役アラン・オークの二人も強烈な存在感を示した。
コパチンスカヤをソロに迎えたロンドン響の定期
3夜にわたる《マクロプロス事件》の公演終了から3日目の日曜日、ロンドン交響楽団はラトルの指揮で定期演奏会も行った。プログラムは、前半がパトリツィア・コパチンスカヤを迎えてのバルトーク「ヴァイオリン協奏曲第2番」、後半がバルトーク「5つのハンガリー民謡」とファリャのバレエ音楽《三角帽子》だった(1月18日、バービカンホール)。
コパチンスカヤは、第1楽章冒頭から一つひとつのフレーズを軽々と、気のおもむくままに即興的に弾いていった。極限まで緊迫した高音、空気に漂うようなトリル、金管楽器を模倣した荒々しい音が独自の音世界を生み出していた。旋律線は命を吹き込まれた生き物のように、めまぐるしく相貌を変えていった。第2楽章は、内面へと沈潜していくかのような主題にオーケストラが情熱的に呼応して始まった。極限まで音を絞って弾かれた第1変奏、チェレスタの音と一体となった第2変奏の最後、野性的な第3変奏、煙のようなトリルと敏捷な小動物のような32分音符のパッセージが謎めいた雰囲気を醸し出した第4変奏と続き、ヴァイオリン・パートに全身で憑依したかのような第6、7変奏は聴き手を圧倒した。第3楽章はアーテキュレーションの際立たった荒々しい第1主題に独創的な第2主題が続き、猛烈な推進力の三連符で幕を閉じた。コパチンスカヤの並外れた表現力を前に、オーケストラは大人しい演奏に徹していた。

アンコールとしてコパチンスカヤは「歴史から学ぶことのない私たちのもとには、バルトークがこの協奏曲を書いた(第二次世界大戦前夜の)暗黒の時代が戻ってきています」と訴え、クルターグのソプラノとヴァイオリンのための《カフカ断章》から〈不安〉を一人で演奏した。警告するように強く囁かれた「Ruhelos」(安らぎの欠如)という一言には苛立ちが感じられ、観客はなんとも言えない気持ちになった。
後半は、澄んだ声のメゾソプラノ、リナット・シャハムの独唱による素朴で美しいバルトークの「5つのハンガリー民謡」に、ファリャ「バレエ音楽《三角帽子》」(独唱:シャハム)が続いた。ラトルの緻密なスコアの分析と、極めて洗練されたリズムの感覚、フレージングを浮き彫りにした演奏は見事で、情熱と色彩も十分に感じられ、聴き手を魅了した。





関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
新着記事Latest















