——コンクールの重要な課題曲にマズルカがあります。ポーランドの感性と強く結びついたマズルカを理解する難しさは何でしょうか? 特に文化圏が異なる人が作品を理解するには、何が必要ですか?
チェン ポーランド人ではないアーティストとして、私たちは、芸術的、美的感覚をもって理解、分析し、消化しなくてはなりません。これは常に重要なことです。マズルカという形式は、説明することがむずかしい微妙でトリッキーなリズムを持っていますが、巨匠の演奏を聴くとか、オリジナルのダンスを見るなど、それを理解するための情報源はたくさんあります。
しかし結局のところ、核となるものは、音楽(スコアとそれを超えたところにあるもの)のなかにあります。音楽は、常にメロディとリズムの組み合わせであり、歌い、音楽的なフレーズの中で語ります。一部は実際のダンスを意味しておらず、そこに作曲家、そして演奏者の自己存在、そして自分との対話が投影され、また、純粋な喜びや深い悲しみへと変貌します。音楽そのものが、とても抽象的な言語のようなものであるとすれば、その言語の中に入り込み、よく感じ親しんだうえで、美しく演奏することが必要です。
サ・チェンさんが演奏するマズルカ
——聴き手として本当にショパンらしい音楽を見出すためには、どこに気をつければよいのでしょうか? 本物を見つけるために気にかけるべきポイントはなんでしょうか? 人によっては、速くて派手だったりなんとなく心地よい演奏を良いと感じ、それも間違ってはいないのかもしれませんが、より多くの方に、本当に優れたショパンを楽しんでもらいたいという思いからの質問です。
チェン すてきな意図のある質問だと思います。
確かに、世界が急速に発展し、変化する中で、人々はよりさまざまな角度から音楽を楽しむようになりました。ショパンという個性的な人物は、多くの貴族の女性や芸術家たちに愛され、常にそういう人たちに囲まれていましたが、彼は真の自分を保ち続けました。それは、現代の私たちがさまざまな生活スタイルやテクノロジーに囲まれているけれど、なにかを追求して生きる一人の人間としては、自ら選択するチャンスが残されているということ、そのために、個々にできることがたくさんあるということと似ていると思います。
世の中には、良いものとそうでないもの、知性と愚かさがあり、それらをどう受け止めるかは、自分のあり方を反映しています。
私が愛してやまない偉大な作曲家たちは、何らかの形で私の成長過程にかかわり、真の美を示してくれました。これは本当に恵まれたことだったと思うときがあります。誰にとっても、そういう啓示を受ける特別な瞬間は必要だと思います。
ショパンの音楽や個性について話しているうちに質問から少し離れてしまったようですが、読者の皆さんはそれぞれ、そんなショパンらしい音楽について、すでになにかのイメージを持っているのではないでしょうか?
——中国、そして最近の中国の若いピアニストの間でのショパンコンクールの人気はどのような感じですか? 彼らは、あなたとユンディ・リさんの2000年のサクセスストーリーを今でも夢見ていると感じるでしょうか?
チェン はい、ショパンコンクールは、中国では今も重要で人気のあるコンクールですよ(笑)。聴衆、そしてピアニストの両方にとってそう言えると思います。ショパンに対してNoと言える人はだれもいないのではないでしょうか。
ショパンを上手に弾けるようになることは決して簡単ではないけれど、優れたアーティストを目指す上で、非常に有意義で成果をもたらすということについては、中国の若いピアニストや先生方はみんな同意すると思います。
コンクール出場時のサ・チェンさんの演奏(2000年、ステージ1)
——今や私たちは、多くの音源や演奏動画に触れることができるようになりました。そんななか、誰かの演奏のイミテーションをしたくなる誘惑をたち、自分の音楽を見つけるには、どうしたらいいのでしょうか?
チェン これは良い問いだと思います。私たちは、インターネットを手段として賢く利用すべきです。インターネットは価値のある参考資料を与えてくれるかもしれませんが、それらをどのように受け取り、学ぶべきかを知っておく必要があります。
私が勧めるのは、まずは心を込めて楽譜そのものに向き合うということ。そうして、少しずつ音楽との個人的な「対話」や関係を築いていきます。これは、新しい曲を学ぶときに常に重要なことです。そして、その関係が成熟してきたときにはじめて、ほかの参考資料を「補足」として取り入れることもあります。
——次回のショパン・コンクールではどのようなピアニストを求めていますか?
チェン 10月には、多くのピアニストがショパンコンクールの舞台でベストを尽くしてくれますが、私は彼ら一人ひとりに敬意を払いたいと思います。そして彼らがこのコンクールを完走し、人生の中の興味深い経験としてくれたらと思います。
願わくば、ショパンのスタイルと調和しつつ、個性的で正直な“声”を聴かせてほしいと思います。