ベートーヴェンとフルート
年間を通してお送りする連載「週刊 ベートーヴェンと〇〇」。ONTOMOナビゲーターのみなさんが、さまざまなキーワードからベートーヴェン像に迫ります。
ベルギー在住のフルート奏者。ブリュッセル・フィルハーモニック、ベルギー室内管弦楽団などで研鑽を積んだ後、古楽の世界に転身。ラ・プティット・バンド、イル・フォンダメント...
ベートーヴェンの時代のフルート変遷
オーケストラでもっとも高い音域を担当しているのがフルート族。管楽器の花形といわれ、中高生にも大人気のフルート。ベートーヴェンの時代には、現代とは素材もシステムも違う楽器が主流でした。
ベートーヴェンがウィーンに移住する1800年前後に使用されたフルートはこのようなものでした。
見るからに「木」という手作り感満載ですね。この素材は、日本なら仏壇にも使われることがある黒檀(こくたん)。クラリネットの素材としてもお馴染みです。
「フルートは金属で作られているのに木管楽器」と、小学校の音楽の時間では習います。そうなんです、16世紀に横笛というものが誕生してから19世紀の半ばぐらいまでのあいだ、フルートは正真正銘の木製であることが普通でした。
ベートーヴェンと同時代のデンマークの画家ベーレンツェンの自画像にも、このタイプのフルートがばっちり描かれています。
この時代、フルートは広く「家庭の楽器」でもありました。イギリスでは10人に1人の男性がフルートを嗜んだとも言われています。ドイツでも多くの出版社からフルート作品の楽譜が出版されました。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタも、この時代のフランスのフルート奏者ルイ・ドルーエの手によってフルート用に編曲されるなど、多くの名曲がフルート用に編曲、そして出版もされたのです。
ベートーヴェンの多くの作品はウィーンで作曲され、ウィーンの音楽家により初演されました。この時代のウィーンではシュテファン・コッホが作ったフルートが広く愛されたようです。
また、有名な交響曲第9番の初演では、ヨハン・ヨーゼフ・ツィーグラーが製作した15個以上(!!)ものキィがついたフルートが使われました。
このような楽器だったと思われます。
この楽器は、この頃のフルートの一般的な最低音の「シ」より、さらに3度も低い「ソ」まで出せるモンスターフルートでしたが、実際のところ、低い音ではキィが動かない場合も多く、使い物にはなりませんでした。また、もっているだけでも重く、長く、構えること自体が難しいのです。
なぜこんなに長いフルートが必要とされたのかは謎ですが、19世期初頭のフルートは、ピアノ同様に大きな変革期を迎え、各製作者がアイディアを惜しみなく投入していたのです。また、ほかの木管楽器や金管楽器にも、この変革の波は同時多発的に起こっています。楽器のカンブリア爆発といっても過言ではありません。
ベートーヴェンの生きた時代が、同時に楽器が日進月歩に変化していた時代でもあると気づくと、彼の音楽がいっそう面白く感じられるかもしれません。
ヨス・ファン・インマゼール指揮アニマ・エテルナ
ベートーヴェンの時代の楽器で演奏された交響曲第9番
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