名曲〈大地讃頌〉誕生秘話~作曲者・佐藤眞さんにきく 戦争が影を落とすカンタータ
全国の中学校・高校で何十年も歌い継がれ、日本の多くの人々が共有する「合唱の記憶」といえば〈大地讃頌〉……1962年に作曲され、今年でちょうど60年となりました。この曲を歌い継ぐ人たちへのメッセージを、作曲された佐藤眞さんに伺いました。
専門は学校音楽教育(音楽科授業、音楽系部活動など)。月刊誌『教育音楽』『バンドジャーナル』などで取材・執筆多数。近著に『音楽の授業で大切なこと』(共著・東洋館出版社)...
〈大地讃頌〉の詞に影を落とす戦争
――〈大地讃頌〉を含む、カンタータ《土の歌》が作曲された当時は、どんな状況だったのですか。
1961年の暮れ、日本ビクターや東京混声合唱団、NHK交響楽団の関係者らが集まって「オーケストラと合唱によるカンタータを作ろう」という話が持ち上がり、翌年の歌開始の儀のお題が「土」だったので、我らも《土の歌》にしようと。
僕は当時東京藝大の院生で、作曲家としてはしりの頃。この《土の歌》も、ちゃぶ台にしがみつくようにして書いていました。もう60年前のことなので、作曲にあたりどんなことを考えていたかは忘れてしまいましたね。
――作詞の大木惇夫さんとは、どんなやりとりがあったのですか。
広島生まれの大木さんは、第二次世界大戦の時には「従軍詩人」を務めていました。軍の依頼で南方の前線に同行して、日本軍が負けて撤退する時にも「後ろに向かって前進しました」などと景気のいい表現をするのが仕事だった。そんな中で故郷に原爆が落ち……その葛藤を、この《土の歌》にもこめたのだと聞いています。
終戦の年、僕は小学校1年生で、自宅の近くに爆弾が落ちたこともあります。すごい音と煙で、辺りが日食のように真っ暗になるんです。《土の歌》の第5楽章〈天地の怒り〉には、町が崩壊していく描写の中で「時計台が崩れる」という文言があります。大木さんが言うには、時計台とは「町の心臓」なのだと。時計台が崩れるとは「町が死ぬ」ということなのだと……今も世界では戦争があり、歴史のある美しい町が暴力でめちゃくちゃになっていますよね。
〈大地讃頌〉を歌う時には《土の歌》全体を知ってほしい
――〈大地讃頌〉を歌う人たちに伝えたいことは。
〈大地讃頌〉が全国の中学生や高校生に歌われる曲になったことは嬉しいですが、この曲は《土の歌》全7楽章の最後の曲。だから〈大地讃頌〉を歌う時には、《土の歌》全体をせめて聴き、知ってほしいと思います。
それから、オーケストラと合唱のための曲なので、ピアノ伴奏版だけでなくオーケストラ伴奏版を聴いてほしいですね。ぜひオーケストラ版を聴き、オーケストラの響きを想像しながら歌ってください。
オーケストラ伴奏による〈大地讃頌〉
「どこをどう歌う」という具体的なことは、歌う生徒さんたちと先生が自分たちで考察すること・工夫するべきものだと僕は考えますので、僕から申し上げることはありません。自分たち自身で楽譜に懸命に向き合い、音楽を作っていくことが大事なのだと思います。
※全文はONTOMO MOOK『クラス合唱名曲秘話 楽譜に書ききれなかったこと』(2022年12月16日発売)で読むことができます。
教育音楽 編
定価2,200円 (本体2,000円+税)
B5判・112頁
小学校、中学・高校のクラス合唱で人気の楽曲について作曲家・編曲家自身にインタビューした『教育音楽』誌の人気連載「楽譜に書ききれなかったこと」。作・編曲家による貴重な談話は、合唱指導の参考になるだけでなく、楽曲の魅力を深く知ることができ、歌う側にとっても役立つ。連載当時は収録されなかった人気曲『大地讃頌』『COSMOS』『時の旅人』『信じる』の作・編曲者へのインタビューも追加収載。合唱ファン必携の1冊!
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