不思議な美をもつ驚異のカウンターテナーを堪能——フランコ・ファジョーリの新アルバム
学習院大学哲学科卒業、同大学院人文科学研究科博士前期課程修了。ミラノ国立大学で音楽学を学ぶ。ミラノ在住のフリーランスとして20年以上の間、オペラに関する執筆、通訳、来...
バロック・オペラ界のスーパー・スター、フランコ・ファジョーリが2020年5月8日に、ニュー・アルバムを発表しました!
ファルセット(裏声)を使って高い音域を出すカウンターテナーは、今やオペラ界で大人気の声種です。なかでもファジョーリは、声も、技巧も、感情表現も、3オクターヴ以上の幅広い音域も、すべてにおいて並外れた歌手。私も、2018年の来日時には東京公演では飽き足らず、水戸公演まで追いかけて、その美声に溺れました。
今回の新アルバムは、レオナルド・ヴィンチ作曲のオペラ・アリアを集めたアルバムで、タイトルは「Veni, Vidi Vinci(来た、見た、勝った)」。古代ローマの皇帝、ジュリアス・シーザーの有名なセリフと、Leonardo Vinciとを掛けているようです(笑)。
フランコ・ファジョーリ「Veni, Vidi Vinci」(日本盤は未発売、各種ストリーミングで視聴可能)
ヴィンチ(1690-1730)は、以前書いたファジョーリについての記事でご紹介した《アルタセルセ》の作曲家です。18世紀前半イタリア、ひいてはヨーロッパで爆発的に流行ったナポリ派バロック・オペラの、当時もっとも人気があった作曲家のひとりでした。ヴィンチ自身は情熱的な性格だったのか、恋愛関係のもつれが原因で、若くして毒殺されたと言われています。
ナポリ派バロック・オペラの特徴は、シンプルな和声と美しいメロディ、中間部をはさんで前半を繰り返すダ・カーポ・アリアで知られています。ヴィンチのオペラもずば抜けた美メロディと情熱的なアプローチ、そしてセンスの良さが特徴です。
すでに録音がある《アルタセルセ》からのアリアははずし、《カミッラの勝利》《エルネリンダ》《ペルシャの王シロエ》《ポーランドの王ジズモンド》《忠実なロズミーナ(パルテノぺ)》《インドのアレッサンドロ》などの珍しいオペラからのアリア。最後に収録されている《メード》は、伝説のカストラート歌手ファリネッリが初演し、彼の得意曲として歌っていたもの。アルバムの半分の曲が世界初録音という意欲作です。
バロック・オペラは人間のさまざまな感情を昇華し、それを「歌」で表現するところに特徴があります。ファジョーリの不思議な美を湛えた声で歌われる、曲に合わせて万華鏡のように変わる表現を楽しんでください!
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