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2019.03.18
すみだトリフォニーホール/特集「ホールでひとときを」

誰でも参加できる企画でバリアフリーを目指す——すみだトリフォニーホール

墨田区の公立音楽ホールとして1997年に開館した、すみだトリフォニーホール。個性的なクラシックの企画を打ち出して熱心なクラシックファンの心をつかみながら、一方で墨田区民を中心として、子どもや障がい者、施設にいる方といったコンサートに行く機会の多くない人たち、誰もが参加できるオープンなコンサートにも取り組む。その企画・運営を担うプロデューサーの上野喜浩さんにお話をうかがった。

取材・文
林田直樹
取材・文
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

提供:(公財)墨田区文化振興財団
写真:各務あゆみ
写真上:「ようこそ!誰でもコンサート」2018年8月6日 ©三浦興一

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墨田区のホールとしての使命は何か

すみだトリフォニーホールは、錦糸町駅北口から徒歩5分。東京東部地区を代表するコンサートホールとして、大きな存在感を誇っている。

毎年3月上旬に行なう「すみだ平和祈念音楽祭」をはじめ、「トリフォニーホール・グレイト・ピアニスト・シリーズ」「ゴルトベルク変奏曲」シリーズなど、時にはジャンル横断的な新しさもいとわない、独自の個性的なコンサートを数多く企画してきた。

その一方で、墨田区の施設であるという公立ホールの使命として、クラシック音楽を墨田区民のために役立てるにはどうしたらよいか、常に問い直し、試行錯誤を繰り返している。

画期的だったのは、新日本フィルハーモニー交響楽団が30年前に墨田区とフランチャイズ契約をして、その本拠地となったこと。その密接な関係は現在に至るまで続いている。たとえば2018年度は、年間311日稼働のうち、リハーサルを含めて156日は新日本フィルが利用しているという。

永田音響設計による大ホール(1801席)の音響は、演奏家から「どんな小さな音でも遠くの客席に届くのがわかる」と好評。

オーケストラにとって、本番と同じホールで練習ができる音楽的メリットは計り知れない。ホールも、オーケストラを墨田区民のために役立てる多様な企画の可能性を手にすることができる。

現在、新日本フィルやその指導を受けているトリフォニーホール・ジュニア・オーケストラによる墨田区内の学校や施設でのアウトリーチ・コンサートは、年に70回程度行なわれている。新日本フィルの音楽監督をつとめる指揮者・上岡敏之も区民参加型の企画に積極的だ。また、墨田区のすべての小中学校は、すみだトリフォニーホールで新日本フィルによる音楽鑑賞教室に参加している。まさに街のオーケストラ、街のコンサートホールである。

伝統的なシューボックス型のコンサートホールで、舞台上の天井をやや低く抑えたことによって、響きが拡散するのを防いでいる。

ソフト面でもバリアフリー

象徴的なのは、2011年より毎年8月に開催されている「ようこそ! 誰でもコンサート」(次回は2019年8月2日)の存在。赤ちゃん、未就学児、障がいがある車いす利用者や寝たきりの方、その家族や介助者など、墨田区民でなくても誰でも入場可能で、大きな声を出しても、立ち上がっても、手を叩いても大丈夫。最前部エリアは席を取り払ってフラットな床にするなどの工夫も。プロデューサーの上野喜浩さんは言う。

すみだトリフォニーホールのプロデューサー、上野喜浩さん。

「ハード面ばかりでなく、これからはソフト面におけるバリアフリーがますます求められると思います。あらゆる方々に開かれた場所にするために、どういう環境を整えるべきか。実際に我々スタッフも、一人ひとりと接してみて、初めてわかることも多いのです。これは“効率”で済まされる問題では決してありません」

人類共通のかけがえのない精神的宝物であるクラシック音楽を生で聴いてもらうことは、あらゆる人が享受しうる権利の問題としてとらえられるべきであり、効率や数字に置き換えられる問題ではない。そのことを、公立のコンサートホールとして誠実に実践しているのが、すみだトリフォニーホールかもしれない。

「ようこそ!誰でもコンサート」(2018年8月6日)では、客席の最前列を取り払ってシートに座る「のびのびスペース」も用意し、そのすぐ後ろは車いすやストレッチャーを並べられるエリアに。©三浦興一

柔軟な企画の数々

ここは下町の人情を感じさせるホールでもある。格調高い芸術を大切にしながらも、決して垣根を作らず、柔軟な優しさのある、親しめる場所なのだ。

宮川彬良×新日本フィルによるファミリーコンサート「オケパン」(2019年4月6日)は、オーケストラの音楽にパントマイムが加わるユニークな演奏会。幼児でも楽しめる視覚的工夫が音楽への興味と結びつく人気企画だ。

宮川彬良さんの指揮が始まると、2匹のネコがあらわれてアキラさんに難題を出しはじめる……今年のオケパンⅣ は「ねコンダクター!?」というタイトル。 ©堀田力丸

巨大スクリーンでチャップリンの映画を観ながら、チャップリンが全編作曲した音楽の生演奏を楽しむ「新日本フィルの生オケ・シネマ」(2019年5月25日)は、演奏中に客席から笑いがおこる雰囲気が毎年好評。視覚障がい者向け音声ガイドあり。

2018年の「生オケ・シネマ」より。10メートルを超える大画面で、チャップリンのサイレント映画を新日本フィルによる生演奏で楽しめる。

オルガン・コンサート&バックステージ・ツアー(2019年6月6日の一般対象日のほか、4公演の情報はページ下部参照)は、世界最大級のパイプオルガンの演奏を楽しんだあと、楽屋を見学したり、ステージで指揮者になりきって写真を撮ることも可能。一般のほかに視覚障がい者、車いす利用者、未就学児など、対象ごとに実施する細やかさが嬉しい。

2018年の「オルガン・コンサート&バックステージ・ツアー」より、車いすご利用の方対象の公演(上)と、盲導犬も参加した視覚障がい者対象の公演(右)。

もしあなたがすみだトリフォニーホールに行くついでに、墨田区の文化にもっと触れたいと思ったら、ホールから徒歩10分の場所にあるすみだ北斎美術館に足を運んでみてはいかがだろう。生涯のほとんどを現在の墨田区で過ごした葛飾北斎の作品が1000点以上所蔵されている。ホール主催・共催のチケットの半券を持っていくと割引もあるので、使わない手はない。

鏡面のアルミパネルを配した斬新な建築デザインのすみだ北斎美術館は、世界的な建築家、妹島和世さんによるもの。4月7日まで企画展「北斎アニマルズ」を開催中。
「初めてホールを訪れる方はぜひ、ホールのあちこちにあるアート作品や、廊下を照らすライトが音符の形になっていることなど、空間をお楽しみいただきたいです」と、すみだトリフォニーホール正木燈子さん。
ホール内の「北斎カフェ」では、奥のテーブルがティンパニ、椅子がお琴の形の彫刻作品になっている。墨田区内限定販売のトーキョーサイダー(写真)やわらび餅、北斎の絵が箱に描かれているサンドウィッチも楽しい。
コンサートの前後は、ホールに隣接する「東武ホテルレバント東京」1階のロビーラウンジ「クリスタルムーブメント」で、ゆったり過ごしては?
春は、すみだの満開のさくらにちなんだオリジナルブレンド紅茶『さくらいろ』がオススメ。
2階大ホールのロビーにたたずむ等身大のピアニストの像は、彫刻家の舟越桂の作品。
公演情報
ファミリーコンサート2019 宮川彬良×新日本フィルハーモニー交響楽団 オケパンⅣ 「ねコンダクター!?」

ファミリーコンサート2019 宮川彬良×新日本フィルハーモニー交響楽団 オケパンⅣ 「ねコンダクター!?」

日時: 2019年4月6日(土)11:00開演(0歳から入場可能)/15:00開演(4歳から入場可能)

出演: 宮川彬良(指揮・ピアノ)、宮川安利(ダンス・振付)ほか

曲目:
ビゼー/カルメン前奏曲~猫ふんじゃった狂騒曲
ブラームス/ハンガリー舞曲第5番
J.シュトラウスⅡ/ポルカ《雷鳴と電光》ほか
※休憩なし・約50分(予定)

料金: 全席指定 2,000円、ひざ上親子席(大人1名+2歳以下のお子様1名)2,500円 11:00開演のみ ※墨田区在住・勤・学 500円引き

問い合わせ: 新日本フィル・チケットボックス Tel.03-5610-3815

詳細はこちら

新日本フィルの生オケ・シネマ Vol.4 チャップリン《キッド》《担へ銃》

日時: 2019年5月25日(土)11:00開演(13:10終演)/15:00開演(17:10終演)

出演: ティモシー・ブロック(指揮)、山本光洋(オープニング チャップリン パフォーマンス)、新日本フィルハーモニー交響楽団

曲目: チャップリン《キッド》&《担へ銃》 ※途中休憩あり

料金: 全席指定 一般 6,000円、ペア券 9,600円、高校生以下 1,000円

詳細はこちら

オルガン・コンサート&バックステージ・ツアー

日時:

2019年6月6日(木)11:00/14:30 一般対象

2019年6月21日(金)11:00/14:30 未就学児対象

2019年10月7日(月)11:00/14:30 車いす利用者対象

2020年1月6日(月)11:00/14:30 視覚障がい者対象

2020年2月21日(金)11:00/14:30 一般対象

ようこそ! 誰でもコンサート

日時: 2019年8月2日(金)10:30開演

出演: 松尾葉子(指揮)、中須美喜(ソプラノ)、大平倍大(テノール)、トリフォニーホール・ジュニア・オーケストラ

 

問い合わせ: トリフォニーホールチケットセンター Tel.03-5608-1212

会場: すみだトリフォニーホール(東京都墨田区錦糸1丁目2-3

すみだトリフォニーホール

[運営](公財)墨田区文化振興財団

[座席数]大ホール 1801席

小ホール252席

[オープン] 1997年

〒130-0013

東京都墨田区錦糸1丁目2-3

[問い合わせ]03-5608-5400(代)

https://www.triphony.com/

取材・文
林田直樹
取材・文
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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