休憩上等~オーケストラ定期演奏会の休憩時間から思い馳せて
人気音楽ジャーナリスト・飯尾洋一さんが、いまホットなトピックを音楽と絡めて綴るコラム。連載第12回は、「休憩」。NHK交響楽団は、2019年4月の定期公演から、休憩時間を従来の15分から20分に延長するとか。そのニュースを受けて「休憩」に思いを馳せるのです。だってクラシックって、長いんだもの。
一方、マーラーの交響曲第2番《復活》は、マーラー自身の手によって「休憩」指示がなされていた!?
音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...
なぜ某オーケストラの定期公演では男性側トイレに長蛇の列ができるのか
休憩が好きだ。
まあ、たいていの人は好きだと思うのだが、いつだって休憩と聞けばほっとする。
最近、休憩にまつわる朗報があった。NHK交響楽団が2019年4月の定期公演から休憩時間を20分に拡大すると発表したのである。つまり、従来は15分しかなかったわけだが、このニュースに安堵した方も多いことだろう。
というのも、N響の定期公演では休憩中に男性側トイレに長蛇の列ができることが多い。特に演奏曲目によっては、延々と続くトイレ行列に並んで時計を眺めながら冷や汗をかくというスリリングな事態が発生しがちであった。この5分延長によって、男性陣の心配事がひとつ減ることになる。
と聞いて、首をかしげる女性の方もいらっしゃるだろう。普通、行列ができるのは女性の側では? いったい男性側ではなにが起きているのだろうか、と。
実はオーケストラのコンサートともなると、男性も鏡の前で身だしなみを整えるために多大な時間が必要なのであり、そのために時間がかかるのだ。というのは、ウソ。本当のところは女子にはナイショだ。
スコアで指示される「休憩」――マーラーの交響曲第2番《復活》
コンサートでの休憩時間は主催者が定めるものだが、なかには作品自体が休憩を求めている場合もある。
マーラーの交響曲第2番《復活》は80分を超える大作交響曲であるが、第1楽章が終わったところで「少なくとも5分の休憩を入れる」よう、作曲者の指示がスコアに書かれている。第1楽章だけでも20分を超える大曲なのだから、ここで一息ついてはどうか。そんな親切心のあらわれだろうか。あるいは、音楽的な区切りをはっきりと示したうえで、いったん気分をリフレッシュしてから続きを集中して聴いてほしいというメッセージなのだろうか。
一見、休憩好きとしてはありがたい配慮のようにも思えるが、この曲の実演で本当に5分以上の休憩がとられることはめったにない。スコアの指示を忠実に守ろうとする指揮者であっても、書いてある通りに休憩を入れるのは難しいようだ。実際、客席でなにもせずに5分待てと言われても困る。スマホの電源を入れていじり始めたり、隣の人とのおしゃべりが始まったりと、客席の雰囲気が一気に散漫になって、マーラーの狙いとは別の事態が起きそうな気もする。
休憩は入らないが、2枚組のCDになっている、ジェームズ・レヴァイン指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の《復活》。CDを入れ替える間に5分休憩?
休憩時間を設けられた、かつての大長編映画……現在は?
今ではまず見かけないが、かつては映画にも休憩が入った。その痕跡がはっきりと残っていて、なおかつ現代でもときどきリバイバル上映されているのが、スタンリー・キューブリック監督の伝説的な名作「2001年宇宙の旅」である。
上映開始から約90分ほどのところ、人工知能HALがふたりの乗組員の会話を読唇術で「盗み見る」場面のあと、画面に INTERMISSION とだけテロップが表示されて休憩入りが示される(テレビ放映などではこの部分がカットされることもあったと思う)。その後、なにも映っていない画面にリゲティ作曲の「アトモスフェール」が流れ出す。
オペラや演劇と同じように、第1幕と第2幕の間に休憩が入ると思えば不思議はないのだが、現代の映画であればもっと長大な大作でも休憩は入らない。「ロード・オブ・ザ・リング」なんて、200分を超えても休憩が入らないという、チャレンジングな長さだった。
「復活」といい「2001年宇宙の旅」といい、作品誕生時と違って、今では休憩が求められていないということなのか。
そもそも人は案外、休憩好きではないのかも?
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