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2019.03.18
神奈川県立音楽堂/特集「ホールでひとときを」

地域全体のリノベーションで賑わいを創り出す! 神奈川県立音楽堂とディープな横浜の魅力を味わう

横浜・桜木町に新たな文化スポットが誕生する。前川國男の設計による音楽堂と、図書館、青少年センターから掃部山公園へと通じるプロムナードが新設され、紅葉ケ丘全体の景観も生まれ変わる。この機会に、少し足を延ばしてディープな横浜を散策してみてはいかがだろうか。

取材・文
小倉多美子
取材・文
小倉多美子 音楽学/編集・評論

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

提供:(公財)神奈川県芸術文化財団

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横浜・桜木町の新たなスポットへ

近代建築の巨匠ル・コルビュジエに学び、日本のモダニズム建築の礎を築いた前川國男の、初期の傑作として、いまも光彩を放つ神奈川県立音楽堂。2018年4月からの改修工事を経て、2019年6月1日、全館をフルに使っての「オープンシアター」(無料)にてリニューアルオープンする。

無料で全館すべてを見て体験できる「オープンシアター」(写真は2017年度の様子)。当日受付、出入り自由。©青柳聡
普段は入れない舞台裏や床下をのぞいたり、神奈川県立音楽堂の建築について話を聞くこともできる。©青柳聡
さまざまな音楽体験ができる日、家族で訪れてみては。©青柳聡

横浜は桜木町の駅から徒歩10分。紅葉坂を上っていくと、その頂上には前川國男設計による神奈川県立音楽堂、図書館、青少年センターが居並び、神奈川の文化ゾーンとしての紅葉ケ丘の景観が広がる。

この景観改善工事が、2019年9月に竣工する。

神奈川県立音楽堂の正面の広場へと直接通じる広い階段を作るほか、青少年センター、図書館から音楽堂、そして、横浜能楽堂のある掃部山公園へと通じるプロムナードを構想。これは前川國男が提唱したエスプラナード(散策路)で、文化の香りを感じながら、ホールに向かう時間を楽しめるようになるだろう。

音楽堂の全主催公演の開場・開演時間前には、JR桜木町駅からのバス便も運行されるようになるので、足に自信のない方にも優しい。

神奈川県立音楽堂と正面の駐車場。今年9月、景観が変わる。©青柳聡
ホール内の天井や壁面すべてが木で作られている。©青柳聡
ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールをモデルに設計。©青柳聡

「地域の公共ホールは公園のようなもの。ホールが街とともに発展できれば」と、神奈川県立音楽堂の事業をプロデュースする井上はるかさん。野毛や黄金町のアート・シーンも巻き込み、地域全体のリノベーションを行なおうとしている。

「ジャズバー発祥の地・野毛に遊びに来る若い方も最近増えています。ディープな横浜の魅力ももっと知っていただければ」。JRを境にして、みなとみらい側と比べて住宅街が広がるイメージの紅葉坂方面だが、音楽堂の背後には緑豊かな掃部山公園、そして少し足を伸ばせば、横浜一と謳われる飲食の街・野毛を楽しめる。最近は、バルや立ち飲みのお店も増え、若い女性の人気も上昇中とのこと。

神奈川県立音楽堂と周辺のMAP

神奈川県立音楽堂の事業をプロデュースする井上はるかさん。
©ヒダキトモコ

重要なバロック・オペラの音楽シーンである音楽堂

日本初の公共の音楽専用ホールとして、世界から巨匠が訪れ、日本の演奏史を牽引してきた神奈川県立音楽堂。

50周年を迎えた2004年度には、音楽堂ルネサンスの象徴として数十年振りにオーケストラ・ピットを復活させ、パイジェッロやヴィヴァルディのオペラ作品を、2015年にも60周年記念にヴィヴァルディの《メッセニアの神託》を日本初演し、室内規模のバロック・オペラを音楽堂の重要なコンピタンスの一翼として定着させてきた。

2015年のヴィヴァルディ《メッセニアの神託》舞台。©青柳聡
開館当初は使用していた浅いオーケストラ・ピットを、2004年に復活。2019-20シーズンでも使用する。©青柳聡

そして65周年を迎える2019-20シーズン、2020年2月にヘンデルの《シッラ》を日本初演する。

イタリア・バロック演奏の旗手で、ヴァイオリン奏者・指揮者のファビオ・ビオンディ率いるオーケストラ、エウローパ・ガランテが来日。2017年にウィーン・コンツェルトハウスで上演(演奏会形式)したときの歌手を引き連れた、ビオンディとエウローパ・ガランテのタッグによる全幕版の舞台世界初演である。

2015年のヴィヴァルディ《メッセニアの神託》で、ヴァイオリンの弾き振りをするファビオ・ビオンディ。©青柳聡

この室内オペラ路線はさらに、近現代、テアタームジーク、また、神奈川県立音楽堂に合わせた演出によるモーツァルトやオペラ・コミック等々、多様な作品への挑戦へと踏み出す。

2020年1月に日本初演されるボーダレス室内オペラ《サイレンス》は、川端康成の「無言」を原作に、映画音楽の巨匠A.デスプラが作曲、妻のソルレイが台本・演出。映像も駆使し、VALENTINOのピエルパオロ・ピッチョーリが衣裳担当など、新展開の日本初演が待ち遠しい。

「音楽を生活の中に」とライフスタイルを提案する音楽堂が、午後に、トークとともに贈る「音楽堂アフタヌーン・コンサート」は、今シーズン、8月、10月、3月に行なわれる。

各季節に1回開かれる「音楽堂アフタヌーン・コンサート」の8月23日は、今年4年目となる山田和樹指揮・東京混声合唱団のほか、ジャズピアニストの山下洋輔を迎え、緑区制50周年特別記念合唱団と共演するスペシャルな回に。©青柳聡

そして、もう一つの人気シリーズ「音楽堂ヴィルトゥオーゾ・シリーズ」には、ソプラノ中丸三千繪(2019年6月29日)、オランダ・バッハ協会管弦楽団(2019年9月29日)、アルディッティ弦楽四重奏団(2019年11月30日)、ピアニストのエリソ・ヴィルサラーゼ(2020年1月)が登場。

紅葉ケ丘は、新たな初夏を迎える。

公演情報
オープンシアター2019 音楽堂で音・体験 ♪ 建築・探検!

日時: 2019年6月1日(土)10:30開始

料金: 無料

開館65周年記念 音楽堂室内オペラ・プロジェクト バロック・オペラ ヘンデル《シッラ》

全3幕・イタリア語上演・日本語字幕付き・日本初演

日時: 20202月29日(土)、3114:00開演

出演: ファビオ・ビオンディ(音楽監督、指揮、ヴァイオリン) 、彌勒忠史(演出)、エウローパ・ガランテ(演奏)、ソニア・プリナ(アルト)、マルティナ・ベッリ(メゾソプラノ)、 スンヘ・イム(ソプラノ)、 ヴィヴィカ・ジュノー(メゾソプラノ)、ロベルタ・インヴェルニッツィ(ソプラノ)、フランチェスカ・ロンバルディ・マッズーリ(ソプラノ)、ルカ・ティトット(バス)

曲目: ヘンデル/《シッラ

料金: 全席指定 S席 15,000円、A席 12,000円 、B席 10,000円

ボーダーレス室内オペラ/川端康成生誕120周年記念作品 《サイレンス》

フランス語上演・日本語字幕付き・日本初演

日時: 20201月25日(土)14:00開演

出演: エマニュエル・オリビエ(指揮)、 アンサンブル・ルシリン(演奏)、 カミーユ・プル(ソプラノ)、 ミハイル・ティモシェンコ(バリトン)、 サヴァ・ロロフ(語り)

曲目: デスプラ/《サイレンス》

料金: 全席指定 一般6,000円、シルバー(65歳以上)5,500円、学生(24歳以下)3,000円

音楽堂アフタヌーン・コンサート
山田和樹指揮 東京混声合唱団

日時: 20198月23日(金) 14:00開演

出演: 山田和樹(指揮)、 山下洋輔(独奏ピアノ)、 森田花央里(ピアノ)、東京混声合唱団(合唱)、緑区制50周年特別記念合唱団(合唱)

古楽アンサンブル アントネッロ 「没後500年記念 レオナルド・ダ・ヴィンチ 音楽の謎解き」

日時: 201910月12日(土) 14:00開演

出演: 濱田芳通(コルネット、リコーダー)、石川かおり(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、西山まりえ(ルネサンスハープ、チェンバロ) ほか

ブルーオーロラ サクソフォン・カルテット

日時: 20203月 20日(金・祝)14:00開演

出演: 平野公崇(ソプラノ)、田中拓也(アルト)、本堂誠(バリトン) ほか

 

音楽堂ヴィルトゥオーゾ・シリーズ
中丸三千繪 ソプラノ・リサイタル

日時: 20196月29日(土) 15:00開演

出演: 中丸三千繪(ソプラノ)、 安達朋博(ピアノ)

佐藤俊介とオランダ・バッハ協会管弦楽団

日時: 20199月29日(日) 15:00開演

出演: 佐藤俊介(音楽監督、ヴァイオリン)、 オランダ・バッハ協会管弦楽団(管弦楽)

アルディッティ弦楽四重奏団×小㞍健太(ダンス)

日時: 201911月30日(土) 15:00開演

出演: アーヴィン・アルディッティ(第1ヴァイオリン)、アショット・サルキシャン(第2ヴァイオリン)、ラルフ・エーラース(ヴィオラ)、ルーカス・フェルス(チェロ)、小㞍健太(ダンス)

エリソ・ヴィルサラーゼ ピアノ・リサイタル

日時: 20201月13日(月・祝) 15:00開演

出演: エリソ・ヴィルサラーゼ(ピアノ)

 

三ツ橋敬子の夏休みオーケストラ!みんなでピカピカ☆編

日時: 2019年8月17日(土)15:00開演
出演: 三ツ橋敬子(指揮)、三浦友理枝(ピアノ)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団 ほか

※8月14日(水)~17日(土)音楽関連企画も実施。

第54回 音楽堂クリスマス音楽会「メサイア」全曲演奏会

日時: 2019年12月15日(日)14:30開演
出演: 小泉ひろし(指揮)、山口清子(ソプラノ)、上杉清仁(カウンターテナー)、中嶋克彦(テノール)、加耒徹(バリトン)、神奈川県合唱連名(合唱)、音楽堂「メサイア」未来プロジェクト(合唱)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団 ほか

 

[音楽堂セット券発売]
一般発売に先駆けて、通常購入時よりお得な各シリーズのセット券を発売。

●音楽堂室内オペラ・プロジェクト セット券
●音楽堂ヴィルトゥオーゾ・シリーズ セット券
●音楽堂アフタヌーン・コンサート セット券

 

[街なかトークカフェ]
音楽堂ヴィルトゥオーゾ・シリーズの公演に先立ち、飲み物とともに講師のレクチャーを楽しむトークカフェを開催。
ナビゲーター:田中泰(日本クラシックソムリエ協会理事長)

 

[前川建築見学ツアー in 音楽堂]
前川國男設計による戦後モダニズム建築の傑作として評価される神奈川県立音楽堂。
リニューアルオープンを機に、その魅力を紹介する建築見学ツアーを始める。

 

[バス便の運行]
神奈川県立音楽堂の主催公演の開場・開演時間に併せて、JR桜木町駅よりバス便を運行。

 

問い合わせ: チケットかながわ 0570-015-415(10:00~18:00)

会場: 神奈川県立音楽堂

神奈川県立音楽堂

[運営](公財)神奈川県芸術文化財団

[客席数]座席数1054席、立ち見52席

[オープン]1954年
〒220-0044
横浜市西区紅葉ヶ丘9-2

[問い合わせ]045-212-0323(4月上旬まで)/045-263-2567(4月中旬より)

https://www.kanagawa-ongakudo.com/

取材・文
小倉多美子
取材・文
小倉多美子 音楽学/編集・評論

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

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