読みもの
2020.07.03
高坂はる香の「思いつき☆こばなし」第15話

ヴァイオリニスト前橋汀子さんのインドでのハプニング

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

メイン写真:©篠山紀信

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今回は、日本ヴァイオリン界のレジェンド、前橋汀子さんのお話です。

戦中生まれの前橋さんは、海外渡航が容易でなかった1960年代にソ連へ留学。国際的な日本人演奏家のパイオニアとして、精力的な活動を続けています。

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そんな前橋さんの自伝『私のヴァイオリン』(早川書房/2017年)には、幼少期や修行時代の出来事、往年の巨匠たちとのエピソードが記されています。その中で私がつい食いついてしまったのが、1970年代にインドで演奏会をされたというお話です。

数ヶ月前、お話を伺う機会があったので、さっそくこの件についてお聞きしました。

かつてのインドは、大物クラシック音楽家が来ることがむしろ今より多かったかもしれません。移動に時間がかかった時代、ツアーの中継地として立ち寄るついでにコンサートをするケースが、わりとあったようです。

ただ、当時ニューヨークに暮らしていた若き日の前橋さんのケースは、少し特殊でした。

「ヨーロッパ公演をアレンジしたニューヨークのマネージャーから、お金がないから、途中、マニラ、バンコク、ムンバイなどで演奏し、そのギャラを飛行機代にして行くよう指示された」というのです。

インドでの演奏会には、日本の商社の駐在員と妻たちが来場し、喜んでいたといいます。そのなかでも記憶に残ることとして挙げたのが、この出来事。

「当日配るプログラムを見たら、全然知らない日本人女性の写真が載っていたの。違いがわからなかったのかもしれないけれど、びっくりしてね。あと、着いたら会場がすごく暑くて、もちろん冷房などないから扇風機が置いてあって。私は暗譜だからよかったけれど、ピアニストの楽譜が全部めくれてぐちゃぐちゃになってしまって、大変だったわねぇ」

……ものすごく、インドっぽい。

お話の最後、インド古典音楽の演奏会に行ったらあまりに長く続くので驚いたという話になり、その流れでラヴィ・シャンカールとは、ニューヨークで一緒に食事をしたことがありますよ」とサラリとおっしゃっていました。

レジェンドらしいエピソード満載のインタビューでした。

インドでもっとも有名な古典音楽家でシタール奏者、ラヴィ・シャンカール(1920- 2012)の生誕100年を記念して公開された動画。同じく音楽家の娘、アヌーシュカ・シャンカールがインタビューに答えている。

前橋汀子さんの公演情報
7/13特別演奏会

日時: 2020年7月13日(月)19:00開演

会場: サントリーホール

出演:

  • 指揮:井上道義
  • ヴァイオリン:前橋汀子
  • オルガン:石丸由佳

曲目:

  • J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調
  • BWV565(オルガン独奏)
  • J.S.バッハ:主よ人の望みの喜びよ(オルガン独奏)
  • ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61

料金: A席4000円 B席3000円 A席(寄付付き)7000円

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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