読みもの
2021.07.09
高坂はる香の「思いつき☆こばなし」第69話

リストとブーニンの共通点? ピアニストに脈々と受け継がれたもの

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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ピアノの公開レッスン、おもしろいですよね。

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先生側が少しでも生徒にピンとこさせようと、弾いて聴かせるだけでなく、ありとあらゆる言葉の表現、時にはちょっと斬新な比喩で作品や音のイメージを伝えようとしていることもあって、興味深い。そこからは、指導者自身が演奏家として何を大切にしているか、どんなタイプかもわかります。

19世紀、若き日にスターピアニストとして鳴らしたフランツ・リストは、教育者として多くの後進を育てたことでも知られています。『師としてのリスト』(ヴィルヘルム・イェーガー編/内藤晃 監修・訳/阿部貴史 共訳/音楽之友社)は、そんなリストの晩年のレッスンの様子を伝える一冊です。

レッスンの様子を記録していたのは、リストが亡くなる2年前、72歳だった1884年に弟子入りし、最後の1年は秘書として各地のマスタークラスなどに同行した、アウグスト・ゲレリヒ。バイロイトでの師の最期のときにも立ち会っている人物です。

譜例を交えながら、生徒の演奏に対してリストがどんなことを言ったかが記されているのですが、イマイチな演奏に対する皮肉、ユーモラスな表現がおもしろい(当時言われた生徒は傷ついていたかもしれないですけれど)。頻繁に出てくる、うがいするように弾くなっていうの、どういうことなんだろう? などと考えながら読むのも、またおもしろい。

リスト作品への助言は、もちろんそのまま解釈への参考になると思います。

例えば、「愛の夢」第3番の「愛しうる限り愛せ」のテーマについて、淡々と弾くように、愛は長続きしないものだからね、って言ったとか。

加えてショパンの表現についても、リストは若き日に作曲家本人と親しくしていたのですから、その発言は大きなヒントとなるはずです。

ほかにも、自作についての自虐のすぎるコメントとか、クララ・シューマンの弾き方についての嫌味とか、生徒を「出身地+ちゃん」のニックネームで呼ぶ癖があったとか、大小の食いつきポイント盛りだくさん。

それで私の印象に残るのは、リストが頻繁に「音楽院ぽい」弾き方を批判していることです。それが何を意味するかは、23ページ欄外の脚注に、に小さな文字で書かれています。

リストは音楽院を毛嫌いし、表面的で型にはまった演奏を“音楽院っぽい”と揶揄」した。

そのときふと思い出したのです。

これ、この前ブーニンさんがインタビューで言ってたな、「私は音楽院で強制的に作り出された生産品に興味はない」って……。

そして、そういえばブーニンさん、「リスト最後の弟子ジロティ→ゴリデンヴェイゼル→ギンスブルク→ドレンスキー→ブーニン」という、リストの系譜にいるではないか!(幼少期は、お祖父さんやお父さんというネイガウス系の教育ではありますけれどね)

若干こじつけ感はありながら、突然、脈々と受け継がれる何かを感じた瞬間。そんな本筋と関係ない話題含め、いろいろ楽しめる一冊です。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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