小林亜星さん「音楽を何かの役に立てようとするから間違う」
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...
今年5月に他界された、作曲家の小林亜星さん。
都はるみさんの歌う「北の宿から」はじめ、「怪物くん」「魔法使いサリー」「ガッチャマンの歌」や「まんが日本昔ばなし」などアニメのテーマソング、日立「この木なんの木」ほか数々のCMソングなど、日本で育った一定年齢以上の人の多くが口ずさむことのできる、さまざまな楽曲を手がけています。
また、ふとしたとき耳にする企業のサウンドロゴ的なもの……たとえばファミリーマートの「あなたと、コンビに、ファミリーマート」や、積水ハウスのCMのあの旋律など、とにかくいろいろなものが小林亜星さん作です。埼玉出身の身としては、西武ライオンズが優勝するたび、西武系列のデパートや施設で延々リピートされていた西武ライオンズの歌(歌っているのは松崎しげるさん)も小林亜星さん作曲だったと知って、驚いたところです。
さて、先日、最近執筆を担当している「家庭画報」10月号の音楽コーナーに小林亜星さんの追悼記事を書こうと思い、11年前にしたインタビューを読み返していたら、名言の宝庫で少し感動してしまいまして。書きれなかった話題を紹介したいと思います。
当時のインタビューのテーマは、これからの音楽はどうなるか? という壮大なもの。そこで、音楽業界の現状をどうとらえているかと伺うと、まず最初のお答えがこれでした。
「20世紀は、僕はクラシック音楽が進歩の幻想に脅かされた時代だったと思います。自然科学や科学技術の分野が急速に進歩したから、その勢いで音楽も進化しなきゃという《芸術の進化の幻想》が起きた。その中で、現代音楽は無調にまでたどり着いてしまったのです」
無調の音楽にも確かに良いものはある。でもほとんどの場合、「そこには官能とロマンがない」。知的楽しみといわれるかもしれないけれど、「それは食べ物に例えるなら、栄養バランスの面で最先端にすばらしいだけで、誰もがおいしいと思えるものではないのでは」、というご指摘です。
「だいたい、音楽を何かの役に立てようとするから間違う。僕も役に立つ音楽ばかり作ってきたから余計そう思うのかもしれないけど……むしろ、すべての物事が音楽に奉仕してほしいよね!」とも。
小林亜星さんの、あの美しく長く記憶に残る音楽がどう生まれているのかと尋ねると、
「そんなに褒められると照れくさくなっちゃう」と言いながら(みんなが言ってるはずのど真ん中の褒め言葉なのに、照れるんだ……と思いましたけど)、「右脳と左脳をバランスよく使うことが一番大事」とおっしゃっていました。そして、ただ流行にのっているファッションのような音楽ではなく、ヌードで最高、という、永遠に残る音楽を目指さなくてはいけない、と。
とまあ、こうして書いていると全文再掲載したくなってしまうので、このくらいでやめておきますが。人間が、なにも考えていなくても頭に記憶してしまうようなメロディを、あれだけの数作り出す人というのはやっぱり天才で、その奥でいろいろな思考を巡らせているのだと、改めて思うのでした。
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