2つの『メリー・ポピンズ』を徹底比較! 前作のファンでも絶対に楽しめる名作誕生
ディズニー映画の金字塔『メリー・ポピンズ』は、長いあいだたくさんの子どもたちに愛されてきました。ジュリー・アンドリュースが歌う《お砂糖ひとさじで》や《スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス》に胸をときめかせた方も多いのでは?
絶賛公開中の映画『メリー・ポピンズ リターンズ』は前作の設定を受け継ぎながら、新しい名曲の数々が登場。『ディズニー・ミュージック ディズニー映画 音楽の秘密』(スタイルノート/2016年)の著書をもち、TBS『アカデミーナイトG』でディズニーミュージックの解説を務める谷口昭弘さんが、新旧作品の音楽を比較をしながら『メリー・ポピンズ リターンズ』の魅力を伝えてくれました。
富山県出身。東京学芸大学大学院にて修士号(教育)を取得後、2003年フロリダ州立大学にて博士号(音楽学) を取得。専門はアメリカのクラシック音楽で、博士論文のテーマは...
ウォルト・ディズニーの息がかかった超名作が帰ってきた!
『メリー・ポピンズ リターンズ』は『メリー・ポピンズ』の続編映画です。前作はウォルト・ディズニーが急逝する2年前の1964年に制作された名作で、現在も多くの人に親しまれています。子どもたちにとっての理想の乳母メリー・ポピンズがロンドンの桜通りのバンクス家にやってきます。何をやっても完璧な彼女は子どもたちを素敵な世界へと誘います。そしてポピンズは家族の愛、人への思いやり、子どもらしい遊び心の大切さを私たちに伝えてくれました。
この『メリー・ポピンズ』は誰もが認める名作だけに、続編制作にあたっては、台本作家も俳優も作曲家も大変なプレッシャーがあったのではないかと想像してしまいますが、今回の『メリー・ポピンズ・リターンズ』は、54年前に作られた前作へのリスペクトをしつつも新しい時代の聴衆に新たな魅力を加えて提示した作品ではなかったでしょうか。
さてこの『リターンズ』の舞台も前作の続きということでロンドンのバンクス家なのですが、時代としては20年後の世界を描いています。
前作でメリー・ポピンズに出会って子ども心をいっぱいにした長男マイケルは、今や2人の子どもを持つパパとなりました。画家を志望しつつも、父や祖父が働いていたフィデリティ銀行で臨時の仕事をしています。ただ1930年代の大恐慌の波はバンクス家をも襲い、銀行からの融資の返済が滞ったおかげで、一家は代々受け継いできた大切な家を手放すかもしれないという危機的な状況に陥ります。
そんな困難な状況のなかで、20年前とまったく変わらぬ姿のメリー・ポピンズが登場。エキセントリックさや厳しさはそのままに、子どもたちと楽しい時間を過ごしつつ、家族の絆を強め、みんなの愛を育んでいきます(今回ポピンズ役を演じるエミリー・ブラントはジュリー・アンドリュースよりも、ビシッとした感じがするかもしれません)。
名作映画の続編ということで、大まかな人物像や世界観は前作を引き継いたところがあるのですが、前作と違いもいくつかあります。
まずメリー・ポピンズの役割が第1作目とは若干違っています。第1作では散らかった子ども部屋の片付けを面倒くさがる子どもたちのために彼女は《お砂糖ひとさじで》を歌い、指鳴らしをしながら、子どもたちをしつけるという乳母の役割をしっかりと示しています。
しかし今回の子どもたちは、自分で何でもしてしまおうとします。家族に現実的な問題が起こったら、子どもなりにできるだけ何かしたいという存在です(末っ子ジョージは違うかもしれませんが)。
ですからここでのポピンズは子どもたちの生活の面倒を見るというよりは、夢の世界への案内役という要素が強くなっているようです。そのため歌を歌いながら部屋を片付けるよりも《想像できる?》と歌いながら、ファンタジーの世界、イマジネーション広がる世界、子どもが子どもであり続けられる世界を広げる役を彼女は担っています。ポピンズ自身も喜んでその世界に入っていく仕草を見せています。
よりドラマチックに、よりショーアップされたメリー・ポピンズ
音楽的なところから考えると、もうひとつ違いとして驚きなのは、アニメーションと実写の合成部分の、ドラマチックな展開でしょうか。
前作の合成シーンといえば昼下がりの穏やかなストーリーがもっぱらだったのに対し『リターンズ』にはダークなキャラクターが登場し、後半には思わぬアクション・シーンが繰り広げられます。音楽的にもスリルを感ずる展開となり、ドキドキする場面もあります。これは第1作にはなかった要素といえるかもしれません。
『メリー・ポピンズ』のアニメ合成シーン《スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス》
『メリー・ポピンズ リターンズ』のアニメ合成シーンのスコア《レスキューイング・ジョージ》
もちろん今回も素敵な歌が随所に入っているので、やっぱりディズニーだなあという感じはしますが、前作よりもミュージカル色が強まっているともいえるでしょう。
その理由はいくつかありますが、そのひとつは、さきほどのアニメと実写の合成シーンで、メリー・ポピンズが舞台上で歌い踊るということです。ペンギンが出てくるのは前作からではありますが、オーケストレーションも豪華となり、ステージ・ショーの色彩が強くなりました。またその他の場面でも台詞からの歌の入りの間隔が早くなり、歌の部分が多く感じられるということがありそうです。
ジャック率いる街灯点灯夫たちの踊り《小さな火を灯せ》は、前作の煙突掃除人の踊り《踊ろう、調子よく》へのオマージュと言えますが、暗闇の中に街灯点灯夫たちが揃ったところから一人ずつ動き出すあたり、この曲もダンス・ナンバーとして見せる感覚が強く、街灯や壁をステージ空間とし、自転車を道具として使ったステージ・ショーとしているようでした。あるいは画面のカットの仕方によって、そういう印象を受けるのかもしれません。
実はレア? 子どもたちが歌うディズニーソングに涙
さらなる音楽的な魅力として、子どもたちの活躍も見逃せません。前述した通り、今回は子どもたちがしっかりしていて、大人の危機を何とか救おうというストーリー展開が前面に出ているのですが、その子どもたちが物語展開上とても大切な歌を歌う箇所があります。
母親を失った悲しみを捨てられない子どもたちに向けて歌うメリー・ポピンズのナンバー《幸せのありか》を、子どもたちがお父さんに向けて歌うシーンがそれなのです(同じ歌を違うシチュエーションで繰り返し使うのは「リプライズ」と呼ばれるミュージカルではよく使われる手法で、ジャックの歌《愛しのロンドンのソラ》など、ほかの曲でもリプライズが映画内で使われています)。
《幸せのありか》
《幸せのありか(リプライズ)》
実はディズニー作品は子どもたちを対象にして映画を作っている割に、意外に子どもたち自身が歌う歌というのは少ないのです。『ピーターパン』(1953)の《リーダーにつづけ》と『アナと雪の女王』(2013)の《雪だるま作ろう》くらいしか思い浮かびません。
この映画では、子どもたち自身が歌うことによって、子どもから大人へ、心からの訴えが切々と伝わる仕上がりになっています。感動のひとときです。
『ピーターパン』〜《リーダーにつづけ》
『アナと雪の女王』〜《雪だるま作ろう》
前作の音楽も隠し味に
『メリー・ポピンズ リターンズ』は、手書きアニメと実写の合成というレトロな手法を使いつつ、CGを効果的に使っており、またキャストもほぼ総入れ替えのために前作とは違った味わいを感ずる方もいらっしゃるかもしれません。音楽的には第1作の歌が登場しないのが残念と思われる方もいらっしゃるでしょうか。
しかしそれは最初に述べたように子どもたちの役回りからして違うということもありますし、歌を引き継ぐことで、内容が前作にしばられすぎてしまう恐れも大きかったという理由があるように思われます。ただ《2ペンスを鳩に(鳩に餌を)》や《タコをあげよう》の旋律は背景音楽(スコア)となって登場しており、またそれらがとても効果的な場面で使われています。そこは楽しみにされても良いのではないでしょうか。
というわけで、今回は音楽的な側面から『メリー・ポピンズ リターンズ』を考えてみました。第1作をご覧になっていて、その良さが忘れられない方もいらっしゃるかもしれません。ただ『リターンズ』は前作を楽しめた方であれば期待を裏切らないのではないかと私は思うのですが、いかがでしょうか。
ほのぼのとした登場人物と話の展開は前作譲りですし、随所のウルトラC展開が何となく許せてしまうのもポピンズの人物的な魅力、ロンドンや幻想世界の懐かしい美しさ、そして音楽の楽しさから来るのではないでしょうか。これらの魅力も含め、ぜひ映画館の大画面でご覧いただきたい作品といえるでしょう。
2月1日(金) ~ 公開中
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