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2020.11.24
11月の特集「チャレンジ!」編集部員が弦楽器専門店を訪問!

ヴァイオリンをどう選ぶ? マツオ商会にきく弦楽器のこと&初心者へのアドバイス

多くの音楽ファンの憧れの的、ヴァイオリン。これから始めたい人が知っておくべき弦楽器のこと、オールド楽器の価値を判断するための鑑定について、2021年に創業40周年を迎える弦楽器専門店・マツオ商会に話を伺いました。
そして、アマチュアヴァイオリニストの編集部Mが愛好家を代表して、「もしもヴァイオリンを買い替えるなら」と仮定し、グレードアップをするときの楽器の提案も依頼。さて、どんな違いのものが出てくるのでしょうか。

取材・文
高坂はる香
取材・文
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

チャレンジした人
ONTOMO編集部
チャレンジした人
ONTOMO編集部

神楽坂を拠点に、取材・編集作業をしています。

写真:各務あゆみ

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東京・三軒茶屋の弦楽器専門店へ

1981年の設立以来、弦楽器の専門店として、プロ、アマチュアと多くの弦楽器奏者から信頼を寄せられてきた、マツオ商会。

世界中から選りすぐった楽器の販売、職人によるメンテナンス、そして楽器の鑑定会の開催など、弦楽器にまつわるサービスを提供しています。

東京・三軒茶屋の店舗には、モダン楽器からオールド楽器まで、さまざまなニーズに対応した弦楽器がずらり。そして、弦楽器を愛してやまない、創業者の松尾峰男さんと、息子さんである松尾哲さん、松尾元さん、経験豊富な職人さんをはじめとするスタッフのみなさんが、愛好家の要望に応えてくれます。

三軒茶屋駅に程近い場所に立つマツオ商会には、所狭しとヴァイオリンやチェロなどの弦楽器が並ぶ。
楽器を守るために大切なケースは、堅牢なBAM社のものを中心に取り揃えている。

人間よりずっと長生きする弦楽器の価値を、鑑定会でお伝えする

2021年に設立40周年を迎える老舗ならではの経験と信頼、ネットワークを活かし、マツオ商会が継続しておこなっているのが、楽器の鑑定会です。まずはその実状について、松尾峰男さんと松尾元さんにお話を伺いました。

——もともと、どのような想いから、楽器の鑑定会を行なうようになったのですか?

松尾元さん 私たちは日本のみなさんに、良い楽器、なかでも特にオールド楽器をご紹介することに力を入れてきました。しかし設立当時、日本ではまだオールド楽器に関する知識が浸透していなかったのです。そこで、正しい価値観でこうした楽器を扱い、取引するための情報を広げていこうと、ここまでやってきました。

そこで、当時は世界でもそれほど多くなかった楽器の鑑定会を、日本で最初に始めました。世界最高峰の弦楽器研究の権威とパートナーシップを結び、定期的に日本に招いて、鑑定会を行なっています。

楽器研究の世界では、常に新発見があり、常識が塗り替えられています。楽器の価値を適正に評価するには、鑑定家しか知り得ない最先端の知識が不可欠です。彼らの作成する鑑定書は、世界的にも信頼度の高いもの。長年の信頼関係のもと成り立っている鑑定会です。

イタリアやフランス、アメリカから鑑定家を招く鑑定会には、研究書に紹介されている楽器が持ち込まれる場合もあり、そういった情報からも価値を伝えることができる。

——鑑定会に楽器をお持ちになるのは、どのような方ですか?

松尾峰男さん 昔日本に入ってきた楽器には、鑑定書がついていないものがたくさんあります。そこで、「ずっと持っているけれど、実際この楽器はどんなものなのだろうか」とお持ちになる方もいらっしゃいます。

良い弦楽器は何百年と使えますから、いわば人間よりずっと長生きです。そのため、亡くなった親御さんの楽器を譲り受けたけれど、自分では演奏しないので手放すにあたり、その価値の根拠が必要だという方もいます。

今や楽器も弓も値段が高くなっていますから、市場で取引する際には、ますますこうした根拠が重視されているのです。

大手楽器商で長年働いたのち、職人とともに1981年にマツオ商会を創業した松尾峰男さん。弦楽器工房が立ち並ぶ街、イタリアのクレモナを頻繁に訪れ、職人の仲間たちと交流して信頼を築いてきた。

——オールド楽器は一生使うつもりで求める方も多いと思いますが、その際に心がけるべきことはありますか?

松尾峰男さん まずはなにより、ご自分で好きになれる楽器であることが一番だと思います。ただ、高価でいわば動産として受け継がれていくものなので、単純に音が好きだということ以上の価値が、その値段の中に含まれているのも事実です。予算内ならば、値段を気にしすぎずに選ばれるほうがいいと思います。

——やはり投資目的で購入する方もいらっしゃるのですか?

松尾峰男さん もちろんいらっしゃいます。ただ、私たちの立場としては、まず大前提として、その方が好きになれる楽器かどうかが重要だろうと考えています。何十年か弾いて楽しんで、手放さなくてはならなくなったとき、あまりご損にならなければいいのではないでしょうか。

とはいえ、楽器も弓も高度な美術品であることは間違いありません。ご自分では演奏しないコレクターの方の“所有する喜び”もあるでしょうね。

初めての楽器選びで知っておきたいこと

マツオ商会ではオールド楽器だけでなく、モダン楽器も扱っています。初心者が楽器を選ぶ際に気をつけるべきこと、必要なメンテナンスについて伺いました。

——自分で弾いて試すことのできない超初心者は、どのように楽器を選んだらよいでしょうか?

松尾元さん まずは師事する先生や周りの経験者に相談するのが良いと思います。私どもにはヴァイオリンの先生のお客様もたくさんいるので、良い先生を探している方にはご紹介もできます。

また、まわりにアドバイスをしてくれる方がいない場合は、我々が手配した演奏家が試奏する音を聴いて選ぶこともできます。

松尾峰男さんの次男・元さんも、長男・哲さんとともに店を支える。「初めての方には、ヴァイオリンと弓のセットで6~10万円くらいのものからご用意しています」

松尾峰男さん ご自分の好みがはっきりするレベルになるまで、楽器選びは簡単でないと思いますけれど、まずはご無理のない予算を決めていただけたら、私たちの経験と知識から最善のものをお勧めします。例えば同じ値段の楽器でも、材料や製作過程、作り手についての情報から判断し、どちらのほうが適切かお勧めする、ということをしています。

——初心者こそ、良い楽器で弾かないとうまくならない、ということはあるでしょうか?

松尾峰男さん それはありますね。大切なのは、きちんと作ってある楽器を使うこと。弦高、ネックのアングルがちゃんとしていないと、いつまでも弾きにくいし、良い音が出ないと感じるでしょう。短期間でお辞めになる方の楽器を見せていただいたら、これでよく弾いていたなぁ、という楽器だった、なんていうこともありますね。

弦楽器は工業製品とは対極にある個体差のかたまり、どんな楽器でも仕入れたあとに職人による調整が必要と語る。

松尾元さん 先生についていれば、楽器についてのアドバイスもしてくれると思いますので、参考にされると良いと思います。そして上達してきたら、ステップアップのため、別の楽器に買い換えてみることも大切です。

——インターネットでの購入については、どうお考えですか?

松尾峰男さん 同じ楽器でも、送られてきたままのものと、ベテランの職人が調整したものでは、正直いってまったく別物です。完成しただけの状態の楽器は、ある意味、素材のようなもの。それを職人が、糸巻き、指板、駒など一つ一つ調整するわけです。これによって、楽器は劇的に変わります。

松尾元さん ヴァイオリンはバランスがとても大切な楽器です。調整ができていない楽器を無理に使い続けて、あとから直そうとすると、むしろ余計に費用がかさみます。最初はもちろん、その後も定期的にメンテナンスされることをお勧めします。

マツオ商会の工房。店頭に並ぶ楽器のほか、プロ・アマの演奏家が持ち込む楽器も、調整やメンテナンスを行なう。
弓も楽器と同様、音や弾きやすさに大きな影響がある。さまざまな新素材が出ているものの、松尾さんはフェルナンブーコという弾力のある木を使用したものをオススメしているとのこと。
初心者におすすめのメーカー

アコルド クヴィント(AKORD KVINT)

「私たちが30年以上お付き合いしている、チェコのメーカーです。今やヨーロッパでは、産業としてヴァイオリンを作っている会社はほとんどなくなってしまいましたから、貴重です。社長も社員もみんな真面目で、一生懸命作っています」(松尾峰男さん)

15万円くらいの楽器からあり、音楽教室で先輩から後輩へ受け継いで弾かれるような、長く使えるメーカーとのこと。

取り扱いメーカーの詳細はこちら

編集部Mが体験!——もし愛用のヴァイオリンを買い替えるなら?

実際に、編集部Mのヴァイオリンで、今の楽器をより良い状態にするにはどのような調整が考えられるか、またもしも買い換えをするならどんな楽器がおすすめか、提案してもらいました。

10歳でフルサイズのヴァイオリンを手に入れ、アマチュアオーケストラで活動する編集部M(中央)。

編集部M「10歳のときに購入し、一緒に成長してきたという感覚のある楽器です」

松尾峰男さん「とてもいい楽器ですね。この製作者、私は彼が若かった頃から知っていますよ! ゆっくり丁寧に作る真面目な職人です。一番脂ののっている頃の楽器ですね」

編集部M「気に入っていて不満に思っているところはあまりありませんが、しいていえば、弦高が高いことが少し気になります」

職人さん「G線側はたしかに少し高めですね。指板と駒を調整すると、改善されます。また、少し駒に弦が食い込み気味なので、調整すると音が裏返りにくくなると思いますよ」

その場で見て、すぐに調整したほうがいいポイントを教えてくれた職人さん。

編集部M「数年前に弓を新調したら、先生から音程が改善されたと言われました。それまで自分に原因があると思っていたのですが……こういうことって、よくあるのでしょうか?」

松尾峰男さん 「楽器や弓を変えて途端に伸びたという方は、よくいらっしゃいますよ。弦楽器は練習しているうちに、ある時点で、その楽器では“天井に頭がつかえる”ような状態になることがあります。楽器や弓を変えることは、次のステップに進むための一つの方法でしょう」

編集部M「今とタイプの違う楽器を試すとすれば、どれがおすすめですか?」

松尾峰男さん「買い替えるのでしたら、かなり違う楽器でないとおもしろくないでしょうから、この辺りをお使いになるとおもしろいと思いますよ」

  1. フランスの楽器。
  2. イタリアの楽器。製作者が、第二次世界大戦中の迫害を避けてエジプトに移住し、そこで製作したという。
  3. 1700年代に製作された楽器。
一番手前から、編集部Mの楽器、1.フランスの楽器、2.イタリアの楽器、3.1700年代に製作された楽器。順に高価になるとのこと。
3本のヴァイオリンを弾き比べする編集部M。「フランスの楽器はすーっと音が出てくれて、一番弾きやすく感じました。2本目、イタリアの職人さんがエジプトで製作されたという背景をお聞きして、歴史の重みに思いを馳せていたのですが、なんとなくそのイメージ通りの音でした。最後に弾かせていただいた1700年代の楽器は、持った瞬間からこれまでとまったく違いました。少し小ぶりで、とてもお上品なんです。楽器自体の雰囲気も音色も、優しくてあたたかみがありました」
編集部Mの感想

いろいろなタイプの楽器を弾かせていただいて、ヴァイオリンの奥深さを感じて、それだけでもモチベーションアップになりました。オールド楽器は初めてでしたが、まろやかで深みのある音色で、まったく違う自分に出会えたような気がします。

なんだかうまくできないなぁというとき、真っ先に疑うのは、自分の技術でした。でも、楽器をベストコンディションに整えたり、楽器のグレードアップを検討したり、楽器に関してできることがたくさん。「気軽に相談してほしい」と優しくお話いただいて、これからのチャレンジの幅が広がったように感じます。

お店情報
マツオ商会

1981年創業の弦楽器専門店。 弦楽器(ヴァイオリン属)および関連商品、書籍の輸出入・販売、弦楽器の修理・調整を行なう。代表取締役は松尾峰男さん。

住所: 東京都世田谷区三軒茶屋1-41-9 朝日生命三軒茶屋ビル2F

電話: 03-3410-1915

公式サイトはこちら

 

取材・文
高坂はる香
取材・文
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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神楽坂を拠点に、取材・編集作業をしています。

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