《トスカ》~注文魔プッチーニ!「オペラ向きでない」台本が変えた未来
2020.05.30
ミラノ・スカラ座がGoogleとコラボ! 超貴重なアーカイブを楽しもう
学習院大学哲学科卒業、同大学院人文科学研究科博士前期課程修了。ミラノ国立大学で音楽学を学ぶ。ミラノ在住のフリーランスとして20年以上の間、オペラに関する執筆、通訳、来...
プッチーニ作曲の《ラ・ボエーム》は、オペラのすべてのレパートリーの中でも、特に人気のある作品だ。このオペラを元にしたミュージカル『レント』なども生まれている。
その《ラ・ボエーム》の原作である19世紀フランスの小説が昨年末に初めて全訳出版された。アンリ・ミュルジェール著、辻村永樹訳「ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)」(光文社古典新訳文庫)がその本だ。
オペラ《ラ・ボエーム》が広く愛されるのは、音楽の素晴らしさは言うまでもないが、芸術家たちの青春群像を描いていることが大きいだろう。貧しい暮らしの中で、音楽や絵画など、芸術で身を立てたいと夢見る若者は今でも多い。恋愛に悩む若者はもっと多いだろう。そして大人たちはこの物語を読み、かつての自分を思い出して胸を熱くするのである。
オペラのストーリーを知っている人なら、原作がかなり違うことに気がつく。もとは雑誌に連載されていた短いストーリーを集めてできた小説なのだ。だが、あちらこちらにオペラの中にも登場するエピソードが見つかる。それは著者ミュルジェールの人生でもあった。お針子ミミや詩人のロドルフォは実在していたのだ。得難い読書体験である。