古典と現代を融合し生演奏で魅せる音楽劇——あやめ十八番『江戸系 宵蛍』
ライターの高橋彩子さんが、音楽面から舞台作品を紹介する連載。今回は、演劇ユニット「あやめ十八番」の新作。東京オリンピックや三里塚闘争など、社会的なテーマを、生演奏の音楽とともに、どんなエンターテインメントに昇華させるのでしょうか?
早稲田大学大学院文学研究科(演劇学 舞踊)修士課程修了。現代劇、伝統芸能、バレエ、ダンス、ミュージカル、オペラなどを中心に執筆。『The Japan Times』『E...
日本でもコンスタントに生まれている音楽劇。そのいくつかを観ていて思うのは、ブレヒトとクルト・ヴァイル(20世紀前半『三文オペラ』を始め、多くの名音楽劇を生み出したコンビ)ではないけれど、継続して共同作業を行なっている劇作家と作曲家の作品には、やはり一定の強さがあるということ。
古典芸能の要素を取り入れながら現代劇として上演する“あやめ十八番”の舞台もそのひとつだ。
作・演出の堀越涼と音楽・吉田能の、進化し続けるタッグ
あやめ十八番は、俳優の堀越涼が代表を務める演劇ユニット。堀越は学生劇団で活動後、俳優で作・演出家の加納幸和率いる花組芝居に、研修生を経て2006年に入座し、主に女形として舞台に立つ一方、小劇場のさまざまな舞台にも客演。そして12年、あやめ十八番を立ち上げ、劇作・演出を開始した。
現代の歌舞伎=“ネオかぶき”を標榜し、古今東西のモチーフで作品を送り出す花組芝居がホームベースなだけに、あやめ十八番も「歌舞伎、能、浄瑠璃など、さまざまな日本の古典芸能を基礎とし、古典のエッセンスを盗み現代劇の中に昇華することと、現代人の感覚で古典演劇を再構築することの両面から創作活動を行なう」のを旨としている。様式性や江戸情緒あふれる世界を特徴としながら、西洋的なモチーフや現代・近未来の世界を扱うなど、そのアプローチもユニーク。男優のみの花組芝居とは違い、あやめ十八番の副代表の大森茉利子、構成員の金子侑加を含め、女優も多く出演している。
特筆すべきは、あやめ十八番の音楽がすべて生演奏である点。14年以来、ほぼすべての作品の音楽を手がけているのが、ピアニスト・作曲家で俳優でもある吉田能だ。18年からはあやめ十八番のメンバーとなり、堀越との共同作業を一層密なものとしている。
近年の作品のうち、17年初演の『ダズリング=デビュタント』は「似非西洋劇」と銘打ち、柘榴痘(ざくろとう)という疫病が蔓延する町の、退廃した貴族社会の様相を描いた作品。出演者はそのままに、役柄をシャッフルして、演出の違う「日本画版」と「洋画版」を同時上演した。同じ戯曲ながら和と洋でガラリと変わる世界を、生演奏のグランドピアノやオープンリール、琴などの音でも描き分け、妖しく綺羅びやかに彩っていた。
16年に初演され、18年に再演された『ゲイシャパラソル』は、平成60年という未来が舞台ながら、主人公は深川芸者・仇吉。外国人と名を交換する“戸籍売買”が流行るなか、名を売らないことで「日本人の鑑」として“名を上げた”仇吉の哀しい事情や、彼女を巡る人間模様が、生き生きと描かれた。レトロとモダン、和と洋が混じり合った世界を、和洋の楽器が体現していたのも印象深い。
本作ではスケジュールの都合で、音楽を吉田能の弟の吉田悠が担当。吉田悠も近年、あやめ十八番の楽隊としておなじみの存在だ。なお、吉田能と吉田悠は、弟の吉田匡と共に、三兄弟によるトリオバンド「花掘レ」も組んでいる(現在、ライブ活動休止中)。
花掘レ『春はバケモノ』 Official Music Video
世界観といい各キャラクターの魅力といい音楽の組み込み方といい、出色の出来だったのが、2019年の『しだれ咲き サマーストーム』。舞台は、明治維新を経験せず江戸文化を残したまま現代に至った架空の東京、いや、江戸。遊郭や長屋と、携帯電話やユーチューバーが同居する不思議な世界に、落語のモチーフを散りばめ、全編が廓噺(くるわばなし/遊郭を舞台とした落語の演目)のような趣きに。混じり合う江戸と現代の風俗を表しながら、疾走する音楽も実に痛快だった。
あやめ十八番 第十一回公演『しだれ咲きサマーストーム』ダイジェスト
2つのオリンピックと空港反対闘争を描く最新作『江戸系 宵蛍』
さて、そんなあやめ十八番の最新作が、間もなく開幕する。これがまたかなりの野心作であり新境地になり得る作品なのだ。
舞台は、56年ぶりに東京オリンピックが開かれ、人々が熱狂している2020年の日本。来日した中国人記者らは、国内最大の国際拠点・第二東京国際空港(豊郷国際空港)の滑走路の延長線上にある一軒家の取材に誘われる。千年(ちとせ)家の人々が守るこの家は、1964年の東京オリンピックの2年後、地域住民への事前の説明なしに始まった空港建設計画に反対し激化した“蛍塚闘争”の、象徴的存在であり最後の残り火だった——。
「2020年東京オリンピック編」と銘打った第一幕、「1964年東京オリンピック編」の第二幕と、2つの東京オリンピックにまつわる時代を描きながら、政府、ジャーナリスト、豊郷国際空港や豊郷市役所の職員、空港反対同盟、そして千年家の人々の思い・思惑を追っていく。果たして、虚実ないまぜの世界の行き着く先とは?
名前こそ違うが、成田空港を巡る三里塚闘争がイメージされているのは明らか。さらには、東京オリンピック・マラソン競技の銅メダリスト・出雲幸太郎という、円谷幸吉としか思えない人物も登場。
戯曲を読む限り社会派作品といった雰囲気で、江戸の要素がどこに入るのかもわからないのだが、エンターテインメント性の高い演出を得意とする堀越が、どのような世界に仕上げるのか気になるところ。
音楽面では、あやめ十八番では初めて金管楽器ユーフォニアムを使用したり、ペール缶と民族楽器を組み合わせたドラムセットを作ったりと、さまざまな試みがなされているよう。臨場感溢れるオリンピックのマーチなどに加え、2つの時代それぞれの空気をどう表現するか、興味は尽きない。
あやめ十八番の新たな代表作誕生となるか。劇場で、あるいは映像配信で、確かめてほしい。
日時: 2020年11月12日(木)〜16日(月)
12日(木)19:00★
13日(金)14:00/19:00
14日(土)14:00/19:00★
15日(日)14:00/19:00
16日(月)14:00
★:舞台映像配信回
会場: 吉祥寺シアター
チケット(全席指定・税込)
一般 ¥4,300
各種割引 ※枚数限定/要証明
成田空港周辺割引(今作のモデルとなる成田空港近隣地域の在住者限定の割引 対象地域:千葉県成田市、香取市、富里市、佐倉市、印西市、酒々井町、多古町、芝山町):¥3,500
学生割引:¥2,500
障がい者割引:¥1,000
外国人割引:¥1,000
高校生以下:無料 (一人一回のみ/未就学児童入場不可)
公演チケットの詳細はこちらから
映像配信視聴チケット: 2,800円
舞台配信を、スマートフォン・PCから視聴可能。
詳細はこちらから
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