読みもの
2023.08.24

弁護士・阿友子の ミュンヘンからの音楽便り#3 ニュルンベルクの夢跡

連載「インターネットと音楽についての法律相談室」でおなじみの弁護士、橋本阿友子さんが、ミュンヘンでの研究生活や、社会人として音楽を学ぶ意義を考えながら徒然なるままに思いの丈を綴る連載。
第3回は、音楽祭の帰りに立ち寄ったニュルンベルクでの少しひんやりとした体験談をお届けします。

文・写真
橋本阿友子
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橋本阿友子 弁護士・骨董通り法律事務所

京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。ベーカー&マッケンジー法律事務所を経て、2017年3月より骨董通り法律事務所に加入。東京藝術大学利益相反アドバイザー、神戸...

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ヨーロッパの夏といえば、音楽祭。今年はすでに、私にとって20年ぶりとなるザルツブルク音楽祭とキームゼー近くの別荘地での演奏会に行く予定を立てていたのですが、それに先立ち、友人からお誘いを受けて、念願のバイロイト音楽祭に行ってきました。

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頑張ってノースリーブを着ていますが、実は外気10度ぐらい。7月です。

バイロイト音楽祭は、ワーグナーが自作の《ニーベルングの指環》の上演のために創設した、彼の楽劇が上演される音楽祭です。出演者は、招待状が届かなければオーディションすら受けられない。そんな噂に違わず、バイロイトでは“選ばれし者”たちによる、筆舌に尽くし難い夢のような名演に浸りましたが、ミュンヘンへの帰路で立ち寄ったニュルンベルクでの体験も、それを凌駕するほどのインパクトがありました。

祝祭劇場内。この日の演目は《ワルキューレ》。

ニュルンベルクは、歴代の神聖ローマ皇帝が好んだニュルンベルク城を擁する、中世に栄えた美しい街です。音楽家としてはワーグナーの《ニュルンベルクのマイスタージンガー》を彷彿とさせられますが、法律家としてはユダヤ人の公民権を剥奪したニュルンベルク法と、戦後は逆に連合国がナチスを裁いた軍事裁判、少なくともこの2つを想起せざるを得ません。バイロイトもナチスの要所でしたが、ニュルンベルクはナチスがその活動の中心とした都市であり、現在でも随所に暗い影を落としています。

ワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》

ニュルンベルクの街並み。90%が第二次世界大戦で破壊されたそう。

現在、軍事裁判が行なわれた法廷はミュージアムの中で再現されており、当時の様子を垣間見ることができます。ドイツの戦争“犯罪”を裁いたこの国際裁判については、その根拠や手続きに関して疑問も呈されており、法曹の立場から考えさせられることも多いです。

ミュージアム見学のあとは、さらなるナチスの痕跡を辿るべく南へ。すでに18時前だったため、目的地の党大会会場文書センターは閉館していましたが、館前にいた男性に示されて行きついた場所は、馬蹄形のレンガ造りの塀に囲まれた遺址。五感以上の感覚に敏感ではない私ですが、この広場に足を踏み入れたとたん鳥肌が立ち、居ても立ってもいられなくなり、すぐにそこを後にしました。

なんと、友人も、同じ感覚を味わったようです……。

翌朝、覚えのない悪寒に苛まれることに。私が鳥肌に見舞われた広場は、未完成に終わった議会ホールの中庭だったはず。それにも拘わらず、その後調子を崩し寝込んだのは、晩秋を思わせる寒さのバイロイトで肩を出したからか。はたまた、当時そこにいた群衆の怨念に魅入られたからか——。

遺址と書きましたが、建物の一部は文化施設に使われる計画だそう。すでに一部はニュルンベルガー・シンフォニカ―が利用しているようです。
文・写真
橋本阿友子
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橋本阿友子 弁護士・骨董通り法律事務所

京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。ベーカー&マッケンジー法律事務所を経て、2017年3月より骨董通り法律事務所に加入。東京藝術大学利益相反アドバイザー、神戸...

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