音楽ビジネスをめざす音大生に必要な自己プロデュース力と広い学び
近年変わりゆく音大のなかで、音楽家や学者・教育者をめざすのではなく、入学時から音楽ビジネスをめざす人も増えてきました。そんな音大生は、どのようなことを心掛ければよいのでしょうか?
*記事は内容の更新を行っている場合もありますが、基本的には上記日付時点での情報となりますのでご注意ください。
執筆:堀内亮(音楽大学講師)、荒木淑子(音楽ライター)、各編集グループスタッフ。音楽之友社および『音楽大学・学校案内』編集グループは、1958年に年度刊行書籍『音楽大...
求められる自己プロデュース能力
2020年、新型コロナウィルス感染症により音楽界は未曾有の逆風に見舞われました。公演中止が相次ぐなか、2020年に話題を呼んだ動画配信は、世界の一流オーケストラや国際的音楽祭も国内在住のソリストも、いずれも確かな実力と企画力を兼ね備えたものでした。
2020年の経験から音楽家が得た教訓はとても大切なことです。一言でいえば、実力は言うに及ばず、それに加えて時代の変化に対応できる自己プロデュース力が求められるということです。これは従来型の専攻生にも新しいタイプの専攻生にも共通して言えることでしょう。
専門分野の実力は日々の絶え間ない努力が必要です。いっぽう自己プロデュース力は言ってみれば音楽家である前に「一人のクリエイターとしての総合的な自分磨きをどうすればよいか」、という問題につながっています。
新しい専攻でも、音楽ビジネス、音楽関連産業で目覚ましい活躍をする教授陣を揃えていることが多く、その華々しい活躍だけが宣伝されがちです。しかし、そういった人材に共通しているのは視野の広さ、思考の柔軟さ、謙虚に学ぶ姿勢です。
新しい流行を追っているように見えて実は過去の音楽、古典作品をよく知っている、音楽以外の世界にも造詣が深い、例えば文学、美術や歴史に精通しているなど音楽以外の広い世界を知る人こそが、きびしい業界で生き残っているのではないでしょうか。
広い学びが自分を助けてくれる
要は「急がば回れ」なのです。時代の最先端を目指すのであれば、古い時代について学ぶ必要があります。学生時代に、バロック音楽をはじめとするクラシック音楽への理解を深める、古楽器や民族楽器、邦楽器の授業を受講してみる、など一見、CM、ゲーム、アニメ、映画の音楽に関係がないような分野の学びのなかに、自分自身の殻や限界を破る突破口があるのです。自分にとって縁がないと考える音楽にこそ近づく必要があります。
そして未知の音楽を学ぶことができるのは音大生の特権です。すでに十分知っている音楽のなかで充足している限り、クリエイターとして生き残っていくことは難しいと言えます。いかなるオファーに対しても応えることができ、上質の作品を提供する、そのための基礎を音大で作ってほしいと思います。
社会に出てからでは学べないことをフル活用しよう
作曲分野と並んで新設が相次ぐ音楽ビジネス、マネジメント系専攻についても、同様のことが言えます。業界の知識については後からでも学べますが、大学のなかでしか学べないことに力を入れるべきでしょう。
卒業してしまえば、大学で開講されている多種多様な演奏系科目、それもすぐれた指導陣と設備、楽器を揃えた贅沢な環境は望めません。楽譜や音楽書が充実した図書館や付属施設もそのありがたみは卒業してから気づくことになります。
また、周囲には演奏家を目指す若き音楽家たちがいます。キャンパス内での交友関係を通して、音楽家とはどういう人たちなのか身近に知ることができます。一般大学卒業生もライバルとなるマネジメントの世界に挑戦するなら、音大が長い年月と資金をかけて蓄積してきた人的資源を含む音楽資源をフルに活用しない手はありません。
変わる音大のその先に未来の音楽界があります。その音楽界を自分たちが豊かな世界に変えていく、そのような気概を持つことを強く求められているのがこれからの音大生です。
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